企業向けのVR/AR/MRコンテンツを開発するSynamonは11月30日、ジェネシア・ベンチャーズ、KLab Venture Partners、BEENEXT、ABBALabを引受先とする第三者割当増資を実施したと発表した。調達金額は5000万円で、これが同社にとって初めての外部調達となる。
Synamonは企業向けのVR空間構築ソリューション「NEUTRANS」を開発するスタートアップだ。これは企業向けVRコンテンツの土台となるようなもので、1つのVR空間に複数人が同時にアクセスできることや、音声でコミュニケーションをとる、空間にあるモノを掴む、動画を表示するといった各種機能をベースシステムとして提供している。
現在、彼らの主なビジネスはNEUTRANSを土台にした企業向けのVRコンテンツ開発することだ。取材の際、NEUTRANSを利用したVRコンテンツの一例として見せてくれたのが旅行会社向けのVR接客ルーム。この空間では顧客と営業員が同時接続して音声でコミュニケーションがとれるほか、営業用パンフレットをVR空間の中で見たり、現地で撮った360度動画に入り込んで旅の雰囲気を味わうこともできる。
最大の特徴はリアルな操作性
TechCrunch Japanの読者であれば、複数人が同時接続するVR空間と聞いて「cluster.」の名前が思い浮かぶ人もいるかもしれない。cluster.とNEUTRANSは両方とも、複数人が入り込むVR空間を提供するという点は同じだ。一方でSynamon代表取締役の武樋恒氏は、NEUTRANS独自の特徴について次のように語る。
「cluster.は1000人規模の同時接続が特徴であるように思うが、NEUTRANSは空間内での操作性に力を入れている。同時接続できるのは20人程度だが、モノを掴んだりするなど操作のリアルさが特徴だ。また、“VR酔い”しないようにFPS(フレームレート)を90程度と高く保つことにも力を入れた」(武樋氏)
僕も実際にViveのHMDを装着して試してみたのだけれど、なるほど、モノを掴んだり投げたりするときのリアルさには感動した。VR空間にあるボールをつかんで投げたときの跳ね返りは現実世界での物理運動のそれに限りなく近いし、積み木を机の端まで少しづつ押していくと、グラグラとゆっくり落ちていく。より細かな操作まで可能になれば、飛行機や自動車の修理シュミレーションとしても使えそうだ。
「体験したユーザーの中には『思ったより普通だね』というフィードバックをくれる人もいる。試してみる前はゲームのようなものだろうと思っていたが、NEUTRANSでは現実と同じような感覚だ、という意味で頂いた言葉だった」(武樋氏)
市場自体を作ることが先決
このようなVR空間を顧客のニーズに沿ってカスタマイズするのがSynamonのビジネスだが、NEUTRANSという土台があるからこそ開発期間も短く、平均して1ヶ月でプロダクトを仕上げることができるという。先ほどの旅行会社向けVR空間を例にすると、開発料金は300〜500万円だそうだ。また、来年春ごろからは特に引き合いの強かった「VR会議室」を完成品として提供する。
でも、この値段で儲かるのかと聞いてみると、やはり利益は出ないのだそう。
「企業にVRコンテンツを導入してもらうためには、まずは市場自体を作る必要がある。まずは使ってもらうことが重要だ。一度使って貰えれば、その後のカスタマイズなどで継続的な収入に繋がる可能性もある。その意味でいえば、他のVRスタートアップはライバルではあるが敵ではない。一緒にVR市場を大きくしていく仲間だと思っている」(武樋氏)
今回調達した資金を利用して、Synamonは開発機材の拡充や人材の強化を進める。特に、Unity、C#、C++、JAVAエンジニアや3Dデザイナーなどの採用を進めていくという。
そういえば、Synamonはつい先日オフィスを五反田に移転したばかりだ。その新しいオフィスには、ユーザーが気軽にVR空間を体験できるスペースを設けるそうだから、五反田駅で降りた際にはちょっと寄り道してみてもいいかもしれない。TechCrunchを読んだと言えば、たぶん、彼らも快く受け入れてくれるだろう。