科学出版の世界のディスラプトを狙うScienceMatters

Open books and icons of science. The concept of modern education, File is saved in AI10 EPS version. This illustration contains a transparency

【編集部注】著者のBérénice Magistretti はサンフランシスコに拠点を置くスイス人フリーランスライターである。彼女はサウジアラビア、スイスその他の新興市場におけるスタートアップに焦点を当てている。

科学者ならだれでも、自分の論文がCellNature、あるいはScienceに掲載されることを望む 。今日の科学の世界では、このような出版物に掲載していることが、威信や卓越性と同義であり、高い地位と憧れの賞への扉を開く。

それにもかかわらず、これらの雑誌の採択率は5から10パーセントであることが知られている。それが意味するのは、残りの90から95パーセントは論文掲載を拒否されて、アカデミックの世界で同様のインパクトは持たない他の出版先を探す事を余儀なくされるということである。

2月に発足したスイスを拠点とするスタートアップScienceMattersは、発見を共有したいと望む全ての科学者たちにオープンアクセスのパブリッシングプラットフォームを提供することによって、より民主的なシステムへの道を啓こうとしている。「私たちは、現在トップにある科学出版社たちが50年前に出版したときと、おなじやり方で出版を行おうとしているのです」と説明するのはSciencsMattersの創業者兼CEOのLawrence Rajendranだ。「かつてはそこで、厳格な発見が出版されていました、しかし今は、競争が恐ろしく激しくなってしまったので、それに加えて驚き因子(wow factor)が必要となってしまったのです」。

言い換えれば、科学者たちは、優れていてユニークな結果を発表するだけではなく、それを編集者たちを喜ばせる魅力的な物語の中に作り込まなければならない。したがって、今日の科学者達を突き動かしているのは、もはやなにか新しいものを発見しようとする好奇心ではなく、高いインパクトファクターによる称賛(すなわち、基本的にはジャーナルで出版した論文の被引用回数)なのである。

「ジャーナルのインパクトファクターは、それが出版している仕事の質を表すための唯一の指標と考えることはできないということは、繰り返し語られてきました」こう語るのはミラノ大学の副学長であるMonica Di Lucaだ。「しかし、大学や研究センターは皆この指標を研究者の雇用や昇進に使っているのが事実なのです。科学者たちでさえ、この指標を同僚の科学的なステータスを評価する際に有用な手段だと考えているのです」。

「この『出版かさもなくば死かの文化』が敵対的な環境を染み込ませ、若手研究者たちに研究仲間を出し抜く圧力をかけ、データ不正に繋がって行くのです」。

— Lawrence Rajendran, ScienceMatters創業者兼CEO

Rajendran自身が神経科学者としてポスドクの時代に、科学出版の世界を構成している、バイアスがかかって不当なシステムを直接経験している。「この『出版かさもなくば死かの文化』(publish or perish culture)が敵対的な環境を染み込ませ、若手研究者たちに研究仲間を出し抜く圧力をかけ、データ不正に繋がって行くのです」と彼は説明した。インドのマドラス周辺のスラム街出身であるこのチューリッヒ大学の教授は、全ての科学者(ハーバードの教授であろうが、ムンバイのポスドクであろうが身分は問わない)のための包括的なプラットフォームを構築することを決意した。

ScienceMattersで出版を行うためには、科学者は2つことを示す必要がある。まず第1に、研究は技術的にしっかりしたもの(すなわち、適切なコントロール下で実施されたもの)でなければならない。第2に、それは科学的なコンテクスト(すなわち神経科学、化学、物理学…)を持っていなければならない。論文が提出されると、それは著者と編集者の双方が匿名の、トリプルブラインド審査プロセスを通過する。「これによって、あらゆる形のバイアスが取り除かれます。私たちは科学だけが問題だと信じていますので」とRajendranは語る。

科学出版の世界の民主化の探求という意味で、類似したオープンアクセスプラットフォームは他にも存在する。そのうちの1つ、eLifeは、ノーベル賞受賞Randy Schekmanによって創設された。彼はCell、Nature、そしてScienceの選考基準を公然と非難していることで有名な人物だ。ガーディアンが、彼の発言を引用している :「ウォール街がボーナス文化による支配を打ち砕く必要があるように、科学界も高級雑誌による専制政治を打破しなければなりません」。やはりスイスに拠点を置くFrontierrsも、科学者のための別のオープンアクセスのパブリッシングプラットフォームである。

「私はeLifeやFrontiersのようなジャーナルが、例えばCell ReportsやNature Communicationsと本質的に違っているとは思いません」と説明するのはノーベル賞受賞者でありScienceMattersのアドバイザーボードの議長を務める、スタンフォード大学教授のTom Südhofである。「私はScienceMattersが、少なくとも部分的には、この世界に風穴を開けると考えています、物語ではなく単純に結果だけを述べる短い論文を出版することによって」。

これらの結果はMattericTM(2015年に特許取得済)というメトリックシステムに取り込まれている。これはある発見がどれほどインパクトのあるものなのかを、ネットワークベースのアルゴリズムを用いてスコアを算出するものである。「これらをまとめて、検証された科学のインターネットを創り出すことがScienceMattersのビジョンなのです」とRajendranは説明すした。CEOによれば、彼らの希望は、全ての研究論文をインデックスし、システム全体をより透明でアクセス可能なものにする、「科学のGoogle」になることである。

「私たちが必要としているのは、まさに新しいメトリックなのです」とDi Lucaは語る。「しかし、またこのメトリックが、科学者同士でお互いに共有され、学会や資金提供機関によって認知される必要もあります」。スイスのスタートアップは、最近MassChallenge Switzerlandのアクセラレーションプログラムとして受け入れられ、欧州委員会によっても認知されるなど、正しい軌道に乗っているように見える。Velux財団によって主導された38万ドルのシードラウンドのおかげで、チームは出版資金を得ることができた — 出版手数料を課す他のジャーナルとは対照的だ。

ScienceMattersは、ローンチ以降約60編の論文を出版している、それぞれが複数の著者の手によるもので、600人以上の編集者がレビュープロセスに関わっている。「現在、論文著者の出版料を負担してもらえるように各大学と交渉中です」とRajendranは説明している。既に彼らは、チューリッヒ大学ベルン大学、そしてローザンヌのスイス連邦工科大学(EPFL)とパートナーシップを結んでいる。

チームは現在、プラットフォームの範囲を拡大するための追加資金を調達することを望んでいる。「私たちは、このアイデアを信じてエグジットを急かさないVCや、インパクト投資家、慈善家、あるいは慈善団体を探しています」とCEO。「私たちは成長を続けたいと思います、そして先のことはわかりませんが、出版社の1つになることができれば良いなと思っています」。

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(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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