米国展開とメルペイに注力——上場後のメルカリの今、そしてこれから

東京・渋谷ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2018。初日の11月15日には、メルカリ取締役社長/COOを務め、国内事業を率いる小泉文明氏が「上場を果たしたメルカリ、これから目指すもの」と題し、メルカリ上場までのストーリーや国内戦略、今後注力していく事業・サービスなどについて語った。聞き手はTechCrunch Japan編集統括の吉田ヒロが務めた。

米国メルカリの課題は「認知」

まずは上場前後の話から。6月19日に東証マザーズ市場に上場を果たしたメルカリだが、上場のタイミングはどのように決まったのだろうか。

小泉氏は「中長期戦略の中で、メルペイの準備を始めた時期だったことが大きい。今後ペイメントや新しいチャレンジを考えている中では、社会的信頼が重要になってくる。上場するにはちょうどいいタイミングだった」と答えた。

上場による調達資金をはじめとした資金の投下先について、小泉氏は「決算説明会の資料にもあるとおり、日本は黒字だがUSは赤字、ペイメントはまだ売上がない。日本での収益とファイナンスをUSとペイメントに投資している」と説明。「まずはビジネスを当てることが大事」と言う。

米国メルカリの立ち上がりは「やはりそんなに簡単じゃない」という小泉氏。「アメリカのスタートアップでもしんどいと思う。彼らも(収益の上がりやすい)B2Bサービス、SaaSへ移っていて、コンシューマー向けサービスを提供するところは減ってきている。資金力とユーザー滞在時間を呼び戻すのが、みんなの課題となっている」(小泉氏)

米国ではアプリDL数は4000万。小泉氏によれば「継続率は日本ほど良くなっていないので改善が必要だ。また認知率が課題で、日本のようにテレビCMで5億、10億投下したら何とかなるというものじゃない」と米メルカリの課題について打ち明けた。「認知率についてはSNS広告やビルボード(屋外看板)なども行っていたが、時間がかかっている」(小泉氏)

小泉氏は一方で「アプリ内の(ユーザー遷移などの)数値はかなりいい」とも述べている。「CVCとか、日本と変わらないぐらい。プロダクトの中は良くなってきたから、認知に投資して、認知率が上がれば数字(売上)は上がるのではないか」(小泉氏)

3月に「思い切り変えた」というUSメルカリのアプリUIは、赤がキーカラーの日本と違って、米国では青が基調。タイムライン上にアイテムがずらっと並ぶ日本のUIに対し、USではジャンルである程度見せるよう、縦と横で切り口が違う見せ方になっているという。

「ある部分、日本より進んでいる、アメリカにマッチしたUIに変えている」(小泉氏)

米国で展開する広告では「Selling App(売るアプリ)」をうたっているメルカリ。ラジオ広告やビルボードで『売るだけ』をフィーチャーしてあおっているとのことだ。小泉氏は先日乗ったUBERの運転手にも「知ってるよ、“売るアプリ”だろう? ラジオで聞いてた」と言われたそうだ。

米国でのメルカリの仕組みの浸透については、小泉氏もそれほど心配していないようだ。「中古マーケットではeBAYがあるが、PCベースでの利用が中心で、日本でYahoo!オークションがあったのと同じ。スモールビジネスの売り手がいるというのも、日本に近いんじゃないか。フリマアプリ領域での競合も減ってきた。女性向けアプリなどが残っているが、オールジャンルをカバーするものではなく、もともとフリルがあった日本と同じような構造がある」(小泉氏)

「日本で普通の主婦が使っているのと同じように、20代の女の子とかが普通に使うアプリになってきている。テクノロジーにフィーチャーさせない方がいいかと思って、全ジャンル対応したものにしている」(小泉氏)

小泉氏は「システムが受け入れられるには、スマートフォンでいかになじむか、が大切。米国ならではのチャレンジはあるが、新しいコンセプトが必要、という感じではない」と話している。

アメリカへの投資については「ここが取れるか取れないかで全世界への展開に影響するから」と小泉氏は述べる。「アジアへの進出もよく言われるが、まずはアメリカ。PLや企業革新(の速さ)が変わってくる。実現できないと次のステージに会社として全然行けない」(小泉氏)

休止サービスの見極め方とメルペイへの意気込み

上場によって社内で変わったことは「特にない」という小泉氏。どちらかと言えば上場というよりは「ペイメントが入ることで、お金を扱うサービスとして信頼性を高める必要があると認識されるようになった」という。

ほぼ全社員がストックオプションを保有しているメルカリだが、上場で辞めたという人もほとんどいないとのこと。「まだまだメルカリの可能性はあるとみんな感じている。楽しんでいる」と小泉氏は言う。

今年に入ってメルカリでは、5月に「メルカリ アッテ」を終了、「メルカリNOW」「teacha」「メルカリ メゾンズ」の3サービスを8月に終了し、年内に「メルカリ カウル」を終了すると発表している。

休止サービスについて小泉氏は「山田(代表取締役会長兼CEOの山田進太郎氏)も自分もそもそも、スタートアップをたくさん作ってきた人間。『新規サービスはそう簡単には当たらないよね』というのが合い言葉のようになっている。無責任にサービスを延命してリソースを取られるのは避けた方がいい。メルペイのような重要なところへリソースを配分し直す、という考えだ」と語る。

サービス休止の見極めは「初動を見て」行うとのこと。「大きなチャレンジがたくさん出てきている中で、数値、そして感覚で見極める。経営会議で担当役員や事業責任者の話を聞きながら、冷静に判断している」(小泉氏)

当該サービスを担当していた社員は辞めてしまうんじゃないかとも思えるが「全然辞めない」と小泉氏は言う。「サービスが好きか会社が好きかで言えば、会社と会社のミッション、バリューが好きという社員が多い。(サービス休止で)会社に貢献できるなら、それはいいよねと思ってもらっている。いろいろ思うところはあるとは思うけれども、みんな比較的次の仕事に邁進しているという印象だ」(小泉氏)

「サービスを閉じるにあたっては、『いいチャレンジだったね』として学びを得ながら、成仏させて次のチャレンジをさせるようにしている。そうした情報はメルカン(メルカリの社内の取り組みを伝えるメディア)でも共有して、リソースを配分している」(小泉氏)

一方で車のコミュニティ「CARTUNE」を10月に買収しているメルカリだが、取り入れるサービスの線引きはどこにあるのか。

小泉氏は「メルカリのカテゴリ戦略の中で自動車カテゴリは大きい。CARTUNEは短期間で熱量の高いコミュニティができあがっている。創業者(福山誠氏)としての優秀さと事業の魅力が際立っている。いいパートナーがいてくれたと思っている」とCARTUNE子会社化に至った理由について説明する。

「CARTUNEはメルカリとは別で持って行く(成長を目指す)。彼らのコミュニティをきちんと大きくしていく。メルカリのカテゴリをその過程で大きくすることはあるが、短期的にマージすることは考えていない」(小泉氏)

また、メルペイでサービス同士をつなぐ、という発想も「なくはない」という小泉氏。「リアルな店舗で使えるだけでなく、オンラインでも使えるようにしていく」と話している。

「カテゴリーに特化するためのM&Aは今後もあるだろう。(自社は)IPOで調達しているが、M&Aも否定せずにやっていく」(小泉氏)

休止したサービスと似たようなものをまたやる可能性もある、という小泉氏は「メルカリが1回目で当たったのは奇跡。メルペイにも大変なチャレンジが待っているはず。中途半端にやっても大きな山には登れない」と語る。

今後フリマ以外で注力したいのは「やはりペイメント。ペイメントはフリマアプリとあわせることで、エコシステムが生まれてくると思うから」と小泉氏は言う。

ペイメント系サービスに関しては、LINE Payをはじめ、さまざまな先行サービスがあり、今年に入ってからもPayPayなど新規サービスも増えている状況だ。メルペイはどのように勝負していくつもりだろうか。

小泉氏は「メルカリとメルペイの連携が非常に大事」と言う。「単純にペイメントサービスを使ってください、ではハードルが高い。手数料競争になっても意味がない」(小泉氏)

「メルカリはメルペイの強み。(メルカリでアイテムを売った)アカウントに対してお金が振り込まれたら、それが店舗で払えるようになっていく。LINEにもYahoo!にもそれぞれ良さがあるのと同じ。銀行口座やクレジットー度を登録させて……というよりは、すぐ店舗で使えるようにする。それがあれば、さらに『メルカリでものを売ろう』という動きにもなる。ユーザー活性化のモチベーションにもなっていく」(小泉氏)

シナジー、ということでいえば11月にアプリがローンチされた「メルトリップ」とメルカリとの連携はあり得るのか。

小泉氏は「今はそれぞれスタンドアローン」と言いながら、「将来的には連携も可能ではないだろうか」と話している。「メルペイのように近いサービスはいいが、新規サービスを作るときに既存サービスを意識しすぎると複雑化したり、重くなったりする。大事なところ以外をケアしなければいけない、ということはあってはいけないことだ。お客さまに親しまれるサービスにしてから連携しようと考えている」(小泉氏)

個人としては「ノーロジック」で投資

小泉氏には、個人投資家としての顔もある。直近では10月17日に、クラウドファンディングサービス「Readyfor」を展開するREADYFORへ個人として出資している。

メルカリの社長という激務の中で、個人投資家として活動する理由について、小泉氏に尋ねると「経営者としてやりたいことはいくつかあるが、身体は一つ。『こういう未来になってもらいたい』という夢を託すためにお金を投資している」という答えが返ってきた。

「ストラテジーがあって投資をする千葉さん(Drone Fundの千葉功太郎氏)と比べると、今までに投資しているREADYFORやファームノート(酪農農家向けIoTサービス)とかはバラバラに見えると思う。また、儲かる案件をスルーしていることもある。そういうのは僕じゃなくても誰か出してくれる人がいるだろうと思って」(小泉氏)

「(これまでに参画している)メルカリとかミクシィも個人をエンパワーメントする流れ。READYFORなどのクラウドファンディングとかはそういう感覚でいいと思う。ファームノートについては、僕が兼業農家の子どもで農家のことはよく見てきたから……。そういう感じで脈絡なく出資している」(小泉氏)

今後も比較的「ノーロジック」で投資していくだろう、という小泉氏。「(投資しませんかという)ディールはよく来る。期待されているな、ということはスタートアップからも感じる。普遍的に人やお金は大事だ。プロダクトについては事業をやっている人は一番考えていると思う。それに対して応援団として背中を押したい」(小泉氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。