ウォールストリートにある14の金融機関を投資家・ユーザーに持つ、暗号化メッセージサービスのSymphonyが、新たなラウンドで2億ドルを調達中であることがわかった。調達前の評価額は10億ドルを超えると見られている。既存の投資家に加えて、新たにシンガポール政府が(Temasek、GICを含む)投資部門を通してラウンドに参加する予定だ。Symphonyは調達資金を使って、現存する金融機関向けサービスの内容を拡充すると共に、ヘルスケアなど他分野の顧客獲得も狙っている。
同社は、最近では2015年3月に1億ドルを調達しており、Symphony社内の情報筋によれば、当時の評価額は7億ドルだった。既存の投資家には、Google、Lakestar、Natixis、Societe Generale、UBS、Merus Capitalのほかにも、Bank of America、BlackRock,、Citibank、Deutsche Bank、Goldman Sachs、HSBC、JP Morganを含む14の大手金融機関からなるコンソーシアムが挙げられる。また、これまでにSymphonyは合計1億6600万ドルを調達してきた。
1億2500万ドルから2億ドルの規模に達すると情報筋が伝える今回のラウンドは、既に完全にクローズしているかどうかは分かっていないが、投資ラウンド自体はSymphonyが追加資金を必要として主導したわけではなく、むしろ投資家から同社に声をかけていたようだ。
さらに、ラウンドがはじまってから既にある程度の期間が経っているようだ。今年の10月には、General Atlanticやシンガポール政府などを新たな投資家候補とし、Symphonyが最大1億ドルを調達中だとThe Wall Street Journalが報じており、私たちが入手した情報と内容が一致している。
Symphony自体は、今回のラウンドについて直接コメントを発表しようとしていない(今回も投資家が同社にアプローチしてラウンドが開催されたと噂されている)。
Symphonyの広報担当者は「私たちは追加資金を必要とはしていません。既に現在のオペレーションや将来の成長戦略に必要な資金は確保しています」と話す。それとは別に、同社のCEO兼ファウンダーのDavid Gurleは広報担当者を通じて、ラウンドの存在と評価額が10億ドル以上であったことを認めている。
Symphonyは2014年に、同社の投資家である複数の銀行から成るコンソーシアムが、Perzoと呼ばれるメッセージングサービス企業を買収して「Bloombergキラー」を作ろうとする中で誕生した。ここでのBloombergとは、Bloombergが金融期間向けに製造・ライセンシングしている、メッセージ機能、株価・ニュース機能を備えたオールインワン端末を指している。
各銀行は、誰も必要としていない、もしくは利用していないデータで溢れた高価なBloomberg端末に不満を感じていた。さらに、顧客や関係者とはWhatsAppなど他社のサービスを使ってメッセージのやりとりを行う利用者も増えていた。
Symphonyは、不要な機能を削ぎ落とした、両者の間を埋めるようなプロダクトなのだ。
メッセージ機能を核としつつ、今年に入ってからは新たな主要機能もいくつか追加された。今ではSymphonyを使って、音声通話やビデオ通話ができるほか、Slackなどのアプリのように、ユーザーがニーズに応じてサードパーティーアプリを追加し、機能を拡大できるような仕組みも導入されている。現状のSymphony用マーケットプレースのサイズは小さく、5つのアプリしか登録されていない。その内訳は、Dow Jones、ビジネス向けキュレーションアプリのSelerity、Chart IQ、S&P market intelligence、そしてSelerityに加えてさらなる情報源となるFintech Studiosだ。
極めて携帯性が高い(スマートホン上でも利用できる)上、Symphonyの利用料はBloombergターミナルとくらべてかなり安い。Bloombergターミナルは、端末1台で年間約2万5000ドルほど(バルクで導入するともう少し価格は下がる)のコストがかかるところ、Symphonyはフリーミアムモデルを採用しており、有料プランも1ユーザーあたり月額15ドルで利用できる。
最後に大切な事項として、このプロダクトの鍵は、会社を超えて外部とコミュニケーションをとる必要がある人をターゲットとしつつも、セキュリティや規制ポリシーにはしっかりと準拠しているということだ。「銀行とのコラボレーションの難しさを知っている人であれば、この点だけでSymphonyが偉業を成し遂げたと理解できるでしょう」とある人は語る。
MicrosoftやFacebookといった大手テック企業は、さまざまな分野でSlackのような企業と、職場におけるコミュニケーション・コラボレーションプラットフォームの座を奪い合っている一方、Symphonyはターゲットを絞ることで、彼らとは大きく違ったアプローチをとっている。
これまでのところ、Symphonyは金融機関というひとつの業界にターゲットを絞ってきたが、私たちが聞いたところによれば、長期的には他の業界へも手を伸ばそうとしているようだ。
Symphonyは金融機関のように特定のニーズがある業界を狙っているが、どんな生産性向上ソリューションも、同僚や仕事相手と効率的に話ができるようなチャットサービスを必要としている。同社の次のターゲットはヘルスケア業界だという話を聞いているが、政府から教育、科学まで、Symphonyはさまざまな業界で活躍する可能性を持っている。
追加レポート:Ron Miller
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)