荒らしの手口から正しいメディア・リテラシーを学ぶゲーム

ネット上の偽情報に対抗する最良の薬は、正しく物事が判断できる十分な情報を社会が備えることだ。ただ問題は、そのような普遍的教育に近道がないことだ。

フィンランド国営放送YLEは、ゲーミフィケーションの力を利用することで、注意力を高め、荒らしの手口を理解して、より多くの人が悪質なインターネット上のフェイク情報を見破れるようにしたいと考えた。そうして出来上がったのが、オンラインゲーム(Troll Factory」(トロール・ファクトリー、荒らしの工場という意味)だ。文字どおり、憎たらしい荒らしに成りきることができる。

ゲームは「本物のソーシャルメディアのコンテンツを使用しています」という事前警告から始まる。不快な気持ちになるかも知れないという警告だ。プレイを進めると、ソーシャルメディアで実際に拡散したイスラム恐怖症のスローガンやネタが登場する。なるほどこの警告には、相応の意味がある。

ゲームは、メッセージアプリで会話をするという形をとっていて、トロール・ファクトリーのボスから、仮想スマートフォンで反移民感情を煽るよう命令される。そして、投稿する記事と、それを拡散させる方法を選ぶ。

インターネットで偽情報を流す戦術は、世論の二極化を目的にしている。ゲームでは、ソーシャルメディアで陰謀論を織り込んだネタを流したり、実際の事件を悪用してフェイク情報を拡散させたり、さまざまなデモグラフィックやプラットフォームに向けて憎悪に満ちたコンテンツをマイクロターゲティングしたり、有料のボットを使ってプロパガンダを拡散して、実際よりも人々の嫌悪感が強いように見せかけるといった方法が示される。

トロール・ファクトリーの1週間ぶんの仕事を終えると、あなたのランクと偽記事がどれほどシェアされフォローされたかが示される。そしてこの結果を受けて、あなたが加わった活動をより広い文脈で一般化して、人々に影響を与える手口が解説される。

YLEニューズ・ラボのAIおよびパーソナライズ部門の代表Jarno Koponen(ヤーノ・コポーネン)氏によると、教育と情報の提供を担う非営利の国営公共放送局YLEは、トロール・ファクトリーのフィンランド語版を5月にリリースしているが、国家安全保障機関や学校でも教材として使われるなど国内で大変に高く評価されたことから、続けて国際版(英語版)も発表することに決めたとのことだ。

「フィンランドでの最初の反響は、とても勇気づけられるものでした。必要とされていたという感じです」と彼はTechCrunchに話してくれた。「これは、情報操作を手で触れられて目で見えるかたちにしたものです。私たちには、公共放送局としてこの方法を、フィンランドと海外に提案し、一般の人々がそれぞれの立場で、日常のデジタル環境をよりよく理解できるようにする責務があると信じています」。

「同時に私たちは、ゲーム形式で物語を見せる手法で何ができるかについて、多くの意見を募っています。それを基に、将来によりよい製品を開発していくつもりです。また、例えば世界中の公共放送局とその結果を共有したいと考えています」。

コポーネン氏は、ゲーム化によってフェイクニュースを見破ことができるというケンブリッジ大学の最近の研究を受けて、ゲームが悪質な情報の嘘を見破るというひとつの仮説を検証したいと話していた。

YLEは、偽情報追放のメッセージをドキュメンタリー番組などの昔ながらの教育的な形式で伝えようとせず、なぜゲームという体裁を採用したのかとの問いに対して、彼は「私たちのデータによれば、ニュース記事や従来式のソーシャルメディアの分析結果は大衆には届かず、影響力が小さいからです」と答えた。

「ソーシャルメディアはポケットに入れて、どこへでも持ち歩けます。ソーシャルメディアに関する教育手段も、ポケットに入らなければいけません。特に若い人たちは、なかなか到達し難いオーディエンスです。そのため、若者たちに無党派の情報と、私たちを取り巻く世界の本質を見抜く力を与えるために、物語を伝えるための新しい手段を積極的に開発する必要があります。私たちは、データの視覚化やインタラクティブなシミュレーションなど、さまざまな形式を試しましたが、ゲーム形式の体験がもっとも効果的で魅力的であることを発見したのです」。

「現在は、ソーシャルメディア(TwitterやRedditなど)や私たちのウェブサイトで、ユーザーから直接意見を聞いています」と彼は話す。「うまく表現されているコメントには、こんなものがありました。『これはひどい。でも、それをわからせてくれてありがとう』『怖いけど、すごくよくわかる』。これは特に学校や公共図書館などの子どもたちと関わりを持つ団体や、情報セキュリティーや国家安全保障のプロたちがソーシャルメディアを通じて利用してくれています」。

ソーシャルメディアのプラットフォームは、ボットや不正なコンテンツを排除するためにもっと努力すべきだと思わないかと尋ねると、コポーネン氏はプラットフォームの透明性を高める必要性を挙げたが、やはりメディアリテラシーが巨大ハイテク企業を動かす鍵になると答えた。

「さらなる透明性が、ソーシャルメディアのプラットフォームに利すると私たちは考えます。しかし、人々がより賢明になれば、何が有効で何がそうでないかを自分で判断できる力が備わります。メディアリテラシーを高めることが、ソーシャルメディアプラットフォームの運営や方針に重大な影響を与える鍵になると、私たちは信じています」。

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

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