「取り組んでいるのは15兆円規模と言われる運送業界をテクノロジーでアップデートすること。この業界は手書きの台帳やFAXを用いた受発注など未だにアナログな側面が多い。今後はドライバー不足や配達量の増加などが深刻になる中で、従来のような『人を増やす』アプローチは通用せず、業務の効率化や生産性の向上によって対応していく必要がある」
そう話すのはAzoop代表取締役社長の朴貴頌氏だ。同社では運送業界を変革するための一歩として、2018年1月に運送業界向けの車両売買プラットフォーム「トラッカーズ」をローンチ。今後もこれに続くサービスを複数立ち上げることで、「運送業界の総合プラットフォーマー」になる構想を掲げている。
そのAzoopは4月9日、事業の拡大に向けてジャフコとマネックスベンチャーズを引受先とした第三者割当増資により総額4.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
同社にとっては2017年に個人投資家から出資を受けて以来、2回目となる外部調達。調達した資金を活用して人材採用やプロダクト開発を加速させる計画だ。
トラック売買の非効率をテクノロジーで解決
現在Azoopが展開するトラッカーズは、トラックやトレーラーなど運送企業が保有する車を対象とした売買プラットフォーム。朴氏の言葉を借りれば「トラック版のメルカリやヤフオク」のように、車を買いたい企業と売りたい企業をマッチングする。
仕組み自体は比較的シンプルなものだが業界内ではオンライン上で車両を売買できる仕組みがなかったため、これまでは基本的にリアルな繋がりの中で完結していた。
車を売りたい企業は周囲の買取業者に相見積もりをし、その中で1番良さそうな業者へ売却。新しい車を探している企業も同じように、自分が直接アクセスできる業者から選ぶ。そこには「非効率な部分や価格面で改善できる部分が多くある」(朴氏)と言う。
トラッカーズの場合は各社に見積もりを依頼しなくとも、Azoop1社に問い合わせるだけで最大100社からオファーが届く。そのため相見積もりの手間がなくなる上に、繋がりのない企業にも車を売れるチャンスがある。これは買い手にとっても同様で、トラッカーズを通じて自分が繋がりのない企業からも車を購入できる可能性がある。
既存の仕組みでは存在していた複数の中間業者がなくなることもあり、今まで以上に「安く買える」「高く売れる」体験がしやすいのが特徴だ。
またトラックを筆頭に運送企業が売買する車両は、ネット上で売買されるような洋服や小物などに比べると当然単価も高い。トラッカーズの平均流通単価(成約単価) は1台あたり約130万円で、それをオンライン上のみでやりとりすることに不安を感じるユーザーもいるだろう。
その心理的なハードルやリスクを抑えるため、トラッカーズでは車両検査のほか3日間の保証制度を設けている。「購入して3日間は何かあれば運営が責任をとります、という形をとることでネットだけでも売買しやすい環境を作った」(朴氏)ことで取引も増加。2018年1月のローンチから2019年2月末までの約1年間で500社以上の企業が利用するプラットフォームになった。
目指すは運送業界の総合プラットフォーマー
Azoopは2017年5月の創業。代表を務める朴氏の父親は愛知県で中古トラックの販売・買取事業を展開する経営者で、そのバッググラウンドがトラッカーズにも密接に関わっている。
「もともとは稼業を継ぐつもりもなかった」と話す朴氏はリクルートでHR領域のセールス担当者として実績を積んだ後、独立。別の事業も考える中で父親に話をしたところ、ちょうど東京拠点を立ち上げる話が上がたっため、それをリードする役割として家業である日光オートに入社した。
実際に様々な運送企業に通う中で朴氏が感じたのが「運送業界の実態とトラックの売買における非効率さ」。マーケットの大きさやポテンシャル、そして業界内で起こり始めている変化などを踏まえてこの領域で事業を立ち上げることを決断し、スピンアウトのような形でAzoopを立ち上げた。
「国内で運送業を営む企業はコンビニの数よりも多く、約6.2万社ある。その内の約85%が従業員30名以下のスーパーロングテールな業界。そこに対してアナログな体質を変え、データ・ドリブンでより効果的な経営をできるようなサポートができれば、社会的な価値も大きい」(朴氏)
朴氏の話では、ちょうど業界も全体的に新しいフェーズを迎えているそう。具体的には多くの企業で創業社長から2代目への引き継ぎが増えているタイミングで、新たに会社を率いることになった30〜40代の経営者の中には「変わらざるを得ないという危機感」を感じている人も少なくないという。
現在運営するトラッカーズは車両の「調達」と「売却」に関する課題の解決を目指したサービスだが、それはあくまで1つのピースにすぎない。今後Azoopではその間にある「稼働」や「整備/修理」の工程についてもテクノロジーを活用することでアップデートしていく計画だ。
「会社として目指しているのは、運送業界の総合プラットフォーマーとして業界の課題解決や成長を後押しすること。トラッカーズの運営を通じて業界の中に入っていくほど解像度も高くなり、課題も見えてきた。車両の流通だけでなく業界全体の効率化やアップデートに繋がる事業を作っていきたい」(朴氏)