独立系ベンチャーキャピタルのANRIは10月21日、新ファンドとなる4号ファンド(ANRI4号投資事業有限責任組合員)を設立したことを明らかにした。
同ファンドでは現時点で国内大手機関投資家などから約110億円を集めていて、最終的には総額で200億円規模まで拡大する計画。これまで通りシード期のスタートアップへの投資を中心にしつつ、積極的なフォローオンでグロース期まで一貫して起業家をサポートし、日本から大きな産業を創出することを目指すという。
具体的には1社あたり最大20億円まで投資をするほか、LPである機関投資家とも連携しながらそれ以降もサポートする構想とのこと。みずほ銀行、第一生命、ミクシィ、グリー、アサヒグループホールディングス、その他企業年金・金融法人等を含む国内大手機関投資家などがLPとして名を連ね、機関投資家比率は7割を超える。
投資領域は3号ファンドと同じくインターネット領域とディープテック領域が中心。渋谷と本郷三丁目にてインキュベーション施設を運営し、アイデアレベルのものも含めて創業期から近い距離でスタートアップを支援する。現在は投資メンバー6名+ミドルバック担当1名の体制だが、チームメンバーの拡充や外部顧問/スペシャリストの拡充も進めていくようだ。
今回TechCrunch JapanではANRIの3人のジェネラルパートナー(佐俣アンリ氏、鮫島昌弘氏、河野純一郎氏)に話を聞く機会を得たので、彼らの話も踏まえて新ファンドの方向性を紹介したい。
1社あたり最大20億円を投資、テーマは積極的なフォローオン
ANRIでは2012年に設立した1号ファンド以降、3号ファンドまでで累計約100億円を運用し、110社以上へ出資してきた(3号ファンド単体で63社に投資完了済み)。
今年7月に上場したツクルバや昨年上場したラクスル、PKSHA Technologyの子会社となったSapeetのほか、直近ではGracia(TANP)、one visa、アル、クラス、ミラティブなどのスタートアップへ投資を実行。量子コンピュータ関連のJijやQunaSys、尿検査によるがんの早期発見を目指すIcariaなどディープテック領域への支援にも取り組んでいる。
今回の4号ファンドではこれまでの投資方針を継続しつつ、起業家の大きなチャレンジをより継続的に支援することを目指したもの。佐俣氏も「積極的なフォローオン」が1つのテーマになるという。
「(急速に成長するスタートアップに投資をする中で)フォローオンをしっかりやりきれていなかったことに課題感を持っていた。ここ数年スタートアップの進化の方がVCの進化よりも早く、スタートアップがどんどん目指せる規模が大きくなる一方で日本のVCが支えきれなくなり、そこをCVCや新たなVCがフォローしてきた」
「独立系VCとして起業家の成長をもっと先まで支えたいという思いが強く、たとえばこれまで(ANRIや河野氏が前職のITV時代に)支援してきたラクスルやメルカリ、ミラティブなどの企業を『リード投資家として責任ある立場でフォローオンするとしたらどれくらい必要か』を考えた結果、20億円くらいは必要だろうということで今回のファンド規模になっている」(佐俣氏)
1社あたりの投資額については、グロービス・キャピタル・パートナーズが4月に発表したファンドが最大50億円を投資する方針を掲げる。ANRIの場合は単体では20億円が最大となるが、LPの機関投資家と密に連携を取ることで(ANRIが出資した次のラウンドでLPが直接投資をするなど)、それ以降のサポートをしていきたいということだった。
また4号ファンドでは1社あたりの投資額が拡大するだけでなく、支援の幅も広げていく予定だ。6月に河野氏がジョインした際にも紹介した通り、シリーズAラウンドからの投資もその1つ。またシリアルアントレプレナーのネクストチャレンジや、ある程度大きな資本を必要とする事業に対しては早い段階から必要に応じて数億円規模の出資も行っていく。
上述したアルやミラティブはまさにそのケース。「シードVCとしての意志決定の速さとシリーズA・Bレベルの資金供給の両立が1つのポイント。具体的な社名は明かせないが先日も3億円の出資を決定した。これを3人のGPで極めて早いスピードで決められる」(河野氏)のは大きな特徴だ。
「アメリカでもファンドの大型化にともないシードをやめてシリーズA・Bへと移行していくVCが出てくる中で、Andreessen Horowitzなどはシードから継続してフォローオンしながら実績を上げてきた。自分たちもシードVCとしてのDNAを持ち続け、起業初期の大変なところから一貫して支援していきたい」(鮫島氏)
一方で“救済的なフォローオン”やスピードと数だけを重視した“バラマキ”投資はやらない。フォローオンに関しては前職でシリーズA・B投資の経験が豊富な河野氏を中心に、シード期とそれ以降のラウンドではそれぞれ別の投資基準を設定して判断をする。
河野氏は「仕組み化されたシードVC」という表現もしていたけれど、LPの構成やファンドサイズ、ガバナンス体制などはこれまで以上にトラディショナルなVCに近い体制になった一方で、シードVCとしての良さも保持していきたいという。
シードVCとしてのDNAを残しつつ、より大きなチャレンジを支援
投資領域についてはインターネットセクターと比べて回収期間が長くなることも想定されるディープテックにも引き続き積極的に投資をする。
3号ファンドでは鮫島氏を中心に、大学発の技術を用いたハイテクスタートアップに対する支援を強化。上述したQunaSysやIcariaのように投資テーマとなる技術を発掘し、ネット系企業での勤務経験がある起業家や、ネット系の事業で独立を考えていた起業家と結びつけるような事例もある。
同一ファンドからインターネット領域とディープテック領域双方に投資支援をしてきたのはANRIの1つの特徴。4号ファンドでは2つの領域の融合、特に「ディープテックスタートアップへネット系スタートアップの経営知見を展開していくこと」に取り組みたいという。
「日本ではスタートアップもそれを支援するVCも2つの領域で分かれてしまっている側面があった。世界を見ればFounders FundのようにSaaSに投資しつつ、創薬のような重たい領域もしっかり支援するファンドも珍しくない。たとえば大学発ベンチャーの中にはIT系のスタートアップに比べて(スタートアップ的な)経営知見のキャッチアップが遅れていることも多い。今後4号ファンドでは双方の融合をさらに加速させていきたい」(鮫島氏)
今回の4号ファンドはANRIにとって過去最大規模のサイズになる。6月に取材した際にも河野氏を仲間に加えてより高いレベルのファンドを目指すという話もあった。ただ、だからといってユニコーンになる企業だけに投資をするわけでもなければ、シリアルアントレプレナーばかりに投資をするわけでもない。
これまで通り若い起業家の最初の挑戦も応援するし、ディープテックの難しい領域に挑むスタートアップも支援する。今回取材をする中で「シードVCとしての哲学やDNAは変わらず持ち続けたい」という話は何度も出てきた言葉だった。
「国としても、VCの中でも『ユニコーンを作る』という考えが広まりつつある。ただ自分が過去に投資をしてその後大きな実績を残した起業家を見ても、最初の段階からユニコーンを目指せるレベルにあったかというと、正直そうとは限らない。事業を作る中で大きく成長し、素晴らしい起業家になっていったメンバーも多い」
「『ユニコーンしか狙っちゃダメ』という風潮が行き過ぎてしまうと、将来的にユニコーンを作れるような人も育てられなくなってしまうし、大きな市場を狙うSaaS企業にひたすら投資をするしかないということにもなりかねない。僕自身はスタートアップのエコシステムはそういうものではないと思っていて、だからこそ挑戦する起業家にとって1番最初の機会を提供するという自分たちのDNAは変わらず大事にしていきたい」(佐俣氏)