3Dフットスキャンでスニーカーの返品を減らすNeatsyの挑戦

アメリカを拠点とするNeatsy AIは、心地よいスニーカーのフィット感を予測するための 3 Dモデルの撮影に、iPhoneのFaceIDに使われる深度センサー付きフロントカメラをフットスキャナーとして利用している。

同社のアプリは現在iOS向けにソフトローンチを行っており、来月には正式にローンチする予定。スニーカーのフィット感の好みについていくつかの基本的な質問に答えると、iPhoneのフロントカメラを使って足の3Dスキャンを撮影するステップに進める。アプリはスキャン結果を使用して、アプリ内で購入できるスニーカーを対象に、各モデルの横に緑色の文字でユーザー個人のフィットスコア(5 段階評価)を表示し、パーソナライズされたフィット感の予測を提供する。

靴のオンライン販売は、ブランドごとにサイズの規格が異なり標準化されていないため、実際に試着した後で返品される比率が高い可能性がある。Neastyはショッピングのプロセスにサイズとは別のもっと個人的なフィット感を伝えるシグナルを取り込むことで、この問題に同社のAIで取り組みたいと考えている。

2019年3月に創設されたこのスタートアップは、プレシードでエンジェル投資家から40万ドル(約4170万円)を調達してiOSアプリを市場に投入している。このアプリは現在、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、カナダ、ロシアで利用できる。

Neastyはアプリユーザーのフットスキャン結果を同社が開発した機械学習モデルで分析し、現時点ではPuma、Nike、Jordan Air、Adidasなどの大手スニーカーブランドを対象に心地よいフィット感を予測している。これはスニーカーのインソールのスキャン結果に基づくものだと、CEO兼創業者のArtem Semyanov(アルタム・セミヤノフ)氏は述べている。

また、同社は靴の素材も考慮に入れており、フィット感に関するユーザーからのフィードバックをもとに継続的にアルゴリズムに磨きをかけていくと、セミヤノフ氏は語る(同社によると、靴のレコメンド用3Dスキャニング技術の米国特許をすでに確保したとのこと)。

アルゴリズムの効率性は、今年の夏に実施されたいくつかの商用パイロットサービスでテストされた。同社によると、回答者140名のフォーカスグループで、スニーカーのサイズに起因する返品率は2.7倍減少し、返品全体でみても1.9倍減少することを実証できた。

返品の処理がオンライン小売店にとって大きなコストになるのは明らかだ。物流コストや破損、商品の紛失などの要因を考慮すれば、eコマース・アウトレットでのスニーカーの返品だけでも年間300億ドル(約3兆1300億円)に上るとNeastyは推定している。

「一般的に言って、靴のeコマースでの返品率は製品とショップによって 異なり30%から50%ほどです。このカテゴリーでいちばんよくある理由はフィット感とサイズのミスマッチなのです」とセミヤノフ氏は言う。同氏はNastyの創設以前はPrism Labsで機械学習チームを率いていた。

Zapposによると、最も高額なシューズを購入するカスタマーは最終的に購入品の50%を返品します。オンライン購入者の70%は年1回は返品しています。Statistaは返品配送による事業者のコストが2020年までに5500億ドル(約57兆3600 億円)に上ると推定しています」私たちのメールでの質問にセミヤノフ氏はメールでこのように回答している。同氏は次のように続ける。

「UPSの2019年の調査で分かったことですが、購入者の73%は返品にまつわる全般的な体験が同じ小売店から再購入するかどうかに影響を及ぼし、また68%が返品の体験はその小売店に対する全般的な見方に影響すると回答しています。そこにドラマがあるのです」。

「小売店は返品による高額な費用負担を受け入れざるを得ません。そうしなければ買ってもらえませんからね。でも私たちは対症療法的に問題を処理するのではなく、返品の根本的な理由に対処したいのです」。

Amazonのようなeコマースの巨大企業は物流に注力して配送プロセスの手間を減らし、配送と返品をスピードアップして、カスタマーが交換品を手に入れるまでの時間を短縮することでこの問題に対応するが、多くのスタートアップはサイズとフィット感の問題について、この5年間にデジタルツール(やあまりデジタルでない手段)で取り組んできた。3Dボディモデルから「スマート」サイズ計測スーツに至るまで、果てはブランドや衣料品に特化したサイズ計測用テープ(Nudeaのブラ用フィットテープ)さえも現れたが、誰でも何にでも使えるようなひとつのソリューションを考えついた人はいなかった。こうしたスタートアップの多くが沈んでゆき、あるいは成果を出せないままeコマースプラットフォームに買収されてきた

Neastyはフィット感について他の大勢の創業者たちがやろうとしたことに取り組んでいるが、少なくとも特定のニッチ(スニーカー)にターゲットを絞っている。比較的狭い領域に焦点を合わせることが有益なツールに育て上げるための手助けになるかも知れない。

また、広く普及しているiPhoneのセンサーハードウェアを利用できることからも優位に立てる(一方で、カスタムシューズデザインのスタートアップとして先行するSolely Originalはプレミアム料金を徴収して個人用のフィットキットを発送している)。

しかし、スニーカーの履き心地のよさに狙いを定めたとしても、Neastyのフットスキャンプロセスではユーザーが数々の操作を正しくやり遂げる必要がある(全体の手順は下のビデオを参照)。しかも無地の靴下を用意しなければならない(ストライプしか持っていない人は面倒かも)。スキャンは 1 回すれば済むのだが、2秒で完了ということはない。

本稿執筆時点で、私たちはNeastyのスキャンプロセスを自ら試すことはできなかった。というのも、FaceIDの深度センサー付きカメラを搭載したiPhoneが必要だからだ。執筆者の第2世代iPhone SEでは、アプリの指示に従ってスワイプして次のステップには進めるのだが、黒い背景に緑色の枠で左足撮影用のテンプレートが表示されて本来ならスキャン開始となるところで応答しなくなってしまう。

これはバグだそうで、必要なハードウェアを搭載していないiPhoneのモデルではスキャナーが全面的にオフになるように修正しているところだという(App Storeに掲載されている説明ではiPhone SE(第2世代)に対応と謳っているが、フットスキャン機能がそうだとは言っていない)。

Neastyアプリの現在のバージョンは、アプリに詳しいジェネレーションZやミレニアル世代をターゲットとして特選スニーカーを消費者直接販売(D2C)するeコマースだ。しかし小売店がこのテクノロジーを試してみるよう誘導する目的でこのアプリが製作されたのは明確である。

このことについてセミヤノフ氏に尋ねると、長期的に目指しているのはeコマースの世界でカスタムフィットモデルを当たり前にすることだと言う。

「Neastyアプリは、未来のオンラインショップがどうあるべきかについての当社のビジョンを示せる、最も手早い方法なのです」と同氏はTechCrunchに語る。「ユーザーを店舗に誘導し、スニーカーを買ってもらえれば利益の一部が分配されます。このアプリは小売業者にとって新しいローリターンの販売チャネルとして機能すると同時に、返品が及ぼす経済的な影響を自分で確認することもできるのです。

「長期的には、B2Bが当社にふさわしいビジネスモデルだと考えています。最終的にすべてのeコマース店舗がフィッティング技術を持つようになるでしょうが、それには当社製品が用いられると確信しています。オンラインショップで統一されたクレジットカード決済システムを導入するのと同じことになるのです」。

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カテゴリー:ネットサービス

タグ:ファッション eコマース

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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