生体認証・空間認識エンジン「Liquid」の研究・開発などで知られるLiquidの関連会社で、アパレルおよびフィットネス産業に3Dスキャンニング及びSizeCloudシステムを開発・提供するSYMBOLは10月5日、シードラウンドで日鉄住金物産ならびに三菱商事ファッションより約1億円を調達したと発表した。調達した資金をもとにSYMBOLは開発態勢を強化する予定だ。
SYMBOLは2016年12月、LiquidとDEFIANT代表取締役の今井賢一氏が合弁で設立。Liquidはこれまでに生体認証に関わる技術開発の過程で3Dスキャニングの画像解析の技術を蓄積してきている。一方、SYMBOLの代表取締役を務める今井氏は2012年からアパレルとフィットネス・ボディメイクの相関関係をソリューション化して提供するべく人体の3Dスキャニングシステムの研究を開始し、アメリカ最先端の3DスキャニングベンチャーにR&D資金を投じてきた。
SYMBOLの「3D Body Scanning System」は現時点のスペックでは20基のデプスセンサーで150万点群を5秒で取得、約40秒で3Dアバター生成から全身170ヵ所の計測値抽出が可能だ。マネキンを用いたスキャンデータ比較テストでは2000年代まで浜松ホトニクス社が製造していた高性能Body Line Scanner(光学式3次元計測装置)との計測値比較では+/-5mm未満までを実現し、なおかつアテンドスタッフ不用のセルフスキャニングを実現した。
前置きが長くなったが、ここでSYMBOLが何をやっている会社なのかを説明したい。
2017年には長年神戸のスポーツ科学研究所にて人体の3Dスキャンの研究をしていたASICSがSYMBOLのシステムを旗艦店で展開する「ASICS FITNESS LAB」に導入することを決定。このASICS FITNESS LABでは3Dスキャンを用いて体形や姿勢を分析・採寸した上で専門スタッフがランニングフォームなども測定し、その結果をもとにカスタムランニングタイツをオーダーすることができる。ASICSと同様に1980年代から自社の研究所にて3Dスキャニングを駆使し女性の体形を研究してきたワコールも今後国内100拠点にてSYMBOLのシステムを導入し、サービスの中核とする次世代型店舗を開発すると発表。また、パーソナルフィットネス大手のRIZAPの一部店舗でもSYMBOLのシステムで3Dスキャンから顧客の体形のビフォーアフターおよびトレーニングメニューを分析するサービスが提供されている。
2018年はZOZOがリリースした水玉模様の身体計測スーツ「ZOZOSUIT」が大きな話題となった。なので今年は「計測したデータをもとに顧客にカスタマイズした衣類」を提供する受注生産型アパレルの“元年”とも言えるのではないか。
そんななか、SYMBOLは「アパレルの設計から生産までの『モノづくり』にも、寸法だけではなく形状を伴う精緻な人体の三次元データが必要であり、スマホカメラでの撮影や既に所有しているアパレル製品を顧客自らが採寸した情報を基にアプリ等でサイズレコメンドを行うという、導入コストの低い簡易なシステムからは一貫して距離を置き、研究・開発を続けてきた」という。
SYMBOLの共同創業者でLiquid代表取締役の久田康弘氏は、徹底的に指紋データを収集検証し生体認証によるATMシステムまで開発してきた経験則から、縮む国内アパレル市場の中で大量生産大量在庫に身動きが取れなくなっているアパレル業界に関して「最初から低コストで中途半端な精度の体形データをアプリ等で収集しても、その先の機械学習やAIの活用に向けては結局回り道をする事になる」と話した。
一方、SYMBOL代表取締役の今井氏は「アパレルのサプライチェーンの中核に位置する両株主から学ぶアパレルのモノづくりのメカニズムをしっかりと把握し、3Dスキャニングシステムを介して収集したデータに時間(加齢ないしはダイエット・トレーニング期間)という概念を加えた精緻な4次元人体体形データが、確実にサプライチェーンと連携・活用されるようなソリューションを開発する事で、悩める巨人のような現在のアパレル産業の地殻変動に大きく貢献していきたい」と語った。