起業家と投資家は数字に責任を―、後で分かる数字の誇張は誰のためにもならない

dd

編集部注:この原稿はJames Riney(ジェームズ・ライニー、 @james_riney)氏による寄稿である。ライニー氏はシリコンバレー発の世界で最もアクティブなシードベンチャーキャピタル「500 Startups」の日本向けファンド、500 Startups Japanの立ち上げメンバーでパートナーの1人だ。

先日、500 Startups Japanとある起業家の間にとても残念な出来事がありました。私たちは彼に投資したいという気持ちを強く持っていました。事業のコンセプトや取り組んでいる市場は良い目の付け所だと思えたし、初期のトラクションも好調でプロダクトマーケットフィットの達成はそう遠くないように見えました。そして何より彼自身の性格や才能を気に入っていました。大きな額を彼に投資することにワクワクしていただけでなく、リード投資家としてこの投資ラウンドをまとめるために、彼の事業に付加価値を提供できる他の投資家を招き入れるプロセスを進めていました。

リード投資家として投資を行う際は、デューデリジェンス(DD)を実施する責任があります。ここで言うDDとは、各種KPIや銀行口座の取引履歴、契約書などを確認するということです。基本的には、ピッチで示された数字や事実が正しいかどうかを調査します。これはもちろん、危険な兆候がないかをあくまでも念のために確認するということです。シードの投資家にとっては退屈かもしれませんが、VCとしてLP投資家からお金を預かっている以上、程度の差はあれど必ず行わなければなりません。リード投資家として、他の投資家を招き入れているのであれば、なおさらです。

私たちも当然、DDを行いました。様々な数字をじっくりと見て、顧客との契約を一つひとつ念のために確認しました。しかし、残念なことにそこに重大な不一致を見つけてしまったのです。多くの契約は既に満了していて、MRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)はピッチブックに載っていたものよりも低く、継続率は今や大きな懸念となっていました。

しかし、最悪なのは、この不一致によって創業者に対する信頼を失ってしまったことです。私たちはもはや気持ちよく投資を行うことはできなくなっていました。誠実でなかった(故意だった)にしろ、忙しくて詳細を把握できていなかったにしろ、いずれにしても大きな投資を受けるスタートアップとして適切な状況ではありません。最終的に、私たちは今回の投資を見送ることにしました。

この記事を書いたのは、この起業家を批判するためではありません。今回の件は悪意のないものだと信じていますし、今後も良い関係でいたいと願っています。しかし、この出来事を教訓として、みなさんに2つのことを伝えたいと思っています。

1つめは起業家に向けて。投資家に対して開示する数字に責任を持ち、その数字をDDにおいても確実に裏付けられるようにしておかなくてはいけません。投資家を説得し、投資を決意させるという苦労の後に、DDでそれを台無しにしてしまわないようにしましょう。そして言うまでもなく、何があっても数字に関して嘘をついてはいけません。

2つめは投資家へ。DDをしっかりと行いましょう。私たちは過ちや不正のないことを望んでいますが、残念ながらそれは理想にすぎません。今年の初め、今回と似たような、ただしより深刻な事件があったという話を聞きました。投資家たちがまさに送金をする直前に、投資家の一人が数字の根拠を最終確認したところ、当初言っていた数字と全く異なっていることが判明したのです。最後の最後のタイミングで、「念のために」確認したことは正しかったのです。

過去4〜5年で日本のスタートアップ業界は大きく成長を遂げました。多くの起業家や投資家が加わり、新たな局面を迎えようとしています。起業家にとっても、投資家にとっても、今後はデューデリジェンスについても、今まで以上に注意を払っていく必要があるでしょう。

( 写真: https://pixabay.com/en/guy-man-papers-field-grass-fog-691615/ )

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。