「社会人で独立して起業する人、特に大手企業や事業会社からスピンアウトしてスタートアップする起業家を積極的に応援したい。自分自身も同じような境遇だったからこそ、気持ちが理解しやすい部分もある」——関連子会社も含め約10年間務めたサイバーエージェントを退職し、2018年1月に独立系VC「アプリコット・ベンチャーズ」を設立した白川智樹氏は、今後の目標についてそう話す。
同社は6月11日、約7億円規模の1号ファンド「Apricot Venture Fund 1号投資事業有限責任組合」を組成したことを明らかにした。
ファンドの主な出資者はインキュベイトファンドLP投資事業有限責任組合、マイナビ、東急不動産、Mistletoe Venture Partners、個人投資家など。今後も2018年秋を目途に引き続き出資者の募集を行い、総額で10億円のファンドを目指すという。
よりリスクをとって起業家をサポートしたい
白川氏は2008年に新卒でサイバーエージェントに入社。広告部門やゲーム関連子会社で約5年間働いたのち、2013年からサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)に参画し、創業期のスタートアップ20社へ投資をしてきた。
「もともとは自分で起業することを考えていたが、当時CAVの代表だった田島さん(現在はジェネシア・ベンチャーズの代表を務める田島聡一氏)に声をかけられたのをきっかけにVCの道へ進んだ。もちろん主役は起業家だけど、その側にいながらたくさんの課題解決を応援できるVCの仕事にどんどんハマっていった」(白川氏)
CAV時代は当初こそ自身のバックグラウンドを生かした広告やゲーム関連のスタートアップへ投資をしていたそうだが、その後は領域を拡大。先日新たに9億円を調達したシナモンのほか、グルメ領域のfavyやインフルエンサーマーケティングのVAZ、語学学習サービスのLang-8、マッチングアプリのDine(Mrk&Co)などを担当した。
引き続きCAVに所属し、さらに多くの起業家をサポートするという選択肢もあっただろう。ただ業界が少しずつ変化していく中で、白川氏も徐々に独立を考えるようになっていったという。
「ここ数年で独立系VCやエンジェル投資家も増えてくる中で、『どうやって素敵な起業家から選んでもらえるようなVCになるか』をずっと考えていた。今後もこの業界でやっていきたいと思った時に、自分自身もさらにリスクをとるべきではとないかと決断した」(白川氏)
投資家側の変化だけでなく、起業家側の変化もある。TechCrunchでも度々紹介しているように、最近は実際にレガシーな業界で職務経験を積んだ起業家が、その業界の課題をITで解決するべくスタートアップするような事例が増えた。
「わかりやすいコンシューマー向けのサービスがだいぶ飽和してきた一方で、業界の知見がある方が独立し、その業界向けのサービスを立ち上げるケースが増えている。大企業で活躍した人材が起業する時代になってきているが、社会人は独立するまでに時間がかかる場合も多い。(彼ら彼女らを)会社設立前からサポートする仕組みを作りたい」(白川氏)
スピンアウトした起業家を後押しできる環境を
アプリコット・ベンチャーズでは日本を中心とするシードステージのスタートアップに対して、1社あたり平均で2000〜3000万円を出資する予定。上述したとおり、特に大手企業や事業会社から独立した起業家を積極的にサポートしていく。
白川氏によるとすでに3社へ投資済み。CAV時代から担当していたfavyや、ウェブペイ・ホールディングスをLINEに売却した経験を持つ、連続起業家の久保渓氏が新たに立ち上げた600が含まれる(もう1社は非公開)。
アプリコット・ベンチャーズの方針としては「これまでの活動を通してできたネットワークも活かしながら、同年代の起業家同士や先輩経営者、各分野のプロフェッショナルのコミュニティを通じて起業家を応援していきたい」と話す白川氏。投資先が入居できるコワーキングスペース「GUILD SHIBUYA」を渋谷で運営し、気軽に相談できる機会を設けていくという。
ちなみに割とアンズが好きな僕としては、なぜアプリコット・ベンチャーズなのかどうしても気になったので尋ねてみたところ「もともとはオレンジ色のロゴにしたいと思ったこと」がきっかけとのこと。
世界のVCのロゴを調べてみると比較的クールな色やかっこいい雰囲気のロゴが多かったが、白川氏のバックグランド的にもサービスっぽい雰囲気にしたかったのと、そこまでガツガツいくタイプではないので、少しゆるさもあるふんわりとしたオレンジがよかったのだという。
白川氏によると「アンズはアジアだと『サポートする、お手伝いをする』といったニュアンスのある果物」らしく、起業家を常にサポートし続けるVCでありたい、ということでアプリコットになったそうだ。