30億円以上のバリュエーションでの資金調達が約2.6倍に、Coral Capitalが調査レポートを公開

ベンチャーキャピタルのCoral Capitalは8月14日、国内スタートアップ約580社を対象とした資金調達に関する実態調査レポート「Japan Startup Deal Terms 2019 Summer」を公開した。

本レポートは同社が2年前に発表した「調査レポート: 186社の登記簿から分かったスタートアップの資⾦調達の相場」をバージョンアップしたもの。2018年の1年間に国内スタートアップで資⾦調達を⾏ったと推測される約580社に関して800件以上の商業登記簿謄本を取得し、資⾦調達条件の詳細を調査した結果がまとめられている。

起業家や投資家が実務で必要とするような観点から情報が整理されているのが特徴で専門的な論点も多いが、今回はそこから主に以下のポイントをピックアップし、Coral Capital創業パートナーの澤山陽平氏のコメントも交えながら紹介していく。

  • 30億円以上のバリュエーションでの資金調達が前年同期比で約2.6倍に増加
  • 1億円以上の調達では70%以上が優先株式を利用。条件も徐々に起業家有利な内容に
  • 1億円以下のシード案件では約10%の案件でJ-KISSなどのコンバーティブルエクイティが利⽤

なお調査対象のスタートアップは報道やプレスリリース配信サイトなどの公開情報をベースとしたものであり、未公表案件などは含まれていない可能性もあるとのこと。投資条件については商業登記簿謄本の記載を元にした推測であるため、公開されていない条件などにより実際とは異なる場合があることもあらかじめお伝えしておきたい。

30億円以上のバリュエーションでの調達が約2.6倍に

まずは資金調達の件数から触れていく。対象となる資金調達件数は2018年トータルで約600社、828件となっていて、四半期ごとでは若干の変動はあるもののだいたい200件弱ほど。2018年第4四半期は対前年同期比で8.0%増加している。

2018年全体では1億円以下の調達が509件、1億円〜5億円が229件、 5億円〜10億円が52件、10億円〜30億円が30件、30億円以上が8件だ。

澤山氏がポイントにあげるのが、調達時の完全希薄化後ポストバリュエーションの変化について。具体的には30億円以上のバリュエーションでの調達が増加傾向にあり、2018年第4四半期の件数は前年同期比で約2.6倍になった(22件から58件に増加)。

この結果に大きく影響を与えているのが「ミドル〜レイターステージの投資家が増えたこと」(澤山氏)だ。

たとえば先月発表されたSmartHRのシリーズCラウンドには以前紹介したシニフィアンの新ファンドや2社の海外投資家が参加。100億円を調達したフロムスクラッチの場合もKKRやゴールドマン・サックスなどから出資を受けている。

国内外でミドル〜レイターステージの投資家が増えたことによって、スタートアップが未上場のまま数十億円を超えるバリュエーションで大型の資金調達を実施できる環境が整い始めたことは近年の大きな変化と言えるだろう。

「バブルだと危惧する人もいるかもしれないが、必ずしもそうではなく別の見方もできるのではないか。(投資家が増えたことで)今まではシリーズBの後に上場だったのが、シリーズB、C、D、Eまでやってから上場というように、後ろの滑走路が伸びてきていることが統計からもわかる」(澤山氏)

優先株式では条件が起業家有利に変わりつつある

より実務的な観点ではスタートアップ界隈でファイナンスに関する知見のシェアも進み、起業家と投資家双方のリテラシーが向上したことで資金調達の手段も変わってきているという。

スタートアップのエクイティによる調達手段を大きく「普通株式」「優先株式」「コンバーティブルエクイティ」に分けた場合、大型の調達では優先株式が使われるケースが多くなっている。

その一方でシードステージでは速度やコストの面でメリットのある「J-KISS型新株予約権」などのコンバーティブルが活用されるケースも増えてきた。

2018年通年の数字を見ると1億円以下の調達では509件中52件 (構成比10.2%)がコンバーティブル、208件(同40.9%)が優先株式、249件(同 48.9%)が普通株式を利用。1億円を超えると優先株式の割合が拡大し、1億円〜5億円では229件中161件(同70.3%)、5億円〜10億円では52件中41件(同88.5%)、10億円〜30億円では30件中27件(同90.0%)という結果になった。

実際の現場で優先株式による資金調達を進める際には「残余財産分配権」が1つのポイントになるので、それに関する調査にも触れておこう。

残余財産分配権は通常「払込金額の倍率」と「その後の分配への参加・非参加」で規定される。M&Aなどの支配権移転取引が発生した場合、普通株式に優先して投資家に分配が行われるため、条件次第では特にスタートアップが低い価格で買収される際に創業者が十分なリターンを得られないこともあり得る。

今回の調査では優先倍率は1倍が89.8%、1.2倍 が5.1%、1.5倍が5.1%という結果に。参加型or非参加型では96.7%が参加型となった。

「優先分配倍率1倍かつ参加型」が多いという傾向自体は2年前のレポートと同様だが、前回と比べても優先分配倍率1倍の割合が増加。また依然として一部ではあるものの四半期に数件は非参加型の優先株式での調達が行われていて、少しずつ起業家有利な条件になりつつあるという。

「ファイナンスの知識がある起業家が増えたことや投資家間の競争が激しくなったことに加え、メルカリを代表するように日本でもホームラン案件を狙えるという認識が広まったこともあり、非参加型の優先株を使うケースも徐々に出てきた」(澤山氏)

なお残余財産分配権に関しては日本と米国で大きな違いがあり、米国の場合は「優先分配権1倍かつ非参加型」の割合が多いそうだ(優先株式の利益分配などについておさらいしたい方は、澤山氏のシードファイナンス勉強会の動画などをチェックしてみてほしい)。

そのほか今回のレポートでは上述した内容に加え「ステージごとの資金調達額の分布」や「ステージ別のプレ時価総額の分布」、「ステージ別の希薄化率の分布」などもまとめられている。完全版についてはCoral Capitalのサイトから閲覧することが可能だ。

ちなみに「海外の投資家も日本のスタートアップに興味を示しているが、言語の壁などによりその情報をキャッチアップできる手段がほとんどない」(澤山氏)状況のため、今回のレポートは英語版も作成しているそう。

今後も同社では資金調達に関する情報の透明性を高めるとともに、日本の状況を海外投資家に伝えるべく、半年ごとを目安に継続してレポートを発行していく予定だという。

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TechCrunch Japan

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