粒子加速器について何も知らない人でも、それがときには数マイルにも達する巨大な設備であることは知っているだろう。しかしスタンフォード大学の研究者たちの新しいやり方では、加速器を人間の髪の毛よりも細くできる。
基本的な考え方としては、粒子加速器とは長い長い放射線放出器で、それがターゲットの粒子を正しいタイミングで放射線で叩くと、粒子は前よりもやや速く進むようになる。問題は、使用する放射線の種類と速度、そして得られるエネルギーの大きさによっては、加速器はとても巨大で高速な装置になることだ。
そのため、利用も限られてくる。長さが500mもあって数MW(メガワット)の電力を消費する装置を研究室や診療所には置けない。それほど強力でなくてもいいので、もっと小さければ便利だ。それがスタンフォードの科学者たちが挑戦した課題だ。
プロジェクトのリーダーのJelena Vuckovic(エレナ・ヴァコビッチ)氏がスタンフォードのニュースリリースで「加速器を小型化して研究の道具としてもっと使いやすくしたかった」と述べている。
しかしそれは、Large Hadron Colliderやスタンフォード線型加速器センターのNational Accelerator Laboratoryにあるような従来型の粒子加速器とは設計がまったく異なる。彼らはボトムアップのエンジニアリングではなく、自分たちの要求を「逆設計アルゴリズム」(Inverse Design Algorithm)に与えて、彼らが使いたいと思っていた赤外線放射器から必要とするエネルギーパターンを作り出した。
それは、赤外線の波長がマイクロ波などよりずっと短いので、とても小さなメカニズムを作れるからでもあった。でも、小さすぎるので通常のやり方では適切な設計が不可能だろう。
チームの要求に対するアルゴリズムのソリューションは、粒子加速器というよりはロールシャッハテストのような奇抜な構造だ。でもその泡と水路のようなものは、赤外線レーザー光のパルスを正しくガイドし、中心に沿って電子を光速に近い速度で押し上げることができた。
結果として得られた「加速器チップ」は、直径がわずか数十ミクロンで、人間の髪の毛よりずっと小さく、針の頭に数本を乗せることもゆうゆうできる。数本というより、数千本が正しい。
そして電子のエネルギーを実用レベルに上げるためにも、数千本が必要だろう。そこまでは、計画に含まれている。チップは完全な集積回路だが、それらを長い列状に接続して大きなパワーを作り出せる。
これはSLACやLarge Hadron Colliderのような大型の加速器に対抗するものではなく、惑星を破壊するほどの強大なパワーは要らない研究や臨床目的に利用できる。たとえば、チップのように小さな電子加速器は、放射能を皮膚を通さずに腫瘍に直接照射して、手術ができるだろう。
チームの研究論文は1月2日発行のScience誌に載っている。
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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa)