16時間半でサービス停止の質屋アプリ「CASH」、ブランド品の買取に特化して再開

バンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏

サービス発表直後から大きく話題を集め、また同時に物議を醸し、結果的にわずか16時間半でサービスを停止することになった質屋アプリ「CASH」が8月24日にサービスを再開する。

CASHは、オンラインストア作成サービス「STORES.jp」を提供するブラケット(スタートトゥデイが買収。その後MBOして再独立している)創業者の光本勇介氏が立ち上げた新会社バンクの最初のプロダクトだ。

最初のアイテムが送られてきたところ。当初オフィスは段ボールで埋め尽くされた

“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”とうたっており、アプリをダウンロードしてSMS認証を実施。あとは現金化したいアイテム(おもにファッションアイテム)のブランドや商品を選択し、写真を撮ればその場で査定額が表示される。金額に了承すれば、ボタン1つでキャッシュ(仮想通貨)が瞬時にアプリにチャージされ、銀行口座振り込みやコンビニを通じてその現金を引き出すことができる。その後2カ月以内にそのアイテムを同社に送付する(アプリからヤマト運輸の集配が可能)か、返金(手数料15%)するかを選択する。

「モノを担保にお金を借りる。返せなければ質草が流れる」ということで、イメージとしてはいわゆる質屋のスキームだが、まずアプリ上でキャッシュ化する時点でCASHがアイテムの買い取りを実施。実際の買い取りまでには2カ月の猶予を置いている、という解釈で、貸金業法や質屋営業法といった法律を回避。古物商としてのビジネスを行うという見解だった。

CASHはサービス開始直後からソーシャルメディアなどを通じて大きく話題を集め、査定が集中。その一方では、同社のスキーム自体が貸金業法や質屋営業法に抵触するのではないかという声も高まった。そしてサービス開始から16時間34分後、BANKは「想像を遥かに超えたサービス利用があった」として、査定機能を一時停止すると発表するに至った。同社の発表によると、この16時間弱で、3億6000万円以上の金額がキャッシュ化された。

16時間半のサービス運営で「事業としての可能性感じた」

「想定以上にお金を配ることになり、また荷物が届き過ぎることになって『サービスを止めます』とアナウンスしてから情報を発信していませんでした。サービスが再開できない無責任な状態では発言できない、と控えていました。その間、業界の近い人にさえ『BANKは倒産するんじゃないか』『意気消沈しているんじゃないか』と言われ、ネットでは『事業として成り立つわけがない』『逮捕されている』とまで情報が飛び交いました」

「ですが再開するには理由があります。良くも悪くも16時間ものすごく使ってもらって、取引の結果を見た中で事業としての可能性も感じましたし、収益性も感じました。だから再開するに至りました」(光本氏)

では実際、ユーザーはどのようにCASHを利用したのか。同社はサービス再開にあたり多くの数字を公開しているが、その一部を紹介する。

・キャッシュ化後の処理について、「アイテムを送る」を選択したユーザーが98%、「キャッシュを返す」を選択したユーザーが2%

・1回あたりの引き出し金額の平均は8623円、1人あたりのキャッシュ数は平均3回

・CASHユーザーの状況は、「すでにアイテムを送った」が83%、「すでにキャッシュを返した」が2%、「これからアイテムを送る予定」が5%、「これからキャッシュを返す予定」が1%、「未選択」が9%(8月23日時点。サービスローンチが6月28日で、返済までの期間が2カ月ということで、今まさに未選択のユーザーが行動を選択しているところで、95%程度は回収できる見込みだという)

バンクが公開したCASHの実績

光本氏はサービスローンチ時に「CASHはユーザーの性善説に基づいたサービス」だと語っていた。ネット上には「そんなワケがない」なんて声も挙がっていたが、実際にほとんどのユーザーが適切にサービスを使っていたのだという。

「抽象的な言い方になりますが、送られてきた大量のアイテムは、思った以上にまともなものでした。もちろん悪意あるユーザーも全くゼロではありませんでしたが、悪意あるユーザーは新しいアプリでも利用できないようになっています。少額資金ニーズに対してこんなにスピーディーに応えてくれるサービスはそうありません。CASHを受け取ってアプリを消すのは簡単ですが、お互い誠実に付き合ったほうがいいものにしていければ」(光本氏)

「現金で返済」機能を削除し、アイテムの買取に特化

こういった利用状況を踏まえてリニューアルしたCASHは、機能にもいくつかの変更・アップデートがある。もっとも大きいのは、適法性について指摘があった、キャッシュの返済機能を削除し、アイテムの送付に特化したことだ。「リーガル的な観点での問題が指摘されましたが、そのスタンス(古物商としての買取を行っている)については基本的に変わりがありません。アイテムを即金で買っているということです。ですが、(98%のユーザーがアイテムを送っており、キャッシュを返したユーザーが2%だったという)利用結果に基づいて、使われていない機能を取り外しました」(光本氏)

また、1日のキャッシュ化に上限額を設定。この金額をアプリ上に表示する。これは毎日10時にリセットされる。初月は月間3億円程度のキャッシュ化を目指すという。そのほか、ユーザーの評価制度を開始。適切なアイテムを送るユーザーについては評価が上がり、この評価次第で査定額やキャッシュ化可能額の上限などを変えていくことも計画する。さらにキャッシュ後アイテムを送付する期間を2カ月から2週間に変更。また査定時の写真撮影についても画像認識などを強化。現在は選択したカテゴリとの正誤を判断できる程度とのことだが、「今後キモになっていく部分」(光本氏)とのことで、開発を強化するという。新たに物流拠点も構えた。

ちょっと気になるのは、CASHがその運転資金をどうまかなっているのかという点だ。BANKは現状自己資本のみで運営しており、外部からの資金調達は行っていない。ここに関して光本氏は「外部調達では(着金までに時間がかかるので)間に合わない。これからも自己資本運用していく」とだけ語っている。CASHは買い取ったアイテムを二次流通マーケットで現金化していくとしていたが、これまでの実績で言えば、16時間弱で査定額3億円以上のアイテムが同社に送られていたワケだ。ここにマネタイズの可能性が見つかったということだろう。

投稿者:

TechCrunch Japan

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