電気通信大学は2月14日、他の身体の部分から独立して制御できる人工の指を装着した人が、それを自分の体の一部として取り込むことができるかという実験に成功したことを発表した。これは、もともと体に備わっていない6本目の指を、人は自分の体として感じ、動かせるのかを検証するもの。それを世界で初めて、実験的に立証したという。
人間の脳は身体の変化に柔軟に対応できるというが、まったく新しい身体部位を人工的に与えられた場合に、それを自分の身体として自由に動かせるようになるのか。本来備わっている部位とは独立して動く人工の部位を、人は新たな身体として獲得、つまり「身体化」できるのか。そうした疑問に答えるべく、電気通信大学大学院情報理工学研究科(梅沢昂平氏、鈴木悠汰氏、宮脇陽一教授)とフランス国立科学研究センター(CNRS。Gowrishankar Ganesh氏)は、共同で人工の指「sixth finger」を開発し、実験を行った。
研究グループが開発したのは、手の小指の脇に第6の指となる、腕の筋肉の電気活動によって制御できる人工指システム。腕の筋肉の電気活動をセンサーで計測し、それが、普通に指を曲げ伸ばしするときに生じる腕の筋肉の電気活動とは異なる特定の信号パターンになったときにのみsixth fingerが動くようにした。こうすることで、本来の指や他の身体部位とは関係なく、sixth fingerを動かすことができる。
被験者は18名の成人。各自がsixth fingerを装着し、自身の指とsixth fingerを使った指の曲げ伸ばし、キータッピングといった習熟タスクを平均1時間程度行った。その結果、全員がsixth fingerを直感的に動かせるようになったという。
習熟タスクの後、sixth fingerの使用に慣れた後の感覚や行動の変化を確かめた。たとえば、特定の位置に手を伸ばすとき、途中に置かれた障害物を回避する軌道から、手の幅に関する感覚の変化が読み取れた。また、手の幅や小指の位置の感覚が曖昧になっていた。それらのことから、「身体化に対する主観的な感覚が、行動変容によっても客観的に」裏付けられたという。
今回の実験により、「既存の身体部位と独立して動かすことができる人工身体部位が工学的に実現可能」であることがわかった。もっと力の出る駆動系を使い、実際に「使える」指を作れば、6本指による高速タイピングや、ギターやピアノの演奏も可能になり、「豊かで便利な生活の実現」に貢献できると研究グループは話す。さらに、3本目の腕や4本の足、尻尾や羽などの人工器官を身体化に挑戦できる可能性も秘めているとのことだ。