独フィンテック企業Wirecardの前CEOが詐欺容疑で逮捕、約2240億円が不明に

ドイツ警察はミュンヘン拠点のフィンテック企業Wirecard(ワイヤーカード)の前CEOであるMarkus Braun(マークス・ブラウン)氏を詐欺疑いで逮捕した。ミュンヘンの検察当局が現地時間6月23日に発表した。

ブラウン容疑者は同日出頭し、Wirecardは同社が決算で報告した21億ドル(約2240億円)が不明になっていることを認めた。ブラウン容疑者は保釈金500万ユーロ(約6億円)で釈放された。

逮捕発表の3日前に、ブラウン容疑者は10年以上率いてきた同社のCEOを辞任し、4日前にはWirecardは監査法人Ernst & Youngから21億ドルが不明だと指摘されたことを発表していた。

同社は、ベルリン拠点のInfoGenie(インフォジニー)との逆さ合併を通じて2005年に上場し、当時はドイツ国内で高い評価を得ているフィンテック企業の1社だった。Wirecardはアジアマーケットへの進出の費用を賄うために、2019年4月にSoftbank(ソフトバンク)から10億ドル(約1065億円)の出資を受けた。ただ、Financial TimesのようなメディアはWirecardのアジア事業を疑問視していた

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2019年1月以来、Financial TimesはWirecardの胡散臭いビジネス手法について何回もスクープした

そしていま、Wirecardの監査委員会は「信託銀行口座にあるはずだった19億ユーロ(約2290億円)が存在しない」という事実に直面していて、Softbankは他社のスキャンダルにまたも引きずり込まれている。

WirecardはすでにCOOのJan Marsalek(ヤン・マーサレク)氏、そして2002年から同社でCTOとCEOを務めたブラウン容疑者を解雇した。

Wirecardの問題はFinancial Timesが報じるようになってから注目を集めていた。そして6月18日に同社は4回目となる2019年会計年度決算の非公表を明らかにした。監査人のErnst & Youngが不正会計を指摘し、KPMGによる独立監査調査でも結論が出なかったためだ。

Wirecardのオペレーションにはシンガポールに拠点を置くアジア事業部門が含まれる。Softbankの資金はアジア事業部門の拡大と、Citigroupのプリペイドカードサービス事業の買収を通じて取り組む米国事業に使われる予定だった。

事業拡大はWirecardの株価を大きく押し上げ、同社をドイツテック業界の寵児に仕立てた。しかし残念なことに、同社が計上した評価益はフィクションのようなものだった。

同社は循環取引で売上高を水増しした。不正取引は地元の監査人の精密な調査を回避し、正当なものと見せかけるためにドイツ国外で行われたようだ。Financial Timesの報道によると、同社はまたドバイとダブリンにある子会社の売上高と利益も水増しした。

これらすべてが明るみに出たことで、かなりの額だったWirecardのバリュエーションは急減した。かつて270億ドル(約2兆9000億円)もあった価値は6月23日時点で18億ドル(約1900億円)となった。

Wirecardの没落はまたもSoftBankと孫正義氏の評判を落とすものとなる。Wirecardへの投資はSoftBank従業員とアブダビの政府系ファンドMubadala(ムバダラ)が融通したコンバーチブルノートによるもので、この損失はSoftBankにとって新たな失策となる。

「この取引はすべてにおいて企業ガバナンスのお手本と呼べるものではない」とシンガポールのUnited First Partnersでアジア研究の責任者を務めるJustin Tang(ジャスティン・タン)氏は先週Bloombergに語った。「Wirecardの件はビジョンファンドの損失に対処している孫氏にとって最も避けたいものだろう」。

画像クレジット:Christof STACHE/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

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