2021年に最優先すべきはパンデミックから精神的に立ち直るための技術

2020年、米国人は感染の恐怖、耐え難い愛する人たちの喪失、経済的ストレス、孤独、絶え間ない不安による疲労など、さまざまな問題と格闘してきた。ワクチンの接種が始まり、日常に戻れる時が近づいているとしても、新型コロナウイルス(COVID-19)を終わったものとするのはまだ早い。パンデミックの長期的な悪影響は、今ようやく現れ始めたところだ。具体的には、米国における精神的健康(メンタルヘルス)危機への衝撃は大きい。しかし残念ながら、精神疾患に効くワクチンはない。

米国の成人のうちほぼ45%が精神疾患を抱えて生活しているが、2020年の出来事で状況はさらに悪化し、米国に住む人の5人に2人以上(CDC報告)が新型コロナウイルスの影響による精神疾患に苦しんでいると伝えられている。

さらに深刻なことに、世界保健機構によれば新型コロナ前の段階で、世界の国々では国民の求めに応じようと奮闘しているにも関わらず、国の医療予算のうちメンタルヘルスに支出されたのは、わずか2%だったという。つまりこれは、メンタルヘルスが重視されていないことに加え、治療機会が欠如していることを意味している。

最近になって、遠隔医療サービスが導入されるようになった。根拠に基づく治療で有効性がある場合は、それが膨大な支援要請に幅広く対処できる唯一の方法となる。要するに、各地で医療スタッフが不足しているということだ。

私が英国の国民医療サービス(NHS)の精神科医として勤務していたとき、即座に学んだのは、患者が来るのが遅すぎるということだった。時には数年も遅くなる。もっと早い時期に質の高い治療を提供できていれば、事態はそこまで深刻化していなかったはずだ。当時私は、ここまで需要と供給の差が開いてしまった以上、大規模にテクノロジーを展開するしか解決の道はないと悟った。そして2020年の出来事で、その確信がさらに強まった。

投資家もそこを重視している。その証拠に数多くのメンタルヘルス関連のスタートアップが資金調達に成功している。ビジネスリーダーたちは、変貌した世界に適合する製品に改めて注目している。私たちを危機から救い上げる方法としてイノベーションを優先させ始めているのは明らかだ。デジタルメンタルヘルスソリューションはすでに大幅な上昇を見せている。遠隔治療だけで患者を診ている臨床医は、76%(米国精神医学会報告)にも上っている。大規模に精神疾患に対処できるもっとも明白な方法は、根拠に基づく倫理的でパーソナライズされたデジタルソリューションだ。

遠隔医療を導入すれば、柔軟な治療の選択肢を望む人たちの助けになるだけでなく、地元地域では選択肢が限定されてしまう人々に豊富な治療機会を与えることにもなる。

人気は高まっているものの、デジタルメンタルヘルスソリューションには、克服すべき重大な課題がいくつか残されている。ひとつは消費者の信頼を得て、個人情報を倫理的に責任を持って扱えることを証明しなければならないという問題だ。米国人の81%(ピュー研究所報告)が、その恩恵よりも、個人情報を提供するリスクを重視している。遠隔医療を提供する側は、重大な機密情報であるユーザーの個人的な医療データを、責任を持って扱えることを示す必要があり、そうして初めて信頼が得られる。

これは、米国のHIPPA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)、ヨーロッパのGDPR(一般データ保護規則)よりも厳格なものでなければならず、提供者側のデジタルメンタルヘルスソリューションを支える倫理的枠組みの構築と実施を必要とする。だが、この取り組みは本物でなければならない。上面だけで倫理をうたう「倫理ウォッシング」の罠に落ちないようにしなければならない。そこで私は遠隔治療提供者に、外部の専門家の監修の元に倫理的枠組みを作り上げ、その結果の公開を約束するよう奨励したい。

さらにデジタルソリューションは、ユーザーのニーズに個人ベースで、パーソナライズしたかたちで応じる必要がある。精神的健康を管理できるとうたっているアプリは多くあるが、「1つのサイズで万人にフィット」させるアプローチであるため、患者固有の症状や個人の好みに適用できるこのテクノロジー本来の利点を活かしていない。ただ治療介入の種類を増やせば済むという問題ではない。たしかにそれも大切だが、要はテクノロジーとの関わり合い方は人それぞれだと知ることだ。

たとえばKoa Halth(コア・ヘルス)では、1つずつ手順を踏んで治療プログラムを進めたい患者もいるれば、必要なときにアクティビティに参加したい患者もいて、そのどちらの要望にも同等に対処することが重要だと認識している。1つの汎用手段ですべての人に対処するのは、単純に不可能だ。

デジタルソリューションは、単にデータに責任を持ち、ユーザーごとにあつらえればよいというものでもない。治療の有効性の証明により多くの力を入れるべきだ。最近の調査(HIMSS報告)では、メンタルヘルスアプリの64%が有効性をうたっているが、根拠を示しているものは14%しかないという。遠隔医療の導入が増えていることは頼もしいかぎりだが、プラスの影響は治療有効性を重視してデザインされ、質の高い臨床試験で効果が実証できる製品からのみもたらされる。根拠に基づく治療有効性と費用対効果が高ければ、それだけ医療提供者や保健会社はそのソリューションを広めてくれるようになる。

ワクチンが間もなくやって来る。しかし、パンデミックがメンタルヘルスに与えた影響は、すぐにでもその直接的な影響を覆い隠すほどの被害になるだろう。ヘルステックは将来有望な発展を遂げたが、精神疾患のデジタル治療ではとくに、これからのさらに大きなメンタルヘルス危機に対処すべく、有効で、倫理的で、パーソナライズされた治療に力を入れることが必要不可欠となる。

【Japan編集部】著者のOliver Harrison(オリバー・ハリソン)博士は、科学に裏付けされユーザーの幸福感を高めるようデザインされパーソナライズされた精神的健康のための広範なソリューションを提供し、治療を再構築するデジタル・メンタルヘルス・プロバイダーKoa Health(コア・ヘルス)のCEO。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:新型コロナウイルスメンタルヘルス遠隔医療

画像クレジット:Justin Paget / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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