東京大学と慶應義塾大学からなる研究グループは、気体に含まれる分子(揮発性分子)を電気信号として検出する分子センサー1024個を1チップに集積化したセンサーアレイ(センサー群)を開発し、揮発性分子の空間濃度分布の可視化に成功した。この分子センサーは金属酸化物ナノ薄膜を用いた堅牢なもので、従来技術では難しかった長期間の安定化と、高密度集積を可能にした。
分子センサーは、医療や食品管理など幅広い分野で注目を集めているが、実際に検出対象となるガスには数十から数百種類の分子が含まれているため、数多くのセンサーを集積したセンサーアレイが必要となる。また、小型、省電力であるうえに、長期間データを取得し続けられる長期安定性も求められる。だが従来技術では、高密度集積化と長期安定(堅牢性)という2つの条件を満たすセンサーアレイは作れなかった。
そこで、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の大学院生 本田陽翔氏、慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻の大学院生 椎木陽介氏らからなる研究グループは、金属酸化物半導体をクロスバー構造に配置したセンサーアレイを開発した。クロスオーバー構造とは、格子状にセンサーを配置するもので、これまで広く開発されている「縦型チャンネル構造」に比べて面積を大きくできる。研究グループは、1辺に32本の電極を設け、計1024個(32×32)の分子センサーを5mm四方の中に集積化した。
ただクロスオーバー方式は集積化に優れている反面、配線の電気抵抗がセンサーの電気抵抗に加わってしまうため正しい測定ができないという問題があるのだが、50nm(ナノメートル)という非常に薄い酸化スズの膜をセンサーに用いることでセンサー自体の電気抵抗を大きくし、配線の抵抗の影響を小さくすることでこれを解決した。またこの酸化スズは熱に強く、長期間安定した分子センサーも実現している。
このセンサーアレイの近くにアルコールを配置して蒸発し拡散する分子の検出を行ったところ、アルコールからの距離に応じてセンサーの反応に差異が出た。このことから、このセンサーアレイで分子の種類を判別できる可能性が示された。
この技術とセンサーチャンネル表面の化学物性を制御する技術を融合すれば、多種類のセンサーを高密度に集積化でき、「多種類の分子が混合された分子群の判別」ができるセンサーシステムの実現も期待されるとのことだ。