一般社団法人Next Commons Lab(NCL)は3月30日、「Way-Way」プロジェクトを発表した。第1弾として、福島県の浜通りに位置する南相馬市の小高駅でプロジェクトをスタートさせ、実証実験に参画するコーディネーターを募集する。
Way-Wayは、NCLとJR東日本グループのCVCであるJR東日本スタートアップがタッグを組んで進めるプロジェクト。地域の課題を解決する人材を育成するとともに、旅をしながら地域で仕事ができるインフラや環境を構築していくのが狙いだ。
具体的には、現在は無人駅のJR東日本・小高(おだか)駅の駅舎をコミュニティの場として活用するほか、公募したコーディネーターが民間駅長を兼務。コーディネーターは、駅舎の管理や改札などの駅務をJR東日本から受託しつつ、地域に根ざした産業の発見・発掘をサポートする人材となる。なお、受託した駅務に対してコーディネーターはJR東日本から業務委託費が支払われる。これがコーディネーターの基礎的な給与となる仕組みだ。
NCLでは数年前から南相馬市に拠点を築いており、すでにNCL主導の4つの町おこしプロジェクトが進行中。これに加えてWay-Wayプロジェクトを始動させることで、都市部からの人材流入を狙う。詳細は未定だが、南相馬市への移動コストの削減を目的とした新制度の導入も検討しているという。
Way-Wayプロジェクトとは、総務省が主導する「地域おこし協力隊制度」を活用した地方ベンチャー・スタートアップ創出プログラム。地域おこし協力隊制度は期間は1~3年の有限だが、1人当たり年間400万円の活動資金を提供する制度。具体的には、報償費などが200万円のほか、移動にかかる旅費や作業道具などの消耗品、関係者間の調整などに要する事務費、定住に向けた研修などの必要経費として200万円が支給される。
NCL代表理事の林 篤志氏は、南相馬市の中心部から距離のある小高駅をWay-Wayプロジェクトの拠点とした選んだ理由について「南相馬市の小高区は、福島第一原子力発電所事故の影響によって2016年まで帰還困難区域に指定されていました。NCLは南相馬市ですでにプロジェクトを進行させていましたが、3月14日の常磐線全線運転再開に合わせて、旧小高町の中心駅だった小高駅を地域活性のシンボルにしたかった」と語る。「現在、小高駅は通学の交通手段として使っている学生が中心です。降りるだけ、乗るだけの駅ではなく地域のコミュニティを活性化する場所として発展させたい」と続ける。
NCLはローカルベンチャー・スタートアップ創出を目的として、日本国内12カ所、台湾1カ所に拠点を持っており、90以上の地域プロジェクトを支援している。具体的にはこれまで、宮崎県で有機農業、神奈川・湘南で市民食堂、岩手。遠野市でブルワリー、岩手・南三陸でワイナリーの事業を営む人材を集めて事業化してきた。
都心部や観光地とは異なり人の移動が少ない場所での起業が成功する理由を聞いたところ林氏は「事業化する際に周辺住民の方にもヒアリングを実施して地域に必要な産業を絞り込んでいます。まずは地域経済の規模に合った事業を進めて経営を安定化させる」とのこと。実際にキリンビールの協力のもとで遠野市にオープンさせたブルワリーは、地域消費のみで経営が成り立っており、現在は都内のレストランなどにビールを卸すまでになったという。
小高駅の駅舎は東日本大震災による津波には流されず現存しているが、今後は一部をリノベーションして、コーディネーターとともに都市部の人と住民をつなぐコミュニケーションのハブとして機能することを目指す。JR東日本スタートアップで代表取締役社長を務める柴田 裕氏は「JR東日本管内には多くの無人駅があります。小高駅に続いて今後はそういった無人駅に対し、Way-Wayプロジェクトを通じて活気を取り戻したい」と語る。
観光資源が少なく地区外からの人口の流入も限られている小高区。コーディネーターと地域コミュニティの力で、人々を魅了する事業が生まれることを期待したい。