スマホ1つで簡単にゲーム配信ができるプラットフォーム「Mirrativ」を展開するミラティブ。リリース4周年を迎えた8月にはサービスの登録ユーザー数が900万人を突破したことを公表するなど、着々と土台を築きつつある。
そのミラティブは10月1日、新たにCHRO(最高人事責任者)とCPO(最高プロダクト責任者)が就任し7人のCxO体制になったことを明らかにした。
今回ミラティブに参画したのは元SHIFT取締役でメガベンチャーでの人事経験も豊富な鈴木修氏(CHRO)と、DeNAでゲーム事業本部長を務めた経験を持つ大野知之氏(CPO)。同社では経営体制を強化しさらなる事業拡大を目指す計画だ。
- CEO / 赤川隼一氏 : 元DeNA執行役員、「Yahoo! モバゲー」など複数事業立ち上げ
- CTO / 夏澄彦氏 : DeNAでリードエンジニアとして新卒MVPを獲得
- CPO / 大野知之氏 : DeNAにてゲーム事業本部長を経験、メルペイを経てジョイン
- CCO / 小川まさみ氏 : AppBankの子会社apprimeの元社長
- CSO / 岩城農氏 : セガゲームス取締役CSOやセガネットワークス立ち上げを経験
- CHRO / 鈴木修氏 : メガベンチャーの人事責任者を経験、元SHIFT取締役
- CFO / 伊藤光茂氏 : 元Gunosy取締役CFO
ミラティブが8月に公開した資料に詳しいが、同サービスはこの1年間でさまざまなアップデートを実施している。
以前紹介したアバター機能の「エモモ 」を軸として昨年10月には「エモモアイテムガチャ」をスタート。今年5月にはエモモでカラオケ配信ができる「エモカラ」もリリースした。
並行して昨年10月からは視聴者が配信者にギフトを贈ることができる「ギフト機能」を開始。収益化に向けた取り組みも始めた。
サービスの規模を見てもユーザー数は900万人を超え、1000万人規模に迫る勢い。この規模になっても配信者の比率は約20%で160万人以上がミラティブを使って配信を行っている。
今回TechCrunch JapanではCEOの赤川氏とCPOに就任した大野氏に話を伺う機会を得たので、ここからは同社の直近の変化と今後の展望を紹介したい。
ゲーム会社との連携加速、目指すは「ゲームのおとも」
赤川氏が直近のアップデートとして挙げたのが「ゲーム会社との連携加速」「『ゲームのおとも』としての機能強化」「新たなエンタメ体験の時代に向けたR&D」の3つだ。
ゲーム会社との連携加速
ミラティブでは4月に任天堂との提携を発表しているが、赤川氏いわく「ゲーム会社にとって明らかにメリットが出るスキームが生まれてきた」そう。具体的にはミラティブの利用前後でゲームのリテンションレート(RR)や課金額などのKPIが「こんなに綺麗に結果に出るかというくらい上がる」ことがわかってきたという。
「今まではRRくらいしか見えていなかったが、課金率やヘビーユーザーの課金額などいろいろな側面で劇的に向上することが可視化されてきた。それもあってゲーム会社との連携をさらに強めていけないか、プロダクト側でも模索している段階だ」(赤川氏)
直近ではゲーム会社と一緒になって「そもそもどのような指標でユーザーの行動を計測するべきか」の議論も始めている。
「CPIのようなダウンロードを重視するマーケティングは今の時代に合っておらず、本質的ではない。競争が激しくなる中で今後はエンゲージメントやコミュニティをいかに強くするかがより重要になる。広告の費用対効果を測る指標として『ROAS』のような概念が普及したように、ゲーム業界でもよりリテンションに効く指標、考え方を定義していくことが必要だ」(赤川氏)
ゲームの“おとも”としての機能強化
これまでもミラティブは“コミュニケーションツール”であることを重視しながら機能開発を進めてきたが、今後はより独自性を出すべく「ゲームの“おとも”」としてアップデートを進める。
「あつまる、つながる、一緒にあそぶ」といったキーワードとなるタグラインを設定してユーザーにその文化を伝えていくだけでなく、それに基づいた機能を順次提供する計画。たとえばミラティブでモンストの様子を配信すれば、IDが視聴者に伝わり簡単にマルチプレイができるといった形だ。
「自分の中では動画サービスとライブ配信サービスは全く別物として捉えている。動画化とは情報のリッチ化で、従来の料理レシピコンテンツがレシピ動画に変わったようなもの。一方で自分たちが取り組んでいるのはコミュニケーションのリッチ化。例えるならメールがLINEになったようなものだ。よりリアルタイムで人と人がコミュニケーションすることで新しい友達が増えたり、楽しさが増したり。初期からミラティブはこの領域で価値を磨いてきた」(赤川氏)
とはいえ周囲からはゲーム実況サービスとして情報的価値や動画的価値を期待されることもあった。だからこそ、ゲームの“おとも”をテーマに掲げコミュニケーションサービスとしてもう1段階進化するフェーズを迎えているという。
高速インターネット化の流れでいろいろなエンタメが混ざる
3つ目は取り組みというよりは最近の業界動向を踏まえた赤川氏の考えに近い。
Googleがゲームストリーミングサービス「Stadia」を発表したり、Netflixがゲームを作ったりといったことを筆頭に近年IT業界界隈でも改めてゲームの注目度が増しているように思う。今年2月にマシュメロが「Fortnite」内で開催したバーチャルライブには推定で1000万人が参加したとも言われ、大きな話題を呼んだ。
赤川氏は「5Gの高速インターンネット化の流れに向けていろいろなエンタメが混ざっているような感覚。それらがゲーム的な体験に移り変わってきている」という考えを持っているそう。ミラティブはまさにゲーム的な体験とコミュニケーションを融合させたものだが、このテーマにはまだまだR&Dのしがいがあるという(5月に公開したエモカラもその1つと言えるかもしれない)。
「スマホが世に出始めた時はそこに1番フィットしたものが『TikTok』のような体験だとは誰も思っていなかったはず。5Gの時代が本格化した際、ゲーム実況の延長戦上に新しいインタラクティブなエンタメ体験が出てくるのではないか。現時点で具体的なものが見えているわけではないが、大きな可能性を感じている」(赤川氏)
キーワードはゲーム“実況”からの卒業
今後ミラティブをより多くのユーザーへ使ってもらうプロダクトにする上で、どんなことが必要になるのか。CPOの大野氏は「スマホゲームユーザーの全員がミラティブを使っているような状態が1つの目標」とした上で「ゲーム“実況”からの卒業」を1つのキーワードにあげる。
「『実況』という言葉を使うと、どうしてもYouTuberのような面白さやクオリティを求められがち。でもミラティブで配信する人は必ずしも全員がゲームを上手くなくてもいい。ゲームのやり方や攻略法を教えてあげたいという視聴者もいて、実際にそういった楽しみ方もされている」(大野氏)
ニュアンス的には「部屋を開いてる」「友達の部屋にあげてもらってる」などの表現が近いそう。ミラティブでは当初から「友達の家でドラクエをやっているような感覚」という表現でサービスのイメージを紹介しているけれど、その友達がドラクエを上手い必要もなければ喋りのプロである必要もないのと同じことだ。
「毎回違う友達の家に集まるような感覚で、常に同じ1対多の関係性ではなく、日によって違う配信者の元に集まってもいい。ミラティブの本質的な価値は新しい友達ができたり、それによってゲームやコミュニケーションがより楽しくなること。一瞬でマルチプレイができる機能などを1つのフックに、特定のゲームがより便利になる、楽しみ方が増えるという体験を広げていきたい」(大野氏)
「リリース時からコンセプトは変わらないが、これまではわかりやすく伝えるために『ゲーム実況が簡単にできる』という打ち出し方をしてきた。今後はゲーム実況をしたことがある人は限られたとしても、ゲームをしながら喋ったことがある人やゲームを誰かと共有したことがある人は増えていく。その数をいかにスマホゲーム人口とイコールになる規模まで近づけられるかが今後のチャレンジだ」(赤川氏)
冒頭で触れたCxO陣以外にも、メガベンチャーやスタートアップの取締役・執行役員経験者を始め実績のあるメンバーが集うミラティブ。2月に35億円を調達した際には年内に100人規模までチームを拡充させるという話もあったが、今後も採用には力を入れていくという。
「スマホゲームは日本のIT界隈でも明らかなビッグウェーブで世界に勝てるチャンスがある領域。実際に急速に市場が伸びた一方で、近年は中国系の企業などの勢いが増している。自分たちの加速的な競合はまさに中国企業。ゲーム実況の領域でも5000億円を超える上場企業がでてきている状況において、グローバル戦争の中で勝ち続けられるだけのチームを作っていく」(赤川氏)