30歳未満の消費者の90%がターゲット――新興市場の人々の生活を支えるフィンテック

【編集部注】執筆者のJoshua Matemanは、中国本土を拠点に金融、アントレプレナーシップ、テクノロジー、消費動向、農業、ゲーム、スポーツ、アートに関する執筆活動を行っている。

国家が繁栄するにつれて、国民は郊外から大都市や海外に移り住み、経済力をつけながらグローバル経済に参加する。

そして彼らは食べ物を購入し、電気料金を支払い、交通機関のICカードをチャージし、オンラインサービスの料金を支払い、海外から商品を購入し、ローンを返済し、親戚に送金しなければならない。

しかし、国民の93%が銀行サービスを利用できるアメリカとは違い、発展途上国の市民の多くにとって銀行は縁遠い存在だ。世界中で約20億人の成人が正規の金融サービスにアクセスできない状態にある上、彼らが利用できるサービスはプロセスが複雑で料金も高いものばかりだ。

この問題を解決するために、フィンテックスタートアップはさまざまなオンライン・モバイルサービスを開発しており、消費者にも歓迎されている。特に若い世代は段々とネット銀行を受け入れるようになっており、30歳未満の消費者の約90%はいわゆる新興市場に住んでいる。

Paul Wuが、モバイル通信キャリアのためにアプリストアの開発を行うGMobiを立ち上げたのは、2011年のことだった。その後、同社は外部サービスのためのモバイルウォレットをローンチ。現在ではGMobiに在籍する100人の社員のうち、約3分の1が同社のモバイルペイメントサービス「Reach Pay」に取り組んでおり、このサービスはGMobiの新たな収益源として急成長を遂げている。

台湾発のGMobiは文化的、言語的に近いことから、まず中国本土への進出を模索したが、AlipayとTencent Payという二大サービスがすでに市場を席巻していた。「もう中国本土には進出できません」とGMobiの本社で台北郊外の山を眺めながらWuは言った。「中国の競争は死ぬほど厳しんです」

そこでGMobiはインドに目を向けることにし、数年間の準備期間を経て、プリペイド携帯のチャージや送金ができるモバイルウォレットOxymoneyをローンチした。ユーザーのほとんどは社会経済的地位の低い人たちでパソコンも持っていないため、GMobiはモバイルでのサービスのみ提供している。

例えば、ニューデリーに移り住んだ農村出身の労働者が、故郷の親にお金を送りたいと考えているとする。現状だと、普通は街中にある送金業者の店舗を訪れ、用紙に必要事項を記入し、どう計算されているのかよくわからない料金を支払って送金を行い、それから数日〜1週間経って親が住む農村部の銀行にお金が届く。

しかしOxymoneyを使えば、上記のプロセスにおける無駄や面倒くささがなくなる。WuはOxymoneyのプロセスを、GMobiの役員室でホワイトボードとマーカーを使って説明した。現状のフローは「消費者→業者→お店→消費者」へと簡略化できると彼は言うのだ。

ユーザーがOxymoneyを使って送金すると、まず大手の送金業者のもとにそのお金が届く。農村部に住む親も銀行口座を持っていない可能性が高いので、その後お金は銀行口座を保有している村のお店のもとに届き、親はそこでお金を回収することができるという仕組みだ。

このプロセス全体にかかる時間は約1日で、ユーザーは送金額の1%を手数料として支払う。ミニマム料金は設定されていないが、GMobiの1000万人におよぶインドのユーザーは、通常1件あたり15〜30ドルを送金している。

「私たちは金融サービスを効率化することで、中産階級〜下位中産階級の人々の経済状況を改善する手助けをしたいと考えています」とWuは語った。「まだまだ銀行の店舗を訪れる人が多いので、これからも積極的に消費者を教育していかなければいけません」

インド全体としての動向も同社を後押ししている。スマートフォン市場の伸びが世界一のインドでは、2021年までに携帯電話の契約数が14億件に達すると予測されている。さらに、インド政府はG20に送金手数料の削減を急ぐよう要請しており、インドの都市化が進むにつれて(現在人口の3分の1が都市部に住んでいる)送金額も増えていくだろう。

デジタル・インディア」構想のもと、政府は通貨や決済を含め、生活のあらゆる側面の電子化を推し進めている。

「この構想のおかげもあって、私たちは急成長しているんです」とWuは話す。

デジタル化構想がスタートアップの追い風となっている一方で、それに異議を唱える人もいる。コメディアンのBill Burrは、デジタル化構想が進むにつれて第三者に自分の情報が管理されるようになってしまうことを危惧しており、ポッドキャストの中で「全員にマイクロチップが埋め込まれるような世の中に向かって進んでいる」と語った。

現状、GMobiは国内送金だけ取り扱っている。海外送金についても考えてはいるが、実際に取り組むとなると、文化的にもオペレーション的にも規制的にもかなりの負担がかかってくる

「各国でライセンスを取得しなければならず、一定の資本金が必要になる上、現地の銀行と接続するために別のプロセスも経なければいけません」とWuは言う。「そのため、海外送金をはじめるのは簡単なことではないんです」

反マネーロンダリング規制が厳しさを増す中、海外送金には時間がかかるだけでなく、送金者が銀行の窓口を訪れなければいけないということもよくある。しかし、100人の社員を抱えるdLocalはその状況を変えようとしている。

送金用のインフラを開発するdLocalは、企業やお店(先進国が中心)が顧客(新興国が中心)からの支払いを受け取れるような仕組みを提供している。

例えば、FacebookやAirBnB、Uberといった企業がアジアや南米でサービスを提供した場合、それぞれの市場でオペレーション上の違いがあるため、支払いを受け取るのにも一苦労する。そこでdLocalは、SMSやモバイルウォレット、オンライン送金、クレジットカード、データカード、デビットカード、さらには現金まで含めた150種類以上の支払い方法をカバーする単一のプラットフォームを運営しているのだ。

dLocalの共同ファウンダーでCEOのSevastian Kanovichは、成功の理由について次のように語っている。「新興国に住む人たちは海外でも使えるクレジットカードを持っていないため、それ以外の方法で決済をしたいと思っています。しかも実際に彼らがどんな決済手段を使いたがってるかというのは、国によってさまざまです」

9年前、まだ南米のウルグアイに住んでいたKanovichは、dLocalのようなサービスの需要を目の当たりにした。当時、消費者はオンラインで商品を購入しても、海外で使えるクレジットカードをもっていなかったため支払いを完了することができなかったのだ。Kavonich自身は海外対応のクレジットカードを持っており、よく友人にそのカードを貸していた。

「消費者側はオンラインで商品を購入する気があるのに、お店側には彼らのお金を受け取る準備ができていなかったんです」とKavonichは言う。

個人間の送金だと顧客確認(Know-Your-Customer: KYC)や反マネーロンダリング(Anti-Money-Laundering:AML)規制をクリアするのが難しいため、dLocalは取引関連の決済のみを取り扱っている。彼が各国の中央銀行とP2P決済について話したところ、「全く別の話で、P2P決済だとさらに規制が厳しくなる」ことがわかったのだ。

国によっては規制変化の見通しが立ちづらく、これが彼らにとっての障害となっている。「ゲームのルールが完全に固まっているということはなく、政府がルールを変更することもあります」と彼は言う。「これこそ、私たちにとって最大の脅威なんです」

このような課題はいくつかあるものの、Kanovichはそれに怯むことなく前に進もうとしている。dLocalは現在18か国でサービスを提供しており、今年中にその数を30か国まで増やす予定だ。特にトルコ、コロンビア、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、チリで人気のdLocalだが、Kanovichはアフリカやアジア太平洋地域に大きなチャンスが眠っていると考えている。

dLocalは「グローバル化の波にのって進み、大きなチャンスをつかもうとしています」と彼は言う。

その他に成長が見込まれる領域といえば仮想通貨が考えられるが、dLocalは現時点では仮想通貨をサポートしていない。Kanovichは個人的にはビットコインを支持しているが、彼によれば新興国の銀行はそこまで乗り気ではないようだ。「仮想通貨がもう少し一般に普及するまで待ってからでないと、各国の中央銀行を説得するのは難しそうです」

最近資金調達を行ったフィリピンのCoinsは、公共料金の支払いや送金、プリペイド携帯のチャージ、世界中のサイトでのオンラインショッピングを携帯電話から行えるサービスを運営しており、決済手段のひとつとして仮想通貨を受け付けている。

そもそもCoinsは「金融サービスのギャップを埋めるため」に設立されたと、ビジネスオペレーション部門を率いるJustin Leowは話す。「特に発展途上国では利用できる金融サービスにかなりの格差があります」

彼らの提供するサービスのひとつにP2P決済がある。海外へ出稼ぎに出た人をターゲットに、Coinsは従来の送金業者よりも安く、効率的に、早く母国へお金を送る手助けをしているのだ。これまで10%近くかかっていた手数料も、Coinsを使えば2~3%の範囲に抑えられる。

例えば、香港に住む出稼ぎ労働者が毎月の所得700ドルの半分にあたる350ドルを母国のフィリピンに送金しているとする。彼にとって35ドル(10%)と10.5ドル(3%)の手数料の差は大きい。

統計によれば、世界中で毎年6010億ドルが送金されており、そのうちの約75%が発展途上国に関連したものだとされている。さらに、世界銀行のデータによれば、国民の10%が海外に住んでいるフィリピンだけでも、年に280億ドルが国境を超えて送金されており、二大送金先のインドと中国への送金額は年間600億ドルにのぼる。

フィリピンの銀行では最低預入残高が高く設定されているため、人口の3分の1以下しか銀行口座を持っていない。銀行口座の保有者よりもFacebookユーザーの方が多いくらいだ。

「つまり、銀行はかなりの数の人にサービスを提供できていません。しかし、私たちはこれまでに開発してきたモデルのおかげで、彼らの需要を満たすことができるのです」とLeowは言う。

CoinsはビットコインやStellarなどの仮想通貨もサポートしている。「仮想通貨を扱っているからこそ、世界中の送金を扱うプラットフォームとして機能できるんです」と彼は続ける。

Coinsのインフラにはブロックチェーン技術が採用されているが、顧客は裏で何が起きているかを完全に理解する必要はないとLeowは言う。「顧客が気にしているのは、送金先にきちんとお金が届くがどうかということですからね」

その一方で、Coinsが仮想通貨をサポートしているからといって、銀行のビジネスが脅かされるわけではない。「私たちのサービスには(銀行が)必要なんです。その代わりに、私たちはこれまで銀行がリーチできなかった人たちを取り込むことで、彼らのビジネスに貢献しています」

このような動きは結果的に消費者のメリットに繋がる。従来の銀行は顧客の情報を十分に把握できていないことが多いが、テック企業は顧客の趣向や行動に関するデータを収集し、ニーズに合わせたサービスを提供することができるのだ。

そして、銀行口座を持たない人を対象にサービスを提供している企業には、金銭的、そして社会的なメリットがある。

「Coinsがターゲットとしている市場には心躍るようなチャンスが眠っていますし、私たちは大勢の人の生活に良い影響を及ぼすことができるんです」とLeowは語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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