英国拠点のGraphcoreが新AIチップGC200を発表、6万4000個並列時の理論上の性能は16エクサフロップス

医療の進歩、より優れたサイバーセキュリティの構築、自動車やその他の移動体のナビゲーションシステムの改善といった、複雑な課題の解決に向けての大きな飛躍に役立つ人工知能テクノロジーの利用には多くの適用分野がある。だが、応用が高度になるほど必要な計算と処理を処理できるハードウェアの重要性が高まる。つまり、これまで以上に強力な処理に向けての競争が激化しているということだ。そんな中、英国のスタートアップGraphcore(グラフコア)が、その最新の成果を発表した。

英国時間7月15日、同社は新しいチップであるGC200と、それを使う新しいIPUマシンのM2000を発表した。IPUは同社の用語で、同社が提供するチップを意味するIntelligence Processing Unitの略だ。

Graphcoreによれば、GC200を別売りにする予定はなく、M2000に搭載されたかたちのみでの販売となる。CEOで共同創業者であるNigel Toon(ニジェル・トーン)氏によれば、M2000は現在早期アクセスの顧客向けに出荷されており、今年末までには、金融サービス、ヘルスケア、テクノロジーなどを始めとする「AIが使われるあらゆる場所」に向けて、アプリケーションを使いたい顧客のために広く提供されると述べている。

これはリリースされたGraphcoreハードウェアの第2世代であり、ここ2年弱の期間で初めてリリースされたハードウェアであるとトーン氏は述べている。

M2000は、7nm(ナノメートル)プロセスで製造された594億個のトランジスタを搭載するGC200チップを4つ使用しており、計算能力は約1ペタフロップス。同社によれば、理論的には最大6万4000個のIPUを相互接続して最大16エクサフロップス(16×10の18乗回の計算/秒)の計算能力と1PB(ペタバイト)=1024TBのメモリを備えた巨大な並列プロセッサを構成し、何兆個ものパラメーターを持つモデルをサポートできるとしている。必要に応じてスケールアップできるというのが基本的なアイデアだ。

この動きは、GraphcoreとAIハードウェア業界の両方にとって重要なタイミングで行われた。同社はNvidia(エヌビディア)やIntel(インテル)といった、プロセッサー界の巨人や、無数のAIチップメーカーたちと競争している。Goraphcoreは彼らに対抗するために5月に追加の1億5000万ドル(約160億円)を調達したが、そのときの評価額は20億ドル(約2140億円)に迫っていた。トーン氏は「Microsoft(マイクロソフト)やそのほかの顧客が既についているため、これまでに調達した4億5000万ドル(約480億円)で当面十分である」と語っている。そしてエヌビディアが、5ペタフロップス(5×10の15乗回の計算/秒)のパフォーマンスを約束する、最初のAmpere(アンペア)ベースのGPUである独自の最新チップA100を発表したのは、つい先日の5月のことだった。

トーン氏はかつて、共同創業者であるSimon Knowles(サイモン・ノウルズ)氏と一緒にIcera(アイセラ)という名の以前のスタートアップをエヌビディアに売却 した経験をある。そしてGraphcoreのリーダーであるトーン氏は自身のIPUアプローチのほうが、エヌビディアが採用するGPUルートよりも効率的で先進的であると主張しているのだ。

「私たちは、既存のコンピューティングインフラストラクチャに、簡単に組み込むことができる製品を開発しようとしています」と彼はいう。「これは、何千個ものIPUプロセッサーにスケールアップできることを意味しています」。さらに、IPUアプローチの場合、所有コストが10〜20分の1に抑えられるため、ハードウェアの置き換えが速く進むとも付け加えた。

トーン氏は、他のチップメーカーたちがAIと並行して、他の多くの処理アプリケーション、例えばモバイルデバイスや量子チップに取り組んでいる中で、GraphcoreはAIアプリケーションにしっかりと焦点を合わせたままであり、このことによって「ビジネスを成長させ、より多くの顧客を獲得できる大きな機会を与えてくれるのです」という。

「私たちはAI向けのシリコンプロセッサーと、既存のインフラストラクチャにプラグイン可能なシステムの開発に100%焦点を当てています。うまく機能するCPUやGPUがすでにあるのに、なぜ自分たちでそれらを構築したいのかって?これが全然違うものだからです」。彼は、量子コンピューティングあるいは分子コンピューティングが登場するには10年から15年の期間が必要だと考えている。その過程ではおそらくIBMのような大企業に対抗して、小規模なスタートアップが数え切れない挑戦に挑むことになるだろう。

トーン氏はAIを、新型コロナウイルスのパンデミックが加速しているトレンドの1つであると指摘した。健康危機やウィルスとの戦いのために追求されている多くのアプリケーションだけではなく、それから生じる他のサービスのプロセスの機能や改善についても応用が広がっている。

「この先テクノロジーと人材への投資は、おそらく1億ドル(約107億円)以上になるでしょう」とトーン氏はいう。同社は現在450名の従業員を抱えている「しかし、収益も同時に増加していますし、現在手元にある3億ドル(約321億円)の現金は迅速で利益率の高いビジネスを生み出すためには十分でしょう」。

原文へ

(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。