スイス・日本のテクノロジーにおける産学連携の活動を行うアカデミック・シンクタンク「SEYMOUR INSTITUTE」(シーモア インスティテュート)は1月7日、変形労働時間制をデジタル化し労使協定と就業規則を自動作成するプロジェクト「Labors」(レイバース)の開始を発表した。
同プロジェクトは、静岡県伊豆大川温泉で旅館を運営する「いさり火」の協力のもと、労使協定のデジタル化によって使用者(会社)が抱える課題を解決し、労働者が持続可能なより良い職場環境構築に取り組んでいく。
労働者と使用者間で取り交わされる労使協定においては、労働者にとって不利なことも少なくない。両者ともに理解ある労使協定の締結には、使用者の積極的な関与が必須となる。また、変形労働時間制の適用は、就業規則と労使協定に明記かつ行政監督機関への届出が必要になっている。その内容は、法律に則った内容かつ、使用者が任意に変更しないこと、協定内容通り運用されることが重要になる。
しかし、変形労働時間制を取る旅館や飲食サービスなどの中小企業は家族経営も多く、経営者もまた労働者的な業務を行うこともあり、労働に関する法の改正を追って調整する人材は少ない。法に則った就業規則の認知・理解、労使協定の適切な労働者代表の選任、変形労働時間制の正しい導入や運用が難しいのが現状という。
プロジェクトLaborsでは、こういった課題を解決するために、変形労働時間制導入の制度設計と労働者代表選任投票をアプリケーション化し、就業規則と協定書・届作成を自動化する。同アプリでは、画面指示に従い、必要項目の選択と数字の設定を行うだけで、自動的に行政監督機関への届出書類を作成できるという。作成されたデータ(書類)は、データを元にハッシュ値を計算しブロックチェーンに記録するため、その改ざんがほぼ不可能になる。
伊豆大川温泉いさり火旅館の協力
伊豆大川温泉のいさり火は、従業員数約30名弱の小規模な旅館だが、早くからクラウドベースの予約・客室管理システムPMS(Property Management System)を導入し、デジタル化による効率的な旅館運営を行ってきたという。
今回の取り組みにおける協力の範囲は、変形労働時間制導入に伴うワークフローをデジタル化するための情報と、導入までの使用者と労働者のコミュニケーションと総合理解のステップの共有および検証を想定している。プロジェクト期間は、ビジネスモデル検証用プロダクト開発を2021年3月から9月までの半年を予定。
36協定における労働者代表選出の正当性をブロックチェーンで保証する技術
同プロジェクトで使用されるアプリは、すでにSEYMOUR INSTITUTEが2020年9月に発表している「36協定における労働者代表選出の正当性をブロックチェーンで保証する技術」を発展させたものという。
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定であり、使用者は1日8時間・1週間で40時間の法定労働時間を超えて労働(残業)を命じる場合に必要となる届出。SEYMOUR INSTITUTEはこれらにおいても自動化を進めるなど、パブリックブロックチェーンに半永久的なデータの価値として記録し、行政機関での届出や公的証拠として利用できるサービスと枠組み作りを目指している。
これら情報については、厚生労働省「スタートアップ労働条件:事業者のための労務管理・安全衛生管理WEB診断サイト」において、ウェブ診断などで、労働基準法等の法令や労務管理等に関連する基本的な知識を学べる。また同サイトの「作成支援ツール(36協定届、1年単位の変形労働時間制に関する書面)」は直感的に操作ができ、中小企業にとって心強いものの、労使協定と就業規則作成は連動していないとしている。
プロジェクトLaborsは、労使間で重要な従業員の合意をシステムで保証するアプリと、正当なプロセスで締結された協定、就業規則が改ざんされていないことの証明、データを労働者へデジタル閲覧を可能にすることにより、組織の透明性を向上させるとしている。
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