トランプ大統領がITエンジニアも多く利用するH-1Bビザの新規発給を一時停止する大統領令に署名

Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領は、高度な技術を持つ労働者のためのH-1Bビザのような就労ビザのプログラムを一時停止する大統領令に署名した(White Houseリリース)。これはすでに技術系人材の不足に悩んでいるテック企業にとって、外国人労働者確保の大事なソースを失うことを意味する。

米国内にいるビザ保持者やすでにビザを受け取った申込者は対象外となる。ビザ新規発給の規制は2020年末まで続き、米国の新会計年度が始まる10月に新規ビザを発行する政府の通常プロセスは混乱することになりそうだ。

トランプ政権の高官は、ビザ新規発給の一時停止は米国の雇用を守るためだとWall Street Journalに語った。しかしテック業界の幹部たちはビザの制限はテック業界における米国の競争力を損なうとこれまで再三警告を発してきた。テック業界は米国の経済成長のエンジンであり、戦略かつ財政面でも大きな存在だ。

移民の抑制によって、企業は高度なテック人材を獲得・維持するためにオペレーションを米国外に移さざるを得なくなるかもしれない、とテック業界の代表は指摘する。

「グローバルパンデミックの間も、テック業界はフードデリバリーサービスやテレヘルスケア、コラボ的なビジネスソリューション、家族や友人同士が連絡を取り合う方法を提供することで、米国人が互いにつながっていられるように取り組んできた」とテック業界団体TechNetの最高責任者Linda Moore(リンダ・ムーア)氏は声明で述べた。「今後もテクノロジーは経済再建で必要不可欠な存在であり続ける。大統領令は、企業が既存の労働力と新規雇用の従業員を最善の方法で展開する方法を決定する能力を阻害するものだ。これはイノベーションの停滞を招き、米国が前代未聞の出来事から復活するのをサポートしようというテック業界の取り組みを邪魔している」。

報道によると、当局はこうした新たな規制が2020年末まで続き、トランプ大統領が2020年4月に発効させた移住禁止を拡大する。移住禁止措置では米国市民の家族が移住できなくなり、米国への移住を模索する高度な技術を持つ労働者向けのビザの数を大幅に削減した。

Wall Street Journalに政府高官が示した予測では、移住規制の拡大の結果、約52万5000人が米国に入国できなくなる。ここには、4月以降米国入国を禁止されている17万人の永住権保持者も含まれる。トランプ政権の高官はこの措置について、失業している米国人に50万の雇用が確保できる「米国第一復興」だと表現した。

テック企業の経営者たちはこのビザ発給一時停止に対し反発している。「すべてのH-1Bビザの発給禁止は、私のようなCEOが移民を受け入れているカナダのような国にオフィスを開設し、雇用しなければならないことを意味する。今回のビザ発給停止は道徳的に間違っていて、経済的には馬鹿な行為だ」とテクノロジースタートアップSkyflowのCEOであるAnshu Sharma(アンシュ・シャーマ)氏はツイートした。

投資家らも今回の決定が米国の競争力に及ぼすインパクトについて憤慨している。

「トランプ政権が認識しているかどうかはわからないが、米国のイノベーションにとってかなり不利な状況を作り出している。我々のポートフォリオにある最もイノベーティブでインパクトのある企業や、そうした企業で働く従業員の多くがH-1Bビザ保持者としてスタートする」とテック投資ファンドUrban.usの共同創業者であるStonly Baptiste(ストンリー・バプティステ)氏は話した。「文字通り、H-1Bなしにはポートフォリオは築けなかった。しかも我々は移民にフォーカスしたファンドではない」。

また今回H-2BやJ-1、L-1のビザも規制の対象となる。H-2Bは短期の非農業季節労働向け、J-1はキャンプカウンセラーやオペア(外国にホームステイしながら子供の面倒をみる人のこと)向け、L-1は企業内転勤向けのビザだ。

「米国企業のための人材を制限することで、米政府は強固で防御可能な組織を構築する能力を阻害している」とヘルスケア専門のスタートアップElektra Labs(エレクトラ・ラボ)のCEOであるAndy Coravos(アンディ・コラボス)氏はTechCrunchに寄せたメッセージに書いた。「外国人労働者へのビザ発給を一時停止するというトランプ政権の大統領令は恐れがベースになっているだけでなく、我々のコミュニティ内で恐れを永続させるものだ。我々の社会にとって利益にはならない」。

ヘルスケアワーカー、新型コロナウイルス(COVID-19)研究者、食品供給業界ワーカーはビザ発給一時停止の対象外となる。

ビザ発給ルールの厳格化に反対しているのはテクノロジー業界の経営者たちだけではない。サウスカロライナ選出の重鎮の上院議員Lindsey Graham(リンゼイ・グラハム)氏、テキサス州選出の上院議員John Cornyn(ジョン・コーニン)氏を含む共和党の上院議員9人のグループは5月27日に共同声明を出し、噂のあった就労ビザ規制について再考するよう大統領に請願していた。

「外国人労働者は米国の雇用を奪っておらず、米国のビジネスを押し上げるために必要だ」と書いている。

画像クレジット:Alex Wong / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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