本稿の著者Sean O’Sullivan(ショーン・オサリバン)氏はMapInfo(マップインフォ)の共同創設者であり、現在はHAX(ハックス)、IndeBio(インディーバイオ)、Chinaccelerator(チャイナクセラレーター)、 MOX(モックス)、dlab(ディーラボ)といったスタートアップ・アクセラレーターを運営するベンチャー投資企業SOSVの創設者にして業務執行ジェネラルパートナー。
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私はニューヨーク州北部の貧しい地域で育ったが、幸運なことにレンセラー工科大学に進むことができた。私は会社を立ち上げ、28歳のときに上場し、そこで得た富をスタートアップに投資してきた。
企業創設者が次々と成功する姿を見るのは爽快だったが、ニューヨーク州北部に帰り、ずっと閉鎖されたままの工場を見るにつけ、テクノロジー改革が決して届かない場所があることを思い知らされる。
そうした空虚な建物の背後にある数字を見ると、これ以上悲惨なものはないと感じる。2019年後半、新型コロナウイルスに襲われる以前、すでに米国の製造業はGDPの11%にまで落ち込んでいた。この72年間で最低の数値だ。私たちはその基盤のほとんどを低コストなライバルであった中国に譲ってしまったことで、2011年には中国は世界最大の製造王国となった。米国の繁栄の基盤として製造業を復活させるための時間は、もうあまり残されていない。そこで大きな役割を果たすのが、優秀でありながら、あまり注目されていない米連邦政府の取り組みだ。
私の会社SOSVでは、技術的に実現が難しいアイデアを持つ企業創設者を対象に、研究から製品化までサポートするプログラムを実施している。その多くの企業が、特に工業の自動化や脱炭素といった国家的な優先分野において、米国の未来を代表している。
こうしたスタートアップには、今すぐにでもベンチャー投資家から資金投入されるものと思われるだろうが、現実には、彼らに流れるベンチャー投資金はほんのわずかしかない。それは単に、SaaSや消費者向け分野に比べてリスクが大きいという理由からだ。
だからこそ、1982年、米国連邦議会はSmall Business Innovation Research(SBIR、中小企業技術革新研究)プログラムを設立した。その発起人であるRoland Tibbetts(ローランド・チベッツ)氏の言葉によれば「初期段階の優れた革新的アイデア、つまり有望でありながらベンチャー投資企業などの民間投資家にはリスクが高すぎるアイデアに資金を提供する」ことを主眼としている。
年間30億ドル(約3270億円)をわずかに超える契約や助成金が連邦政府機関によって分配された結果、SBIRは7万件の特許認定、ベンチャー投資企業による410億ドル(約4兆4600億円)の追加投資、700の企業の上場が達成された。
見事にデザインされたSBIRによって、何千というテクノロジー志向の起業家たちは、研究段階と製品化、新規市場とベンチャー投資の間に横たわる谷を渡ることができた。この先の10年間をかたちづくるためには、さらに才気溢れる科学者、技術者、起業家が何千人も必要となる。自宅のガレージで研究を開始することはできても、元手がなければ続かない。連邦議会は、現在SBIRに求められている極めて重要な3つの改良点を盛り込んだ「SBIR 2.0」の策定に今すぐ取りかかる必要がある。
第1に、SBIRが提供する資金を少なくとも10倍に増やして欲しい。300億ドル(約3兆2700億円)にしたところで、高々ワシントンの予算の丸め誤算の範囲内だ。例えば2020年の防衛予算は6930億ドル(約75兆4500億円)。また、2020年に1560億ドル(約17兆円)に到達した米国のベンチャー投資額のほんの数分の1に過ぎない。それでも、米国の産業を救うためには、間違いなく最も有効な対策だ。
第2に、SBIRの投資先を脱炭素や先進的製造技術などの決定的に重要な戦略的分野に集中することだ。脱炭素は、地球上の人類の未来を救うものだ。先進的製造技術は、ロボティクス、バッテリー技術、人工知能デバイス、積層造形といった重要分野の主導権を確立し、製造業投資における失われた世代を跳び越える力を与えてくれる。これ以上に注目すべき市場はあるだろうか?
そして最後に、審査と報酬のプロセスを高速化すること。良い例を1つ挙げるならば、米国空軍が2019年と2020年に実施した画期的な「ピッチデー」プログラムだ。わずか1分間で、最も優れたプレゼンを行った企業創設者(厳しい事前審査があるが)に助成金を贈るというものだ。物事がほぼ支障なく流れるこの才能の市場では、審査や資金の供給に時間をかけていては勝利は望めない。
バイデン政権が2021年2月末に発行した米国のサプライチェーンに関する大統領令から、ホワイトハウスがすでに精力的に政策づくりを行っていることが見てとれる。この政権の取り組みは、間違いなく数多くのアプローチにつながるはずだが、成功の鍵は、米国で使われずにいる大切な燃料、つまり創意工夫と国民の意欲に、絶え間なく焦点を当て続けることにある。
とにかく、この国の不景気にあえぐ地域を貧困から救い出すためには、当事者たちが起業家精神を持ち、自らの手で米国の製造業を再建できる手段を与えることだ。
【米TechCrunch注】TechCrunchの元CEOであるNed Desmond(ネッド・デスモンド)氏は、現在SOSVの上級業務執行ジェネラルパートナーを務めている。
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(文:Sean O’Sullivan、翻訳:金井哲夫)