空撮動画だけじゃない、ドローンが開く来年の国内関連ビジネスとは?

「この1年でビジネスになるドローンビジネスは何か? 法律的課題は?」。こうした問いかけに対して日本でドローン関連ビジネスに詳しい専門家がディスカッションをするセッションが、インフィニティ・ベンチャーズ・サミット 2015 Fall Kyoto(IVS)で行われた。

IVSはネット業界の経営者が集まる招待制イベントで、年に2回行われている。今回は12月7日、8日、9日の予定で京都で開幕した。

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会場では実際に複数のドローンを操縦して空撮の様子もデモ

美しい空撮動画と6機種のデモ

初日午後に行われたセッション「IoT、ドローンの未来」には多くの聴衆が集まった。モデレーターを務めたのは「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」「プロ野球PRIDE」などのゲームで知られるコロプラ取締役副社長、千葉功太郎氏だ。

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コロプラ取締役副社長 千葉功太郎氏

ネット業界で千葉氏といえば、2015年3月にドローンに目覚めてからは趣味といえるレベルを超えてドローンを飛ばしまくっていることで知られている。前置きでも「今日は本業とは全然関係のない話で来ました」と千葉氏。といいながら、今や「慶應義塾大学SFCドローンコンソーシアム上席研究員」という肩書きも持っているそう。千葉氏はセッション会場となったホテルのボールルームで代表的なドローン6機種を次々と飛ばしながら現在市場で入手可能なドローンの特徴を紹介した。

千葉氏によれば、120グラムくらいの小さなドローンは姿勢制御などを自分で行う必要があるほか、200グラム以上が規制の対象であることもあって「練習に向いている」。一方、ある程度のサイズを超えたドローンだと気圧センサーやビジュアルポジショニング、GPSなどを使った自律姿勢制御をするために操縦自体はやりやすいという。屋外での遠隔操作飛行にも向いていて、例えばParrotのBebopならiPhone利用時に200m、専用リモコンだと2kmくらいが操作可能範囲という。

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中国発スタートアップで世界のドローン市場で70%という大きなシェアを持つDJIの「Inspire 1」だと、遠隔操縦だけでなく、カメラの制御を別の人が担当する「2オペレーター撮影」が可能といい、かなり本格的な空撮動画の制作が可能だそうだ。

日本でも急ピッチで進む法整備

セッションに登壇したDJI JAPAN代表取締役の呉韜氏によれば、日本のドローン市場、関連ビジネスの立ち上がりは遅れている。DJIは2007年に創業していて、当初は日本と米国が2大市場だったが、スマホが登場して空撮写真や動画をシェアするといった用途で米国が先行したのに対して、「日本はB2Bの利用が進んでいる。飛ばす場所がないので一般ユーザーの利用が遅れているのではないか」(呉氏)という。DJIはグローバルに市場を持っているが、日本が占める割合は5%に過ぎないという。

一方で、ちょうどいま日本では官民によるドローン関連の環境整備協議会が霞が関でスタートしたことや、この12月11日にも改正航空法が施行されて法整備が本格化することもあって、急ピッチでドローン関連ビジネスが立ち上がろうとしていると話す。

改正航空法で市街地の飛行は不可能になるほか、目視外飛行も禁止となるが、逆にこうした法整備によって「飛ばしやすくなる」。そう話すのは、すでにドローンのよる空撮ビジネスやコンサルなどを手掛けるORSO代表取締役社長の坂本義親氏だ。ORSOはこれまで全国80箇所で100台以上保有するドローンを使って1700フライトをしてきた実績があるといい、独自にテスト項目や安全確認項目を策定するなどリスク管理やマニュアル整備を進めてきた。「これまで通報されたりすることもあった。今後は届け出をした上で土地の所有権のある人に連絡し、安全飛行マニュアルにそってやっていく」ことで、すでにある空撮ビジネスの置き換えなどは特に問題がないだろうという。ORSOは安全管理や操縦テクニックなどを教程として提供していくこともビジネスにしていくそうだ。

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ORSO代表取締役社長 坂本義親氏

カメラで生育状況を把握して、ドローンで農薬散布

空撮ビジネスの代替というのは自明だし、趣味としてのドローンでも空撮が注目されてきた。では、それ以外の用途にはどういう可能性があるのだろうか?

DIJ JAPANの呉氏は、「ケータイは人間の時間軸を埋めた。ドローンは3次元の空間を埋める道具になっていく」といい、例えば「来年は農業方面で発達する」と話す。すでに無人機による農薬散布などは日本でも市場があるが、既存システムが機体だけで2000万円もするのに対して、ドローンなら100万円程度で機体が入手できる。農薬以外にも種の散布もあるし、農地の状態や農作物の生育状況をスペクトラルカメラを使った空撮によって把握して、どこに農薬を重点散布すべきなどといったことを、ドローンの自律操縦と機械学習の組み合わせで無人化していくことが、早ければ来年にもできるようになってくるだろうという。もともと先物取引での価格付けなどは衛星を使った映像解析が使われていたこともあって、すでにアメリカではドローンで生育状況を把握するという試みが始まっているそうだ。

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DJI JAPAN代表取締役 呉韜氏

このほかにも呉氏は、フィールド・スポーツでのフォームチェック用途として、日本のラグビーチームがInspire 1を利用していることや、災害時の救済ツールとしての応用があり得ることなどを紹介した。

もしもドローンにSIMカードが搭載されたら?

パネルディスカッションに参加したソラコムの玉川憲氏は、「もしドローンにSIMカードを搭載したら?」という議論を展開した。ソラコムはTechCrunch Japanでも何度かお伝えしているようにクラウド制御可能なSIMカードを提供している。

今のところSIMカードを搭載できるのは基地局のみで、空中に飛ばす飛行物体へのSIMカード搭載は法的にはNG。ただ、もしもドローンが広域のワイヤレスネットワークに繋がったら、というのは興味深い視点だ。玉川氏は100歳になる祖母が「高野山に行きたい」というのぞみを叶えてあげたいといい、ネットワークカメラをドローンに搭載して遠隔地のスマホから操作する、あるいはVRカメラを使って仮想体験するようなことが可能なのではないかと話した。

「いまのドローンは操縦者がいて2kmの範囲でしか動かせません。でもモバイル通信にはハンドオーバーという仕組みがあって、基地局から基地局へ移っていける。そうなると問題はバッテリーだけになる」。

完全自律制御と遠隔制御の両方が使えるようになったとき、ドローンを使った新しいビジネスが生まれてくるのではないかという指摘だ。ちなみに、DJI呉氏によると、ドローンのバッテリー持続時間は一般に30分程度。ガソリンを使うと1〜3時間程度なのだそうだ。

ドローンは完全無人化するのか? 群制御の応用は?

パネルセッションの終盤にモデレーターの千葉氏から興味深い論点が2つ出た。1つは、今後ドローンは完全自律制御となって操縦者がいなくなっていくのかという点。もう1つは、複数のドローンが昆虫の群れのようにグループとして行動する「群制御」にはどういう未来があるのか、という点だ。3年後や5年後にはどうなっているのだろうか。

DJIの呉氏は、そもそも障害物がない空であれば、クルマの自動運転よりも簡単だと指摘する。「クルマは2次元で逃げ道がありません。でも3次元だとやりやすいので自律飛行は今でも可能です。例えば向こうの島まで荷物を運ぼうというのは、今でもできる。でも、密集地での飛行はまだ先の話。街なか荷物配達をやるのは簡単じゃない」。

ドローンのリスク管理アセスメントなども手掛けるORSOの坂本氏は「人間も自動も両方あったほうがいい。いかなる場合でも人間がいるというように冗長化しておいたほうがいい」と話す。ドローン市場立ち上がりのカギは、安全と安心の確保というのは登壇者の一致した見解のようだった。

複数のドローンが、まるでリーダーの統率に従うかのようにフォーメーションを組んで飛行するような「群制御」の動画はTechCrunchの読者なら1度は見たことがあるだろう。この群制御にはどんな可能性があるのか?

呉氏は2つの使い方があるという。1つはドローン同士が助け合うこと。1台のドローンだと積載重量やぶら下げられる荷物の重量が決まっているが、複数のドローンを協調させることでより重たいものでも運べるという。もう1つの利用は「認識しあう」という方向性。呉氏は10年後にはドローンがビュンビュン周囲を飛び交っていて、それを現在の子どもたちが全く不思議に思わないようなインフラとなっているだろうとした上で、互いに衝突しないような制御をしているのではないかと話す。

「道路があるクルマより、ドローンは制御がしやすい。ドローンが飛びまくっている世の中になる。アメリカはすでに動き始めています。もしかすると人間が乗れるドローンが出てくるかもしれない。ただ、クルマも、車検や保険、免許など社会インフラの整備が必要で普及に時間がかった。ドローンも技術的には時間はかからないが、インフラ整備には10年ぐらい時間がかかると思う」(呉氏)

玉川氏は別の例として、ソラコムの利用顧客であるセーフキャストという放射線量を計測するプロジェクトを応用例として可能性があるのではないかと紹介する。セーフキャストは、ガイガーカウンターをばらまいて放射線マップを作る活動をしているが、原子力発電所で事故が起こった際に、多数のドローンを飛ばして近隣のマップをいち早く作るようなことが民間レベルでもできるのではないか、という。「群制御で大量に飛んでいって、たとえ何台か落ちたとしても情報を取れるようになる」。災害時の映像を異なるアングルからリアルタイムで取得するような応用例については、DJI呉氏は3年以内に実現することだと指摘した。

もともとゲームなどエンタメコンテンツでビジネスをしてきたORSOの坂本氏は、「人々の生活を豊かにしてくれるドローンの未来とは?」との問いに対して次のように話した。「ルンバが部屋の端っこで引っかかる。それをドローンが助けたら楽しいと思うんですよ。エンタメな人間なので、そういう発想をします。部屋の中で、常に周囲にいて写真を撮っているようなドローンはいいですよね。私は絶対にドローンに名前を付けると思いますね」

投稿者:

TechCrunch Japan

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