英政府が方針転換、2027年までファーウェイ5G製品の排除を決定

英国政府は予想されていた通り、中国政府とつながっている「ハイリスク」の5Gベンダーを排除することを決めた。この方針転換には、米国がこのほどHuaweiに対しより厳しい制裁を科したことが影響している。

英デジタル相のOliver Dowden(オリバー・ダウデン)氏は議会に、新たな方針では通信会社が新ネットワーク構築に使用する5G機器をHuawei(ファーウェイ)とZTEから購入することを2020年末から禁じると説明した。英国の5Gネットワークですでに使用されているそうした企業の機器は、2027年までに排除されるなければならない。

この方針を実行に移すための法整備は議会に委ねられるが、ファーウェイ製品のさらに性急な排除を模索する議員の反対にあう可能性もある。

7月13日に通信会社BTは、すでに使用されているファーウェイ製品の性急な排除はモバイル通信障害やセキュリティリスクを生み、政府公約にある英国のファイバーブロードバンドネットワークのアップグレードを遅らせる可能性があると警告していた。BTのCEOであるPhilip Jansen(フィリップ・ヤンセン)氏は既存のファーウェイ5G製品を排除するには7年という期間が理想的との考えを示していて、政府は最善のシナリオをとったことになる。それでも次世代ネットワーク構築に追加のコストがかかる。

ダウデン氏は、新たな方針により英国の5Gネットワーク展開が遅れることを認めたが、政府は経済よりもセキュリティを優先していると主張した。

「2020年1月以降、明らかに状況は一変した。5月15日に米商務省は海外直接プロダクト規則に変更を加え、ファーウェイに新たな制裁を科したと発表した。これは部品に関するかなり大きな変更で、考慮しなければならないものだった」と議会に述べた。

「こうした制裁は、ファーウェイが5Gネットワークに機器を供給するのを制限しようとする米国による初の試みではない。しかしながら、ファーウェイが英国で新たな機器を供給する能力にかなりの影響を及ぼす可能性があるものだ。米国による最新の措置は、ファーウェイが米国のテクノロジーやソフトウェアを使って重要なプロダクトを生産する能力を制限する」。

ダウデン氏はNational Cyber Security Center(国家サイバーセキュリティセンター)が新たな米国の制裁をレビューし、その結果、セキュリティ評価を「大幅に」変更したと述べた。政府は、今回の方針転換に至らせたアドバイスの概要を発表するとも語った。

「ファーウェイのサプライチェーンについての不透明性を考えたとき、米国の海外直接プロダクト規則変更の影響を受ける将来のファーウェイ5G機器のセキュリティを保証できるか、英国はもはや確証を持てない」とダウデン氏は付け加えた。

通信セキュリティ法は夏前に導入されるはずだったが、方針転換のために今秋までずれ込む見通しだ。

ファーウェイ機器の購入制限、ならびに英国の5Gネットワークからの排除にかかるコストと時間に関しては、ダウデン氏は5G展開が2〜3年遅れ、最大20億ポンド(約2700億円)のコストがかかるとの考えを示した。

「我々は軽々にこの決定をしておらず、全選挙民のために私はこの決定が招く結果に正直でなければならない」と同氏は話した。「今回の方針は5G展開を遅らせる。1月の方針の時点で、すでに5G展開が1年ずれ込み、コストは10億ポンド(約1350億円)だった。2020年末から新たなファーウェイ5G機器の購入を禁止する本日の決定で、さらに5G展開が1年後ろ倒しになり、コストも追加で5億ポンド(約670億円)かかる」

さらに通信会社が既存のファーウェイ5G機器を2027年までに排除するコストも「数億ポンド(数百億円)」発生する見込みだ。

「我々皆の接続がつながっている通信に実際の重大な帰結をもたらす」とし、2027年という目標よりも「早期に、そして広範に」実施すると「それなりの規模の不必要な」追加コストと遅延が発生するとダウデン氏は警告した。

「ファーウェイ機器の排除のための期間を短くすればするほど、モバイル通信障害が発生するリスクが大きくなる」とも述べた。

今回の方針は、2020年1月に政府が発表した制限とは大きく異なる。1月にBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)政権は、中国政府と深くつながっているベンダーに関連するリスクは管理できるとの自信を示していた。

そしてダウデン氏は、今回の「真逆の方針転換」と6カ月前に決断しなかったことによる英国の5Gネットワークインフラへの遅延について反対議員から質問責めにあった。

影のデジタル大臣、Chi Onwurah(チー・オヌラー)氏は、政府のデジタル政策はボロボロだと述べた。そしてインフラ変更をリードするためのマルチステークホルダーのタスクフォースの設置を求めた。「一連の動きは、政府が自分たちでこの混乱を管理できないことを示した。英国に最短期間で5Gネットワーク能力と安全なモバイルネットワークをもたらす計画を立てるために業界の代表や研究機関、スタートアップ、地方行政や議員から成るタスクフォースが必要だ」とオヌラー氏は述べた。

与党内では、ダウデン氏の発表は概ね好意的に受け止められた。ジョンソン首相は、ファーウェイに関する先の方針では与党内部の反対議員グループからかなり反発を受けた。そのためそうした反対議員らが新方針を支持するかどうかは不透明だ。とある反対議員はGuardianへの話の中で、5Gだけでなく3Gと4Gも含むファーウェイ機器を排除するための期間をさらに短縮するために通信セキュリティ法案の改正を議論すると警告した

5Gではないネットワークで使用されているハイリスクベンダーの機器を今後どうするかについては、政府はさらなる後ろ倒しを模索した。ダウデン氏は議会に、この問題は精査が必要だと説明し「サプラチェーンの代替について把握するために事業者と技術的な面で話し合う」ことを明らかにした。

「ファイバー機器をスケール展開できる適切なベンダーはもう1社しかないため、サプライチェーン代替手段を把握するために事業者と技術面の協議を始める。これにより、我々のギガビットの野望への不必要な遅れを避け、そして多大なレジリエンスリスクを防ぐことができる」と述べた。

技術面の協議によってファーウェイに対する5Gネットワーク以外の政府の方針が決まる、とダウデン氏は付け加えた。

英政府は以前、5Gネットワークインフラ機器をめぐるサプライチェーンの分散を進める策に乗り出していると述べていた。ダウデン氏は同じ文言を繰り返し、英国が分散を推進するためにファイブアイズ同盟国(英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)と連携していると語った。

長期的には、各ネットワークで複数のベンダーを使用することを基準とするよう通信事業者に働きかけ、またサポートしていくと同氏は述べた。しかし、ここでも同氏はそうしたオープンなRANネットワークの開発には時間がかかると警告した。

短中期的には他の大手ベンダーが加わる必要があるかもしれないとの考えも示した。政府はすでに、SamsungやNECを含む代替の通信機器メーカーとファーウェイ機器の排除で発生する遅れを取り戻すための英国マーケットへのアクセスについて具体的な話し合いを持っていることも明らかにした。

「我々はすでに通信事業者やベンダーと分散のプロセスをサポート、加速させることについて緊密に連携している。持続的な解決策を生み出すための国際的な協力を必要とするグローバルな問題だと認識している。だからこそ、我々はファイブアイズ同盟国や友好国とともに共通の目標を達成するために取り組んでいる」と付け加えた。

TechCrunchはファーウェイにコメントを求めている。

アップデート:ファーウェイの広報担当であるEd Brewster(エド・ブリュースター)氏は下記の声明を寄せた。

残念な決定は、携帯電話を使用する英国のすべての人にとって悪いニュースだ。英国がデジタル遅延コースを走ることにつながり、コストの増大やデジタル格差深刻化のリスクも招く。「レベルアップ」するのではなく政府はレベルダウンしており、我々は再考を求める。新たな米国の制限は、我々が英国に供給するプロダクトのレジリエンスやセキュリティに影響しないと確信している。

遺憾ながら、英国の未来は政治問題化した。これはセキュリティについてではなく、米国の通商政策についてだ。過去20年間、ファーウェイは英国のより良い通信網を構築することにフォーカスしてきた。責任ある事業者として、当社はこれまで通り顧客のサポートを継続する。

今日の発表が当社の事業にとって何を意味するのか詳細なレビューを行い、英国の通信をより良いものにするために当社がどのように貢献できるかを政府に説明するつもりだ」。

画像クレジット: Chesnot / Getty Images

原文へ
(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。