1日70円で傘を使用できる“傘のシェアリング”サービス「アイカサ」を展開するNature Innovation Groupは6月12日、JR東日本スタートアップと三井住友海上キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、総額で約3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。
JR東日本スタートアップとは業務提携も締結し、駅や駅ビルなどへのアイカサ導入を加速させる方針。まずは本日よりJR上野駅・御徒町駅にアイカサが設置される。
これまでも何度か紹介しているアイカサは傘のシェアリングエコノミーサービスだ。ユーザーはLINEアプリから専用の傘が設置されている「アイカサスポット」を探し、QRコードを読み取り傘のロックを解除する。
借りた傘はどのアイカサスポットで返却しても良く、1日に何回借りても料金は70円。1ヶ月の上限金額は420円のため、6日以上使った場合もそれ以上追加で課金されることはない。決済はクレジットカードまたはLINE Payを通じて行う。
遊休スペースをアイカサスポットとして提供する事業者などはアイカサ利用料の一部をレベニューシェアとして受け取れるほか、顧客との新たな接点を作るためのチャネルとしても活用できる仕組みだ。
2018年12月の正式リリースから約半年、当初は渋谷の50箇所からスタートしたアイカサスポットは上野エリアを含めると200箇所を突破。設置している傘の本数も3000本〜4000本ほどに増え、登録ユーザー数も2万人を超えた。
利用するには決済情報とLINEのIDが必要なこともあり、今の所は返却率に関してもほぼ100%だという(一部で買取りたいというユーザーや、間違って持って行ってしまうユーザーはいるとのこと)。
Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司氏いわく「リリース前には1箇所ずつ飛び込み営業をして何とかスポットを開拓していた」状態だったが、シェアリングエコノミーやSDGsの認知が広がっていること、少しずつ提携の事例が積み上がってきたことで、直近では当初思い描いていた以上にスポットの開拓が進んでいるようだ。
「インバウンドで問い合わせを頂いたり、こちらから話をするとすでに知ってくださっていたり。(タッグを組む)企業からの反応が半年で大きく変わり、お金を払ってでもアイカサを置きたいと言ってくれる事業者も出てきている。単に数が増えているだけでなく、自分たちにとって重要な場所に設置できるようになってきた」(丸川氏)
2月には都内にあるローソン5店舗にアイカサを設置した。以前丸川氏に取材した際に「日本では年間で約8000万本のビニール傘が消費されていて、それをリプレイスしていきたい」という話をしていただけに、実証実験段階ではあるものの正式にコンビニとタッグを組めたことは大きな変化と言えるだろう。
この実証実験を通じて成果が見込めるようであれば、今後はより多くの店舗へアイカサを設置する計画だという。そのほか多店舗展開する事業者としてはメガネスーパーとも提携。オフィスに無料でアイカサを導入できる法人向けのプランも始めている。
加えて直近では自治体や街の交通インフラを担う鉄道会社、不動産デベロッパーとも提携に向けて動いているそうだ。5月には福岡市やLINE Fukuokaと協力して福岡に上陸。福岡市営地下鉄天神駅や西鉄福岡駅、キャナルシティ博多など約50箇所のスポットに1000本の傘を設置した。
本日6月12日からは冒頭でも触れた通り上野での本格展開もスタート。JR上野駅・御徒町駅に加え京成上野駅や東京国立博物館、東京都美術館、アトレ上野店、松坂屋など約50箇所が追加されることになる。
福岡ではすでに先行して駅への設置が始まっていたけれど、都内では今回の上野エリアが初めて。これが広がれば毎日のように電車移動するビジネスパーソンや学生などにとっては、より使い勝手がよくなりそうだ。乗車駅と降車駅双方にアイカサスポットがあれば、電車内に濡れた傘を持ち込まずにも済むだろう。
「JRでは全グループを合わせると推定で数千万本の傘を毎年処分しているという。忘れた傘をわざわざ取りに行く人もいないので、一定の処分コストもかかる。シェア傘の場合は処分することなく、同じ傘がぐるぐる回って行くので『移動を便利にすることで都市を快適にする』という考え方にもフィットして、今回の業務提携に至った」(丸川氏)
Nature Innovation Groupは京浜急行電鉄のアクセラレータープログラムにも採択されていて、今後は京急品川駅などへの設置も予定しているそう。アイカサをプラットフォームとして浸透させていくためには「各鉄道会社や事業者が(別のサービスではなく)共通してアイカサを導入していることが必要」(丸川氏)であり、今年はそのための提携に力を入れていく方針だ。
「半年間運営する中で、いい場所に傘を置ければしっかりと使われることはわかってきた。まずは駅周辺を中心にスポットを増やし、商業施設やオフィスビル、レジデンスまで広げていきたい。外出中に雨が降ってもすぐに傘を貸し借りできるような環境を作ることができれば、雨の日でも手ぶらで移動できるようになる。アイカサを雨の日のインフラにしていきたい」(丸川氏)
今後は新しい取り組みとして、サブスクリプションモデルのプランも計画しているとのこと。まずは今回調達した資金も活用して傘の製造とエリアおよびアイカサスポットの拡大を進める予定で「東京五輪が開催される2020年に3万本の設置を目指す」という。