今の法律関連の情報や裁判の判例などは複雑膨大だから、いくつかのキーワードで検索したぐらいでは、役に立つ情報がなかなか見つからない。
そこでY Combinatorから孵化したROSS Intelligenceは、IBMの人工知能システムWatsonの自然言語処理(NLP, natural language processin)の能力を利用して、法律文書をふるいにかけようとしている。
ドキュメントをキーワードで検索するのではなく、ふつうの英語で“Can an automatic stay be lifted if a plaintiff in another case requests it?”(原告が別の訴訟でそれをリクエストしたら債権執行の自動的停止を解除できるか?)と言えば、 複数の引用を確実性の等級をつけて出力する。ただし私自身はまだ試していないので、Lexis-Nexisとの比較などを、ここで述べることはできない。
カナダの弁護士で、長年法律の研究家でもあった協同ファウンダのAndrew Arrudaは、こう言う: “Watsonは、自然言語のような非定型データをうまく扱えると思うね。市場自体に、そういうニーズの高まりがあった。過去の判例や裁判官の判断などを、膨大な文書から迅速適切に取り出せるようになれば、われわれの‘法律産業’も変わるね。変化を前向きに受け入れる法律事務所も、今や多い。それはクライアントからのコスト圧力が、ますます強いからだ”。
あの悪名高き、法律事務所の課金対象時間(billable hour)は、1時間400ドルにもなることがあったが、数年前からすたれ始めている。それと同時に、文書作成などはインドなどにアウトソーシングされるようになっている。
ROSSによると、このようなコスト圧力の結果として、法律調査ソフトウェアの市場は年商84億ドルの規模に成長しており、そのユーザ(お客さん)である弁護士は、合衆国とカナダだけでも130万人近くいる。
“毎日、何千もの新しい法律が発布されている”、とArrudaは語る。“でもごく最近までは、法律に対するコンピュータの自然言語処理能力はきわめて表面的だった。ROSSは、ドキュメントの中にもっとも適切な小部分を見つけて取り出すために、人間の読み方や、関連テキストの見つけ方、状況に合った答えの見つけ方など、人間のやり方を律儀に模倣している”。
ROSSが得意とするのは、倒産や破産の分野だが、彼らは今そこに、いろんなサードパーティの素材も加えつつある。Arrudaと、そのほかの協同ファウンダJimoh Ovbiagele、Akash Venkat、Shuai Wang、Pargles Dall’Oglioなどは、神経科学とコンピュータ科学を専攻した人たちだ。
このサービスは、非公開ベータの今は無料で、何名かの法律の専門家たちがベータに参加している。
“Watsonをロースクールに入学させたね”、と人から言われるよ、とArrudaは語る。