11年の受付業務経験を経て開発、2500社が導入する無人受付システム「RECEPTIONIST」

従来の受付業務は電話での取り次ぎや来客対応、物品の受け取りなど多岐にわたるが、RECEPTIONIST(レセプショニスト)を使えばタブレット1つでそれらが完結する。

同サービスは内線電話を使わずチャットツールを通じて担当者のスマホに直接通知されるため、どこにいても気づくことができるのが大きな特徴だ。2017年1月に提供を開始して以降、利用企業は2500社を突破。東京ガスやNTTデータといった大手企業も導入を開始している。

「受付の煩雑な業務をITの力で効率化したかった」と語るRECEPTIONISTでCEOを務める橋本真里子氏は、大手IT起業数社で働いていた元受付嬢だ。受付ひと筋11年の経験からサービスの着想を得て、RECEPTIONISTを開発。元受付嬢起業家という異色の経歴を持つ彼女に、受付業務の課題やスタートアップの立ち上げについて話を聞いた。

橋本真里子(@DelightedMariko
大学を卒業後、2004年より11年に渡り受付業務に従事する。1日約500人の来客を対応し、のべ120万人を接客。2016年にディライテッド(現:株式会社RECEPTIONIST)を設立する。2017年1月にクラウド受付システムのレセプショニストをリリース。

「選手生命の短さ」を感じネクストキャリアを模索

橋本氏が就職活動をしていた2005年はバブル崩壊が尾を引き、就職氷河期が続いていた。正社員採用は難しいと判断し、派遣社員の求人を探していたところ見つけたのが“受付”だったという。

「仕事自体に興味がありましたし、働きながらビジネスマナーやスキルも身につきそうだったので、派遣社員として受付に応募しました。派遣会社から内定をいただき、最初に働いたのはトランスコスモスです。

「受付は電話で引き継ぐだけ」と思われがちですが、大手企業には毎日数百人が訪れます。数名の受付が休憩を回しながら対応するので、実際は息つく暇もないくらい忙しい。でもやればやるほどスキルが身につく感覚があり、それがとても楽しくて。もっとこの仕事を極めたいと思い、さまざまな企業で経験を積みました」。

USENやmixiといった大手IT企業の受付を渡り歩き、キャリアを重ねていく。しかし32歳になったとき、「受付はデビューがあれば引退もある。選手生命の短い仕事だ」と感じ、次のキャリアを考えるように。

「広報や総務・アシスタントなど内勤の道に進む人が多いのですが、私は受付に関わる業務がしたいと思っていて。受付コンサルをする人もいますが、それだとコンサルをしている複数社としか関われない。もっと広く世の中のためになることがしたいと思い、“起業”という選択肢が生まれました」。

「受付嬢なのに」ではなく、「受付嬢だからこそ」できるサービスを

どんな大手企業でも、受付にはアナログ文化が残っていることに課題を感じていたという橋本氏。

「受付は私が働き始めた23歳のときからずっと、作業効率化とは無縁の環境。受付票は手書きだし、内線の電話は忙しい人だと全然つながらない。さらにアポイントの多いビジネスパーソンが受付で時間や労力を取られてしまっている場面も多く見てきました。「受付歴11年の私だからこそこの現状を改善できるサービスを作れるのでは?」と思い、本業と並行して起業と資金調達の準備を始めました」。

まず始めたのは起業家へのヒアリング。複数の大手ベンチャー企業で働いていたため起業家やIT関係者の知り合いが多く、相談相手には困らなかったという。「Facebookの友達が2000人くらいいたので、アドバイスいただけそうな方にご連絡しました」。

大手企業で働いてはいるものの、当時は受付嬢としてのキャリアしかなかった橋本氏。「プロダクトもない状態で連絡しても相手にしてもらえない」ということはなかったのだろうか。

「それを逆手に取りましたね。まずは自分なりに起業について勉強してから会っていたので会話レベルを合わせられるようにしました。そして、たとえ『イチ受付嬢』としてしか見られていなかったとしても、私が経営や起業について真剣に話したら『面白いね』と耳を傾けてくれるんです。つまり期待値が低いぶん、知識ややる気が伝われば、評価が変わるものです。

結果、たくさんアドバイスをいただきましたし、背中も押していただきました。いろいろな方が数珠つなぎで人を紹介してくださり、VCやエンジェル投資家などにもつながることができました」。

自分の考えをエンジニアに通訳してくれるプロダクトマネージャーを最初に採用

起業準備中の2016年7月、元mixiのプロダクトマネージャーの真弓貴博氏をCOOとして迎える。

「作りたいプロダクトは明確だったのですが、私は受付嬢しかしたことがなかったので、コードを書くこともプロダクトを作ることもできません。仲間集めをする中で、まずはプロダクトマネージャーの存在が必要だとアドバイスをいただきました」。

そこでmixi時代の同僚だった真弓氏に連絡し、「『私の考えをエンジニアに通訳してくれるプロダクトマネージャーになってほしい』とリクルーティング。彼の紹介でエンジニアも採用し、β版のリリースまで進めることができました」。

β版を導入した企業から届いた「管理画面の操作ボタンの配置が見づらい」「文言や通知の仕方がわかりにくい」といったフィードバックを改善し、2017年1月にサービス提供を開始する。初期ユーザーはメディア露出とピッチイベントをメインに獲得した。

「最初の1年はピッチイベントに積極的に出ていましたし、起業の経緯が珍しいことでメディアにも多く取り上げていただきました。ブログも始めましたし、お金をかけずに露出できることはどんどんやろうと意識していましたね。

特にピッチイベントはTech Crunch JapanのスタートアップバトルやIVS、B Dash Campなど有名なイベントにはほとんどチャレンジしました。登壇したときはもちろん人並みに緊張はします。でもピッチのたびにサービスと向き合うので、話せば話すほど自分自身がサービスへの理解が深まるし湧いてくる。だから自然と自信につながりました」。

withコロナ時代に求められる無人受付サービスとは

新型コロナウイルスの感染拡大を受けリモートワークが広がり、3月と4月は受付回数が8割ほど減少。しかし受付システムの需要は高まっているという。

「リモートワークやWFH(Work From Home)の働き方が主流になった結果、企業は誰がどこでアポを取っているのかわかりにくいという課題が生まれました。RECEPTIONISTならアポデータがすべて記録されているため従業員の行動を管理することができます。

それに受付回数が減ったとしても来客がまったくなくなることはありませんよね。なのでこの状況で余計な接触を減らして取次を効率化することや誰が誰と会っているかの履歴を残すことの必要性を感じ、導入のお問い合わせをいただくことも増えています。

さらにRECEPTIONISTの機能追加と並行し、日程調整や会議室の管理システムなどの新サービスもリリースしています。新型コロナウイルスによりオフィス環境は大きく変化しました。時代に柔軟に対応しながら、今後も業務効率化のためのサービスを提供していきたいと思っています」。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。