自家用の電動垂直離着陸機は電気自動車よりもエネルギー効率が高い

今は輸送新時代の黎明期だ。

20世紀が始まるころ、馬は自動車に置き換わった。それから100年後の今、私たちは移動の舞台が空に変わるのを待ち望んでいる。Kitty Hawk(キティー・ホーク)はこれまで、電動で、離着と着陸を垂直に行い、その間は固定翼機のように飛行できる試作機をいくつか作ってきた。これらはひとまとめにしてeVTOL(イーブイトール、電動垂直離着陸)航空機と呼ばれる。

プロジェクト「Heaviside」(ヘビサイド)のようなeVTOLは、日常の足としての大きな可能性を示しているが、それを最終的な使用事例と見なすと、ひとつの素朴な疑問が浮上する。eVTOLはグリーンなのか?具体的には「eVTOL航空機は自動車よりもエネルギー効率は高いのか」というものだ。

米国環境保護庁(EPA)の基準によるハイウェイ走行テストでは、2020年型の日産リーフe+は、平均時速50マイル(約80km)の場合の電力消費量が1マイル(約1.6km)あたり275Wh(ワットアワー)となっている。ただし、米国の平均的な乗車人数は1.6人前後なので、リーフの電力消費量は、走行距離全体の旅客マイルあたり、およそ171Whとなる。

Kitty Hawkの現在のHeaviside試作機は、旅客マイルあたりの電力消費量は120Whだ。しかも速度はリーフe+の2倍にあたる時速100マイル(160km)。もちろん、お望みならもっと速く飛べる。道路は真っ直ぐではないが、飛行機は通常真っ直ぐ飛べるので、エネルギーはさらに15%節約できる。Heavisideの場合、総合して1マイル進むのに必要なエネルギーはリーフの61%に留まる。

なぜHeavisideが高効率なのか?速く飛ぶには、それだけ多くのエネルギーを使うのではないのか?そう、そしてそこに、さらに劇的な高効率をもたらす理由がある。答えは、Heavisideが細長く空気力学的な抵抗が低い形状だ。自動車をこの形にするのは現実的ではない。

下の図に示した翼の断面図のような、滑らかな空気力学的形状と、円筒などのぶっきらぼうな形状とでは、空気抵抗の差が激しい。あまりにも違うために、その2つの形状の空気抵抗が同じになるように大きさを調整すると、下の図のような比率になってしまう

円筒は小さすぎてよく見えない、右下の点がそれだ(画像クレジット:Kitty Hawk

見た目ではわからないが、翼のような滑らかな形状は、ある角度で風を受けると必ず揚力を生じる。これは単に体験上のことではなく、数学的に実証できる現象だ。

自動車メーカーは、空気抵抗が少なく、それでいてハンドル操作に支障をきたす揚力は生まず、横風の影響も受けにくい形状の開発に大変な労力を費やしている。風の強い日に橋を渡ったり、田舎の狭い道で大型トラックとすれ違ったときの車の状態を思い出してほしい。

画像クレジット:NASA

自動車は、かなりの量の空気も一緒に引き連れて走っている。

画像クレジット:Kitty Hawk

それに対してプロジェクトHeavisideは、周囲の空気をほとんど乱すことなく、その中を通過できる。そのため、Heavisideは非常にエネルギー効率が高い。しかしHeavisideに乗った人が、もっと遠くへ行きたいと望んだ場合はどうか。私たちがこれまでに達成できた航続距離に関して、私が個人的にびっくりしたのは、エネルギー消費量が非常に少ないHeavisideは、同時間の移動において自動車よりも効率的な乗り物であることだ。

これは、eVTOLで最も大切な完全電動という要素を除いての話だ。これに対抗する乗り物は、ガソリン車かディーゼル車だ。排ガス対策という理由だけで、一般消費者に電気自動車に乗り換えるよう説得するのは至難の業だ。むしろ、時間の節約になるという理由で売り込むほうが、ずっと簡単だろう。

別の角度から見てみよう。あなたの通勤距離が、米国人の平均である16マイル(約26km)だとしたら、そしてHeaviside型の航空機を使うとしたら、家の屋根に標準的なソーラーパネルを3枚設置するだけで、往復の電力が賄えてしまう

航空機の開発を完了し、商業的に販売を展開できるようになるまでには、まだまだ長い道のりがある。最終的な製品が今の試作機と同じ効率性を保てるかどうかも確約できない。それでも私たちは、効率と個人航空移動は矛盾しないことを実証できて、とてもうれしく感じている。

【編集部注】著者のDamon Vander Lind(デーモン・バンター・リンド)は、eVTOLで世界の移動を自由にすることを目指す企業Kitty HawkのHeaviside型航空機担当ジェネラルマネージャー。

画像クレジット:Kitty Hawk

[原文へ](翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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