英国のMarshmallowが評価額3億1000万ドルで3000万ドルを調達、より「包括的な」自動車保険を目指す

特定の顧客に提供するサービスの種類や価格設定を導くのにアルゴリズムを始めとする計算手法を用いることに関して、保険業界は最も古い活用歴を持つ業界の1つである。しかし、その伝統的なポジションの水面下には、そうした手法による測定の中に改善の余地があるという事実が存在する。プロファイルに適合しない顧客に競争力のある価格を提供できていないからだ。

英国のスタートアップMarshmallowは、リスクを判断する新しいアプローチでこれらのレガシー保険会社大手に挑戦することを展望し、3000万ドル(約31億円)の資金調達ラウンドを発表した。自動車保険からスタートした同社は、より幅広いアナリティクスとシンプルなモバイルやウェブネイティブのインターフェースを活用して、十分なサービスを受けていない市場セグメントをターゲットに展開している。今回調達したシリーズA資金を用いてダイバーシティとインクルージョン(多様性と包括性)を重視した事業拡大を継続し、今後18ヶ月のうちに、より広範な種類の保険を対象国を拡大してローンチする計画だ。

同社は今回のラウンドで3億1000万ドル(約321億円)の評価を得たとみられているが、現時点では市場浸透と成長という観点から顧客数を明らかにしていない。保険業界は巨大産業であり、McKinsey(マッキンゼー)の推計によると、2017年の保険料は全世界で4兆ユーロ(約49兆円)以上であった。一方Allianz(アリアンツ)は最近の報告書の中で、COVID-19による経済不安の結果、市場は今年「冷え込んだ」が、それはまた、新技術と新たなアプローチの傾向を加速させていると指摘した。それに加えて、全体的に巨大な市場のわずかなシェアでも大きな収益につながるという事実は、Marshmallowが注目すべき挑戦者であることを意味する。

同社は今回のラウンドの参加者の名前を明らかにしていないが、著名なフィンテック支援者と、大手金融機関の1つが名を連ねているようだ。PitchBookによると、Outrun Venturesのほか、匿名の投資家がこのラウンドに参加している。以前の支援者はPassion CapitalとInvestecだった。

Marshmallowは2018年、外国人居住者をターゲットにした製品を携えて登場した。英国の保険会社は通常、保険料を決定する際に被保険者の英国での実績を評価するが、それはつまり、海外から英国に移住した成人の場合、履歴は良くとも悪くとも関係しないということだ。同社はそのロジックに着目した。Marshmallowの解決策は、国のデータだけでなく、グローバルなデータを組み込んだ評価アルゴリズムを構築することだった。

同社の共同創設者兼CEOであるOliver Kent-Braham(オリバー・ケントブラハム)氏は当時、TechCrunchに次のように語っている。「自動車保険では概して、人の運転能力、運転歴、現在のライフスタイルを捕捉したうえで保険会社が適正価格を提示する必要があります。残念なことに多くの保険会社は、英国に住む外国人ドライバーを適正に評価することなく彼らに過剰請求しています。英国を拠点とする外国人ドライバーは、市場平均より51%高い提示価格が見込まれています」。

現在ではより幅広い年齢層の、英国で一貫した記録を持たない人たちにもその範囲が広がっている。

「引き続き外国人居住者を対象とした自動車保険を提供していますが、現在当社は21歳から50歳までの人を対象にした保険サービスも手掛けています。これは、住所や信用履歴が断片的で、あまり裕福ではなく信用スコアが低い人たちに対して魅力的な価格と経験を提供することに焦点を当てたものです」と同氏は近況をTechCrunchに語る。「これらの顧客グループはいずれも、従来の保険業界からより高い料金を請求されています」。

ケントブラハム氏自身、規範から外れていることについての意識が高いかもしれない。同氏は双子の兄弟Alexander(アレクサンダー)氏と共同でこの会社を設立したが、両氏は黒人である。アメリカでは黒人の創設者は1%未満であると推定されており、ヨーロッパでも同様に有色人種の創設者の数字は低いものとなっている。なお、David Goate(デビッド・ゴート)氏は3番目の共同創設者である。

実際、Marshmallowの台頭は、少数派の創設者のストーリーとしても、十分なサービスを受けていない社会のセグメントにサービスを提供するという同社のフォーカスにしても、時宜を得たものである。

今年のテック業界の大きな焦点の1つは、ダイバーシティとインクルージョンをより積極的に業界に組み込む方法に関するものだった。米国で黒人が警察に殺害された事件が多発し、社会不安の波が押し寄せたことをきっかけに、経済的、社会的格差にどう対処するのが最善かという問題意識が世界中で高まっている。

テクノロジーの世界では、関係する企業の構成に多様性を持たせることが、より幅広いオーディエンスとニーズに対応するために重要であることが長い間認識されてきた。その意味では、2人の黒人男性が率いる保険スタートアップが、より幅広いユーザーグループのための製品を特定し、構築しようとしていることは驚くことではないだろう。

「当社には、従来の保険会社を悩ませている顧客に保険を提供するためのツールがあります」とアレクサンダー氏は声明で述べている。創業者の1人で現在は会長を務めるTim Holliday(ティム・ホリデイ)氏は、保険業界で長い実績を有する人物だ。既存企業が市場に残したギャップをスタートアップが特定するために同氏は不可欠な存在となっており、Marshmallowは自身の新しいテクノロジーを用いてそれに取り組んでいる。

COVID-19のパンデミックと世界中に広がる不確実性を背景に、前年度はインシュアテックに大きな注目が集まった。

現在の時価総額が28億ドル(約2900億円)を超えるLemonadeの上場に加えて、Hippoの評価額は大幅に上昇し、ターゲット層の選択やモデル化の手法という観点で保険モデルを再考する企業の増加も顕著になってきている。BIMAとWaterdropはそれぞれ、新興市場向けのマイクロ保険と、クラウドファンディング保険サービスのアイデアに注目している。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:イギリス 保険 資金調達

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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