巨大IT企業が、知的財産権の侵害をめぐって法廷で争っているというニュースが毎日のように駆け巡るような状況は一段落したかもしれない。とはいえ、特許というものは、企業や人々の進歩を測る指標となるものであり、将来の収益につながることを期待して、自分たちの仕事を守るための堀を築く重要な礎石となるものでもある。米国の特許活動を追跡調査している企業、IFI Claimsは、米国時間1月14日、知的財産に関する実績の年間集計を発表し、その意義を再確認した。それによれば、2019年には、米国特許商標庁によって認可された特許の件数は、33万3530件という最高記録を達成した。
この数字は、いくつかの点で注目に値する。1つは、これまでに1年間で取得された最多の特許であったということ。そしてもう1つは、この数字は前年に比べて15%も増加しているということだ。全体の数が多いことは、知的財産の保護に対する関心が、依然として高いことを示している。また、15%の増加は、実は一昨年の特許の取得数が、その前年から3.5%ほど減少していたのと無関係ではない。ただし、その年も、出願されて未認可だった特許の数は、それまでで最多だった。そこから言えるのは、出願人と米国特許商標庁の両方が、出願とその処理に少し余計に時間がかかっていたのかもしれないということ。特許の出願数そのものが減っていたわけではなさそうだ。
しかし特許の件数だけでは、別の非常に重要な点を見逃してしまう可能性があり、全体像は見えてこない。というのも、世界で最も金銭的な価値が高く、最も知名度の高いハイテク企業が、特許の出願に関しては、常に最高ランクに位置しているわけではないからだ。
一般にFAANGグループと呼ばれる、Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Googleを見てみよう。Facebookが昨年取得した特許は989件で36位だった。伸び率は高いが、まだトップ10には届いていない。同期間にAppleは2490件の特許を取得し、7位につけている。Amazonは2427件で9位だ。Netflixはトップ50にも入っていない。そして、Android、検索、広告の巨人Googleは、2102件の特許を取得しているが、15位に甘んじている。伸び率についても目立ったものはない。それを考えると、IT企業としては最古参のIBMが、最多の特許を取得しているという事実は、なんだか皮肉のようにも思える。
IBMは、例年どおり(正確に言えば27年間連続で)年間最多の特許を取得した。昨年の件数は合計9262件だ。Samsung Electronic(サムスン電子)が6469件で、大きく離された2位だった。
繰り返しになるが、こうした数字だけで、すべてを物語ることはできない。IFI Claimsによれば、子会社を含むいくつかの部門にまたがって出願された、すべての有効な「特許ファミリー」を考慮し、昨年1年だけでなく、歴代のすべての特許をカウントすると、サムスンが1位にランクされるという。そうした特許ファミリーの数では、サムスンは7万6638件となり、IBMは3万7304件で、遠くおよばない2位となる。
そのような数字も、ビジネスの範囲を考慮すると理解しやすいだろう。Samsungは、消費者向けにも企業向けにも、幅広い分野の製品を製造している。一方のIBMは、数年前に消費者向けの市場から基本的に撤退し、最近では主にエンタープライズとB2Bに焦点を合わせている。またハードウェアの比率もはるかに小さい。つまり、そのような種類の研究開発と、そこから生じる特許ファミリーに関して、ずっと低いプライオリティしか置いていないというわけだ。
注目に価する他の2つの領域は、伸び率の高い会社と技術のトレンドだ。
前者としては、自動車会社がトップに挙げられるという事実は、非常に興味深い。韓国の自動車メーカーKiaは、58位上昇して、41位(921件)にランクインした。車は次世代の「ハードウェア」であり、コネクテッドカーや自動運転車、そしてそれらを駆動する代替エネルギーといった、非常に刺激的な時代に入ることを考えると、象徴的のように思える。
大きく順位を上げた他の企業としては、28位上昇して48位(794件)となったHewlett Packard Enterprise(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)、22位上がって36位(989件)となったFacebook、9位上がって25位(1268件)のMicron Technology(マイクロン)、6位上げて10位(2418件)のHuawei(ファーウェイ)、4位上げて13位(2177件)となったBOE Technology、3位上がって4位(3081件)を獲得したMicrosoft(マイクロソフト)などがある。
技術のトレンドに関しては、IFIはこの5年間を視野に入れている。現状では、医療およびバイオテクノロジーの革新に、一連の力強い流れがある。まず、ハイブリッドプラントの建造が、その流れの筆頭にあり、遺伝子編集技術CRISPRが続く。さらに、がん治療を代表とする医薬製剤が続いている。コンピュータープロセッサーという意味での「IT技術」としては、ようやく4番目に挙げられていて、それもダッシュボードや、その他の自動車関連技術としてだ。また、量子計算機、3Dプリンター、飛行車両技術なども挙げられている。
もはや、モバイル、インターネット、コンピューターそのものといった技術革新が停滞期に入ってしまったのではないかと疑う人も、その考えが正しいことを証明するために、リストをこれ以上確認する必要はないだろう。
IFI Claimsが挙げる10の急成長技術分野
意外なことではないが、米国企業が、2019年に認可された米国特許の49%を占め、前年の46%から増加している。それに続く2番目は日本の16%で、韓国の7%(その大部分はSamsung占めていると思われる)が続く。そして中国が5%を占め、ドイツを抜いて4位に入った。
- International Business Machines Corp 9262
- Samsung Electronics Co Ltd 6469
- Canon Inc(キヤノン) 3548
- Microsoft Technology Licensing LLC 3081
- Intel Corp 3020
- LG Electronics Inc 2805
- Apple Inc 2490
- Ford Global Technologies LLC 2468
- Amazon Technologies Inc 2427
- Huawei Technologies Co Ltd 2418
- Qualcomm Inc 2348
- Taiwan Semiconductor Manufacturing Co TSMC Ltd 2331
- BOE Technology Group Co Ltd 2177
- Sony Corp(ソニー) 2142
- Google LLC 2102
- Toyota Motor Corp(トヨタ自動車) 2034
- Samsung Display Co Ltd 1946
- General Electric Co 1818
- Telefonaktiebolaget LM Ericsson AB 1607
- Hyundai Motor Co 1504
- Panasonic Intellectual Property Management Co Ltd(パナソニック) 1387
- Boeing Co 1383
- Seiko Epson Corp(セイコーエプソン) 1345
- GM Global Technology Operations LLC 1285
- Micron Technology Inc 1268
- United Technologies Corp 1252
- Mitsubishi Electric Corp(三菱電機) 1244
- Toshiba Corp(東芝) 1170
- AT&T Intellectual Property I LP 1158
- Robert Bosch GmbH 1107
- Honda Motor Co Ltd(ホンダ技研工業) 1080
- Denso Corp(デンソー) 1052
- Cisco Technology Inc 1050
- Halliburton Energy Services Inc 1020
- Fujitsu Ltd(富士通) 1008
- Facebook Inc 989
- Ricoh Co Ltd(リコー) 980
- Koninklijke Philips NV 973
- EMC IP Holding Co LLC 926
- NEC Corp(日本電気) 923
- Kia Motors Corp 921
- Texas Instruments Inc 894
- LG Display Co Ltd 865
- Oracle International Corp 847
- Murata Manufacturing Co Ltd(村田製作所) 842
- Sharp Corp(シャープ) 819
- SK Hynix Inc 798
- Hewlett Packard Enterprise Development LP 794
- Fujifilm Corp(富士フィルム) 791
- LG Chem Ltd 791
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(翻訳:Fumihiko Shibata)