自律海底マッピング技術コンペの勝者が4億円超を獲得

この星の上には広大な海がある。だが私たちはその底に何が横たわっているのかをよくは知らない。だがそうした状況もOcean Discovery Xprizeコンペティションの中で生み出された船や技法によって変わるかもしれない。この国際コンペティションでは複数のチームが、海底を素早く、正確に、そして自律的にマップするために競い合った。勝者は400万ドル(約4億3000万円)を手にした。

海のマップはもちろんそれ自体でも価値がある。しかし、それを作り出すために使われた技術は他のさまざまな用途に利用することができる。海面下数千メートルの片隅に、どんな生物学的あるいは医学的な発見の可能性が隠れているかは、誰にもわからないことだ。

このシェル主催のコンペティションは、2015年に始まった。究極の目標は、数百平方キロメートルの海底を、5メートルの解像度で1日以内にマッピングできるシステムを構築することだ。おっと、それから全ての機材は出荷用コンテナに収まる必要がある。参考までに言うなら、既存のシステムは、こうした要求を満たすことはできず、また非常にコストがかかる代物なのだ。

しかし、課題の難しさが参加者たちの士気をくじくことはなかった(この種のコンペティションではよく見られることだ)。それは単に彼らを奮い立たせただけだったのだ。2015年以降、参加チームたちは自らのシステムに取り組み、そのテストのために世界中を駆け巡ってきた。

もともと参加チームのテストはプエルトリコで行われることになっていたが、2017年の壊滅的なハリケーンシーズンの後で、全体の運用はギリシャ沿岸へと移された。最終的なファイナリストが選ばれると、彼らはカラマタ沖の海に自作の船を投入して、マッピングを行うように指示を受けた。

チームGEBCOの水上船

「これは非常に困難で大胆な挑戦でした」と、プログラムを率いたジョティカ・ビルマニ(Jyotika Virmani)氏は語った。「テストは24時間で行われましたので、参加チームは皆起きていなければなりませんでしたし、その直後48時間でデータを処理して私たちに提出しなければならなかったのです。従来の企業なら、生データを入手して処理するのにおよそ2週間以上は必要なはずです。私たちはそれを、よりリアルタイムに処理するように要求しました」。

これは実験室の水槽やプールでのテストではない。実施されたのは海で、海は危険な場所なのだ。だが驚くべきことに、事故は一切起きなかった。

「破壊されたものも、爆発したものもありませんでした」と彼女は言う。「もちろん、天候の問題には出くわしました。そして私たちは一部の部品を失いましたが、それは数日後にギリシャの漁師によって発見されました。まあこれはまた別のお話です」。

コンペティション開始時には、ビルマニ氏は、参加者たちから要求されたタスクのうち、自律的な部分はただ実現不可能だろうというフィードバックを受け取っていた。だがこの2、3年のうちにそれが可能なことは証明され、優勝したチームは要求に応えることができただけでなく、それを超えることさえ可能だったのだ。

「優勝チームは24時間以内に、最低5メートルの解像度で250平方km以上のマッピングを行いました。しかしそのうちの140平方kmは5mより優れた解像度だったのです」とビルマニ氏は語る。「それはすべて無人で行われました。無人の水上船が潜水艇を取り出して海中に投入し、海上で回収して、無人のまま港に戻るのです。彼らはそれをとても上手くコントロールしていました 。必要に応じて24時間の間、その経路やプログラミングを変えることができたのです」(「無人」は必ずしも完全にノータッチであることを意味していわけではない。参加チームは船のソフトウェアや航路を修正あるいは調整するために、一定の量までの介入は許されていた)。

5mの解像度というものが、ピンとこないとしたら、このような説明はどうだろう。それは建物や道に関してははっきりと示すことができるが、車や道路標識を識別するには粗すぎる程度の解像度だ。だが、地球の3分の2をマッピングしようとしている場合には、この解像度は十分すぎるほどだ。そして現在のようになにもない状態よりは、無限大に優れている(当然のことながら、シェルのような石油会社が新しい深海資源を探査するためには十分だ)。

優勝したのは、ベテランのハイドログラファー(海洋マッピングの専門家)たちで構成されたGEBCOチームだった。極めて優れた無人船「Sea-Kit」は、すでに他の目的のためにEnglish Channelを巡航した実績がある。加えて、チームはデータ処理面で多くの作業を行い、地図を素早く構成するのに役立つクラウドベースのソリューションを作成した(それは将来的には、市場性のあるサービスであることも証明するかもしれない)。彼らは、ファイナリストに選ばれたことによる現金に加えて、さらに400万ドルを獲得した。

準優勝は日本の黒潮だった。解像度は優れていいたものの、気象問題のため250平方km全域をマッピングすることはできなかった。彼らは100万ドルを手にした。

水中で、化学信号をその発生源に向かってたどるボーナスプライズには勝者はいなかった、しかし善戦した参加チームがいたため、審査員たちは100万ドルの賞金をTampa Deep Sea XplorersとOcean Questに分けて与えることを決定した。驚くべきことのこのチームの構成員はほとんど中学生だったのだ。後者は80万ドルを獲得したが、それは店で新しい道具を購入するための役に立つに違いない。

最後に、英国からやって来たTeam Taoに20万ドルのイノベーション賞が授与された。競合する他のチームのほとんどが、海底から一定の距離で「芝刈り機風」に移動する船を選択したのに対して、Taoの船は垂直に移動し、潜航と浮上の際に海底との距離を測定しては次のスポットに移動するものだった。ビルマニ氏は、この手法はこれは重要な海洋学試験のために、さまざまな機会を提供してくれるものだと説明した。

賞の授与を終えた組織には、まだ2、3の秘めた企画があるようだ。優勝したGEBCO(General Bathymetric Chart of the Oceans)は、日本財団のSeabed 2030プロジェクトと協業する予定だ。このプロジェクトは次の10年ですべての海底のマッピングを行い、そのデータを世界に無償で提供するというものだ。

そしてこのプログラムは、海底のマッピングというアイデアに触発された、ショートSF短編集も刊行する予定だ(当然だよね?)。

「私たちの現在の技術の多くは、過去のサイエンスフィクションからやってきたものです」とビルマニ氏は語る。「なので私たちは、著者の方々に私たちが高解像度の海底のマップを得たならば、海の中での次の技術はどんなものとなり、またどちらへ進むのでしょうか?と問いかけました」。南極を含む7つの大陸すべてから集まった19編の物語は、6月7日に出版予定だ。

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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