アリソン・ジョンストン氏は、死というものに関連するスタートアップを立ち上げようと考えていたわけではなかった。Googleに買収されたQ&Aアプリ「Aardvark」の初期の社員だった彼女は、InstaEDUという個人指導アプリを立ち上げ、それをCheggに売却した。彼女はマスマーケットの消費者向け製品を開発していたのだ。ところがその後、「私の家族が末期癌と診断されたのです。私は彼女のことをずっと憶えているにはどうすればよいか、と考えました」と、当時を思い出して語った。また別のソーシャルアプリを創り出すことは、それほど重要ではないと、すぐに判断した。
「私は葬儀業界について調べ始めましたが、身近に死を経験した家族を支援したり、案内したりするような拠り所となるものが、ほとんどないことに気付いたのです。オプションや価格について理解したり比べたりするのは難しく(いずれにせよ私がこれまで想像していたよりもはるかに高かったのですが)、そうした情報や、思い出を他の人と共有できるような良いツールもありませんでした」とジョンストン氏は語った。米国内では平均9000ドル(約100万円)にもなる高額な葬儀のコストと、いろいろなオプションを突きつけられて、ただでさえ危機に瀕した家族は、途方に暮れることになる。
ジョンストン氏が起したEver Lovedは、葬儀に関する手続きの間、心の安らぎを提供したいと考えている。これは、葬儀場、墓地、棺、骨壷、墓石を比較して購入し、レビューできるサイトなのだ。価格のガイドを提供し、Amazonで人気のある葬儀商品を推薦して5パーセントのアフィリエイト料を受け取る。それによって、Ever Lovedが無料で提供する追悼サイト作成機能の経費をまかなっている。そのサイトでは、葬儀の詳細、思い出や追想を共有することができる。さらに家族は資金を募集して、自分たちの費用をまかなったり、慈善団体を支援することさえできるのだ。
このスタートアップは、1年ほど前にSocial Capitalと、多くのエンジェル投資家からシード資金を調達した。今では、毎月何十万ものユーザーがEver Lovedのショッピングサイトや追悼サイトを訪れている。Ever Lovedは、ゆくゆくは、独自に葬儀サービスと製品の販売サイトを立ち上げたいと考えている。そこでは販売代金の10パーセントを徴収し、葬儀社に対して商取引用のソフトウェアを販売する。
「人は死について語りたがりません。私たちの社会ではタブーなのです。それにほとんどの人は、前もって計画するということを、まったくしていません」と、ジョンストン氏は語った。人の死に際して必要なものを慌てて準備するというのは、とても辛いものだ。ジョンストン氏は、Ever Lovedがそのストレスをいくらか軽くすることができると信じている。「私は、シリコンバレーの人が、ほとんど経験したことがないような分野を探したかったのです。それは、若くて都会に住むプロフェッショナルのためだけのものではないのです」。
この老朽化した業界を近代化することには、多くの機会がある。そのためには、持続可能なビジネスモデルと、人の感情を大切にすることが不可欠だ。ジョンストン氏によれば、葬儀場の86パーセントは独立した会社なので、ハイテクを導入するリソースを持っているところはほとんどない。この分野の数少ない大企業としては、時価総額70億ドルで株式公開しているService Corporation Internationalがある。葬儀社や墓所を統括してはいるものの、価格の透明性を確保したり、苦難の最中にある家族のためにユーザー体験を向上させたりといったことは、ほとんど実現できていない。評価やレビューが公開されない場合が多く、顧客は選択肢が多過ぎる割に、高い金額を払わされることになりがちだ。
スタートアップとしては、たとえばFuneralWiseのように、直接競合する企業もある。この会社は、教育とフォーラムに焦点を当てているものの、しっかりした予約機能や、追悼サイト作成機能は備えていない。もう1つのFuneral360は、Ever Lovedの最大のライバルだ。しかし、Ever Lovedの追悼サイトの方が見栄えがよく、ステップバイステップで使えるより踏み込んだ価格見積もりと、葬儀場に関する詳しい情報も得られる。
ジョンストン氏は、終活関連の販売による利益を、Ever Lovedの追悼サイト作成、資金募集機能の財政基盤とし、無料、または安い価格を維持したいと考えている。それによって、市場の関心を高め、先導的な役割を果たそうというのだ。しかし、未だ誰もブレークしておらず、結婚サイトThe Knotの葬儀版になることができていない。
私は学生時代からジョンストン氏を知っていた。彼女はいつも際立った先見性を持っていて、ブレークしそうなものを嗅ぎ分けていた。かなり初期のBox.comでのパートタイム的な仕事から、AardvarkでのQ&Aやオンデマンド解答、さらにはInstaEDUによるオンライン教育の急成長に至るまで、彼女は大きな潮流の先頭を駆け抜けてきた。そして、日陰に置かれてきたビジネスを再構築することは、現在のハイテクにとって運命的に重要なのだ。
Amazonでは、価格とレビューを前もって調べることができる。それにならってEver Lovedは、米国の葬儀社の約3分の2から料金の見積もりを集め、実際に使った人々の声を募集している。それにより、誰でも近所にある4つ星以上の葬儀場をすぐに検索し、質の高い結果をすぐに得ることができる。一方、葬儀場側では、契約して自分のページを持つことができ、情報を提供できるのだ。
Facebookは、オンラインのイベントページを広めた。しかし、その融通の効かないアクセス権、万能的な雰囲気、反感のせいで、葬儀の詳細を公開するには、礼を失した場所のように感じさせるきらいがある。また、故郷を離れた人々にとって、新聞はそうした情報を適切に広める媒体ではない。Ever Lovedは、このような厳粛な瞬間のために特別に作られたもの。招待状の管理を容易にし、追悼記事を収集する場所を提供し、写真や思い出も共有できる。
GoFundMeページへのリンクをクリックしなければならないというのも面倒なので、Ever Lovedは追悼サイトの中に資金集めの機能を備え、てきるだけ多くの寄付を募る。ほとんどの人にとって、葬儀には貯金している金額以上の費用がかかるので、これは非常に重要だ。Ever Lovedでは、手数料が課金されるだけで、サイトの訪問者の意思でチップを追加できるようになっているため、一般的な資金集めのサイトほど高くつくことはない。
それから、「2つの重要な点は、私たちのサイトですべてを確実に予約することができること、そして死後に必要なことをサポートできることです」と、ジョンストン氏は続けた。というのも、葬儀は死後の手続きの始まりに過ぎないからだ。Ever Lovedは遺されたものの処理にも手を差し伸べる。「誰かが亡くなった後にしなければならないことは、文字通り何十もあります。社会保障事務所への連絡、銀行口座を閉じ、Facebookのプロフィールを削除すること…」。
ジョンストン氏によると、44%の家庭で遺産を分割する際にもめごとがあるという。そして、それには平均で560時間、フルタイムの仕事に換算して3ヶ月もかかるというのだ。団塊の世代に属する人は、今後30年でいなくなる。その際、その資産の30兆ドル分が遺産として相続されることになると、彼女は主張する。その一部だけでも相続できるようにするため、会葬者に遺産分割の一般的な方法を説明する手段を提供することで、争いを軽減することができるはず。その部分で、Ever Lovedは利益を得ることができるかもしれない。
「最初のころは、私も、これについて人々に話すことが気まずかったのです。私たちは死というものを嫌うので、いろいろな面で行動が妨げられているのです」と、ジョンストン氏は締めくくった。筆者自身の家族も、これに苦しんだ。死ぬことを受け入れるのを拒んだ結果、祖父母は自分たちがいなくなった後のことを計画することができなかった。「しかし私は、これは会話を始めるとても良い機会であって、決して沈黙すべきときではないと、すぐに気付きました。これは、人々がより多く話し合い、そこからより多くのことを学びたいと思うはずの話題なのです。ハイテクは、すでにそこそこの人生や仕事を手にしている人にとって、単にそれらをより良くするためだけのものでありがちです。ハイテクが悲劇を和らげられれば、シリコンバレーにとって歓迎すべき進化でしょう」。
画像クレジット:ProCollage
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(翻訳:Fumihiko Shibata)