過敏性腸症候群(IBS)は、20人に1人が患っていると言われている。腸の働きに関係する一般的な疾患で、腹痛やトイレ利用にともなう困難など、さまざまな症状を引き起こす。
腸内環境を整えるには、特定の食品を避けることが有効だが、食餌療法の多くは非常に制限が厳しい、とAnjie Liu(アンジー・リュー)氏は話す。同氏は、ボストンのバイオテクノロジー企業であるKiwi Bio(キウイバイオ)の共同創業者で、過敏性腸症候群とともに生活することの難しさを身をもって知っている。
「食後にお腹が痛くなって医者に行き、その医者が専門家を紹介してくれる、というのがIBSのたどる典型的な道筋です。どこが悪いのか自分でわかる人はいません」とリュー氏はTechCrunchに話した。「IBSに悩む人は10〜15%ですが、正式な診断を受けるのはそのうち半分だけです」。
自らの体験から、リュー氏はDavid Hachuel(デビッド・ハウエル)氏と組み、同じくIBSに苦しむ4000万人の米国人のために、食事を苦痛のない行為にする方法を開発することにした。Kiwiの最初のプロダクトであるFODZYMEは5月に発売された。FODZYMEは、特許出願中の酵素を使って、共通の消化器系の誘因を分解する。
そして米国10月14日、Kiwi Bioは150万ドル(約1億7000万円)のシードラウンドを発表した。同ラウンドには、Y Combinator、North South Ventures、Surf Club Ventures、Acacia Venture Capital Partners、Emily Leproust(エミリー・レプロスト)氏が運営するファンドSavage Seed、Goldenの創業者であるJude Gomila(ジュード・ゴミラ)氏などの投資家が参加した。
6年前にIBSと診断されたリュー氏は、多くの人が最初は薬を試してみるものの、普段摂っている食品の半分をカットする以外に症状を抑える方法がないことに気づくという。「低フォドマップ食」と呼ばれるこの食餌療法は、医師の80%が処方する。だが「実践が非常に難しく、結果的に順守度合いが低くなってしまう」と同氏は付け加えた。
多くの人にとって、これはニンニクやタマネギなどの食品を避けることを意味する。3年近く食餌療法を続けたリュー氏にとって、それは人生や食の楽しみを失うことでもあった。FODZYMEの最初の製品があれば、ニンニク、タマネギ、バナナ、小麦などの食品に粉末を振りかければ食べることができる。
同氏は、カプセルよりも粉末の方が食品になじみやすいという理由から、粉末を採用したと説明する。
「臨床試験の結果、カプセルは酵素を届ける方法としては最悪の部類に入ることがわかりました」と同氏はいう。「カプセルは人間の腸まで届きません。実際にユーザーに作用する場所は腸です。当社の製品が食品に直接かける粉末タイプなのはそのためです」。
また、Kiwiはチュアブルタイプや、糖アルコールの働きを抑えるサプリメントも開発した。FODZYMEに含まれるすべての成分は、米食品医薬品局によって安全性が認められていると同氏は付け加えた。
同社の顧問の1人で、ブルックリンにあるニューヨーク州立大学ダウンステート校の小児消化器科医であるThomas Wallach(トーマス・ワラック)氏は、Kiwiの仕事は、証明されていないコンセプトに頼っている他の消化器系の健康分野の企業や、IBSや腸の不調におけるプラシーボ効果が非常に強いという事実とは異なると考えているとメールで述べた。
「正直なところ、安全な製品で調子が良くなるのであれば、それは何の問題もありませんし、私にとってもうれしいことです」と同氏は話す。「しかし、Kiwiは本当の治療薬の導入を目指しています。IBSから腸管運動機能不全、短腸症まで、いくつかの症状に応用できる可能性があります。斬新で刺激的なアイデアであり、この研究に携われることをとてもうれしく思っています」。
ワラック氏は、過敏性腸症候群などの腹痛症を専門とする臨床医であり、腸管上皮のホメオスタシス専門のトランスレーショナル・リサーチャーでもある。同氏は、ガスが張りを悪化させると説明する。私たちの腸内細菌叢はフォドマップを食べ、多くの細菌がそれをガスに変える。低フォドマップ食は、ガスを減らすことを目的としており、特に関節過可動や自律神経失調症の人には非常に良い成功率を示しているという。
低フォドマップ食は制限が多いというリュー氏の話に加え、ワラック氏は、食物繊維が多く摂取できないため、結果的に細菌叢が悪影響を受ける可能性があると付け加えた。Kiwiは「食物繊維のためのラクチド」であり、IBS患者は多少の準備があれば自由に食べられるという。
「結局のところ、食物繊維は体に良いものであり、それを食事から取り除くことは持続可能ではありません」とワラック氏は付け加えた。「Kiwiの酵素パッケージは、フォドマップを事前に消化し、理想的には、食物繊維の排除や栄養制限を避けながら、大腸に至るフォドマップを減らすことができます。彼らが経験的検証に重点を置いていることに非常に感銘を受けました。彼らは、試験管内モデルシステムでの試験と、臨床試験への迅速な移行を計画しています。臨床試験に移行できるのは、Kiwiの酵素パッケージが一般的に安全な物質とみなされているためです」。
一方、Kiwiにとってこの夏は忙しかった。リュー氏とハウエル氏は、Y Combinatorの夏のコホートに参加し、Kiwiの在庫は今夏2回も完売した。FODZYMEは1本39ドル(約4300円)で、30日分または60日分を購入することができる。同社は現在、600人以上の顧客にサービスを提供しており、毎週18%のペースで成長している。
同社は、製品の拡大に向け、サプライチェーンの強化に取り組んでいる。また、成長部門の責任者と、コミュニティエンゲージメントおよびサクセス担当マネージャーを採用した。
今回の資金調達により、同社はFODZYME製品を成長させ、未解決のフォドマップ群に効く新しい酵素など新製品を開発するとともに、計画中の臨床研究を支えることができる。
「資金調達の過程で、Kiwi Bioは、従来のバイオテック企業の型にも、従来の消費者製品、食品、消費財企業の型にも当てはまらないことがわかりました」とリュー氏は語る。「私たちは、当社を構成するすべての要素を支援できる投資家の適切な組み合わせを見つけなければなりませんでしたし、特に分岐点で考えるのが得意な投資家を見つけなければなりませんでした」。
画像クレジット:Kiwi Bio co-founders David Hachuel and Anjie Liu/Kiwi Bio
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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi)