フロリダを拠点とする海運、物流、トラックレンタル会社のRyder System(ライダーシステム)が5000万ドル(約53億円)のベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた。これは戦略的には奇妙な動きのように見えるかもしれないが、実際のところは約3年間の投資活動の集大成だ。
Ryderが独自のベンチャーファンドを創設する動きは、新型コロナウイルスの蔓延をスタートアップ投資を始める機会として利用する米国企業の間でもトレンドとなっている。多くの人が仕事を見つけるのに苦労しているにもかかわらずだ。
同社の幹部によると、これはRyderのような企業にとって不可欠なものだという。同社はかつて、最高でも60億ドル(約6300億円)という「静かで小さな業界」で新しいテクノロジーへの投資を経験してきた。Excelスプレッドシートが最先端の技術だと考えられてきた業界で、(同社のファンド規模は)新しい技術開発を促進する非常に大きな金額だ。
揺るぎない基盤を持つ企業を成り上がり者がバックミラーに捉える前に、技術革新で先を行く必要性を認識しているのはRyder Systemだけではない。
業界分析を提供するGlobal Corporate Venturingのデータによると、2020年上半期に368社がスタートアップ企業に最初の投資を行った。これは20年前の最後の企業投資ブームとその崩壊からの大きな変化だ。その際、テクノロジー業界に最後に投資し始めたのは大企業だったが、資金を最初に引き上げたのも大企業だった。
また、コーポレートベンチャー活動へ初めて取り組む投資家の数は、企業による投資が以前盛り上がった2019年第3四半期に、177社が新たにベンチャーキャピタルに投資を行って以来の急増で、ほぼ2倍となった。
Ryder Systemは、ベンチャーキャピタルのAutotech Venturesおよび企業のイノベーションを支援するアクセラレーターであるPlug and Playとリミテッドパートナーとして協力してきたが、5000万ドル(約53億円)の新ファンドは、ベンチャーに向けた最初の直接投資ビークルとなる。
「私達は取締役会とCEOから、業界が直面するディスラプションに目を向け始め、航海する方法をよりよく理解するための戦略的指示を受けました」。Ryderのエグゼクティブバイスプレジデント兼新製品開発責任者であるKaren Jones(カレン・ジョーンズ)氏は述べた。「誰もがブロックチェーン、自動化、電気自動車、自動運転車、アセットシェアリングの概要についての読みものに目を通していました」。
輸送と物流は歴史的にテクノロジー業界とあまり接点がなかった。だがグローバルにつながったモバイルデバイス、改良され小型化されたセンシング技術、車の自動運転化、顧客からの配達需要の増加により、ジョーンズによると「静かで小さな業界」を一気に対応へと急き立てた。
「我々のこの限られた業界で、利用可能なテクノロジーにより業界に破壊をもたらす絶好の機会が訪れました」とジョーンズは述べた。「そして当社がその破壊に直面するなら、その最前列に立ちたいと思います。それを脅威ではなく機会に変えたいと思います」。
Ryderでは可能な限り柔軟性のある投資構造を構築することに重点が置かれているようだ。
Ryderのベンチャーキャピタルはディールへのコミットメントに上限を設けていない。唯一の確固たるコミットメントは今後5年間で5000万ドル(約53億円)を使うことを目指しているということだ。
ジョーンズ氏によると、同社はラストワンマイル配送、アセットシェアリング、電気自動車、自動運転車、次世代のデータ、分析、機械学習などのテクノロジーに投資する可能性が高いという。しかし、そういった分野にさえ、Ryderは自社(の投資先)を制限したくないと考えている。
「当社は他の考えにも思いを巡らせます。おそらく当社はすべてについて考え抜いたとはいえません」とジョーンズ氏は語った。
ジョーンズ氏とともに働く会社の投資チームには他に4人いる。フリート管理の最高技術責任者であるRich Mohr(リッチ・モール)氏。同社のサプライチェーンビジネスの最高技術責任者であるKendra Philips(ケンドラ・フィリップス)氏。投資家向け広報および企業戦略担当副社長のBob Brunn(ボブ・ブラン)氏。同社の財務責任者を務めるMike Plasencia(マイク・プラセンシア)氏だ。
ジョーンズ氏によると、彼らはCEOとCFOに報告し、さまざまな事業部門の社長と潜在的なポートフォリオ投資について話し合う予定だ。
ポートフォリオ内の企業は、同社にとっての潜在的な戦略的価値と経済的なリターンの可能性の両方で判断されるとジョーンズ氏は説明した。
スタートアップにとってはRyder Systemの5万人の顧客にアクセスする可能性が生まれることを意味する。「(Ryderが)スタートアップの技術をテストしたり証明したりする場を提供できること、(スタートアップが)Ryderの効率性改善をサポートできることは、双方にとって大きなメリットがあります」とジョーンズ氏は述べている。
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(翻訳:Mizoguchi)