欧州旅行で買い物をしたことがあるなら、出国時に付加価値税(VAT)が払い戻されることをご存知だろう。VATは居住者のみが課税されるからだ。ただVATの払い戻しを実際に申請するかどうかは、手続きが簡単かどうかによる。普通、払い戻し手続きは紙ベースなので、かなり面倒だ。Inovat(イノバット)は、手続きをシンプルかつデジタル化して煩わしさから解放し、本来受けられる払い戻しに扉を開く。
Inovatは、モバイルまたはデスクトップのアプリでこれを実現する。光学式文字認識(OCR)と機械学習でレシートの写真を読み取り、購入額に対するVATの金額を計算する。空港に置いてあるような、税関職員にまたはオンラインで提出する必要書類も準備してくれる。
Inovatの共同創業者であるIlya Melkumov(イリヤ・メルクモフ)氏とSonya Baranova(ソーニャ・バラノバ)氏がアイデアを思いついた。両氏はそれぞれロシア国民とウクライナ国民として、欧州旅行で買い物のたびにVATの払い戻しの問題に直面してきた。プロのeスポーツプレーヤーであるメルクモフ氏は、オンラインでゲームをしているときにInovatのCTOであるIgor Titov(イゴール・ティトフ)氏に出会った。
メルクモフ氏とバラノバ氏は、時代遅れの手続きをテクノロジーの力で改善できると考えた。現状では、払い戻し代行に高額の手数料がかかったり、レシートの管理や紙の申請書類の準備に多くの手作業を必要とする。金融業界などの分野でさまざまな改善や合理化に利用されているテクノロジーが使えると考えたのだ。両氏は利用可能なソリューションを洗い出し、税金払い戻しの分野で利用されていないものを見つけた。そしてすぐに実際のプロダクトの構築に取りかかった。
「7月に集まり、9月にはプロダクトの最初のバージョンが出来上がり、テストを始めた」とメルクモフ氏はインタビューで筆者に語った。「それから、一部の機能の自動化に取りかかった。スケーラビリティを解決する必要もあった。スケーラビリティを保ちながら、レシートから情報をスキャン・抽出する方法を考える必要があった」。
そこでティトフ氏が登場し、銀行などのクライアント向けの仕事の経験を生かし、技術面から実現を可能にした。開発したアプリは使いやすく、苦痛を伴う複雑なプロセスを、買い物のとき写真を撮るのを忘れないようにするだけの簡単なものに変えた。従来の方法に比べて最大50%も多くの払い戻しをユーザーにもたらすことができるという。
「店でレシートを受け取ったら写真を撮る」とメルクモフ氏は説明した。「アプリがレシートを分析しデジタルフォームを作る。買い物で受け取ったすべてのレシートがQRコードにリンクされた1つのデジタルフォームに集約される。税関職員が、または機械でスキャンすれば、すぐに手続きできる」。
Inovatは現在、英国に専念しており、プロダクトは英国での払い戻し手続き専用に設計されている。メルクモフ氏は、この市場だけでも43億ドル(約4700億円)に相当するため、今のところは英国市場だけでも十分だと考えている。だが同氏は、その先の拡大にしっかりと目を向けていると付け加えた。
「欧州市場は約200億ドル(約2兆2000億円)であり、複数の欧州政府から税金払い戻しのデジタルソリューションを開発するよう連絡を受けている」とメルクモフ氏は説明した。「我々の次のステップは、間違いなく他の欧州諸国への拡大となる」。
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)