3Dプリントは素材が問題だった, MadeSolidが失敗の少ない次世代素材を開発

このところ毎週のように、従来機よりも良い、安い、と主張する3Dプリンタのスタートアップが現れる。もちろんこれは、不平ではない。競争は関係者全員にとって良いことだが、でも市場がこれだけ混み合ってくると、強力な差別化はなかなか難しい。

Y Combinatorが育てたカリフォルニア州EmeryvilleのMadeSolidは、これまでとは違う角度から3Dプリント市場に参入しようとしている。それは、3Dプリントで使う素材のイノベーションだ。

ご存知のように、3Dプリントは未完成な技術だ。プリンティングの工程が最初から最後まで完全にスムーズでないと、必ず不良品が出来上がる。しかも、何時間もの機械稼働のあとで、やっとそのことが分かる。インクジェットプリンタに例えると、紙詰まりやインクのシミなどが生じただけで、その印刷が全部だめになってしまうようなものだ(実際にはありえないが)。3Dプリンタのちょっとした不具合は、その影響があまりにも大きすぎる。

MadeSolidは最初、3Dプリントをサービスとして提供するスタートアップだった。でも彼らがすぐに悟ったのは、3Dプリンタはエラーレートが高すぎるのでまともなビジネスになりにくいことだ。三人の協同ファウンダは出身がそれぞれ、化学と核工学と経営学だったので(なんちゅう組み合わせ!)、これまで見逃されていた弱点に気づくことができた。それは、3Dプリントに使われる素材だ。

3Dプリント入門

まず、これまで3Dプリントを遠くから眺めていた読者のために、簡単な入門を。3Dプリンタにはいろいろなタイプがあるが、安価な家庭用やホビイスト向けに普及しつつある機種は、Fused Deposition Modeling(FDM)、またはStereolithography(SLA)と呼ばれる方法で素材を成形する。

MakerBotなどはFDMプリンタで、溶解したプラスチックを層状に重ねていく。これに対してForm 1のようなSLAプリンタは、感光性のプラスチック溶液をレーザー光線で瞬間的に硬化していく。

どちらのタイプのプリンタにも長所と短所がある。SLAタイプは使用にあたってかなり神経を使うが、相当精細なプリントをしてくれる。FDMタイプは初心者でもすぐに使えるが、重ねていく溶けたプラスチックの紐(ひも)は、残念ながらレーザー光線に比べると太いから、作品の精細度は劣る。

では、MadeSolidはどっちの技術に賭けたのか? 両方だ! 協同ファウンダのLance Pickensによると、最終的にはSLAプリンタが勝つだろうけど、リスクヘッジのためにどちらにも賭けておきたい、ということだ。

PET+

Makerbotのようなプラスチック押し出し成形プリンタは素材として主に、ABSまたはPLAを使用する。

どちらの素材も、完璧でなない。ABSでプリントすると、部屋中に異臭が満ち満ちて耐えられなくなる。健康に悪そうな匂いだ。一方PLAはワッフルのような匂いがする(ホント!)けど、出来上がった品物はかなり脆(もろ)い。

二つの素材の長所だけを持つ新しい素材を作りたかったMadeSolidは、PET+と名づけた素材を開発した。それはペットボトルなどに使われているPET素材の、改良バージョンだ。

MadeSolidは、次のような性質を持つ素材としてPET+を開発した:

  • PLAやABSよりも柔軟性に富む。
  • プリント後の品物がほとんど収縮しない(収縮によって作品がプリント台からはがれ落ちると一巻の終わりとなる)。
  • リサイクル可能。
  • 耐熱性。炎や高温にさらすものを作りたい人はあまりいないと思うが、なにしろPET+はABSのように急激に炎上しないし、PLAのように夏の車の中で溶けたりしない。
  • 耐水性。ABSやナイロンなどは、密封容器に入れて長期保存しないと空気中の水分を吸収して3Dプリンタの詰まりの原因になる。PET+は、それがない。
  • プリント台が熱くても熱くなくてもよい。

数日かけてPET+のスプールを一巻(ひとまき)使ってみたが、なかなか快適だった。ちょっとPLAに似たクセがあるが、なにしろ使い心地はたいへんよろしい。

ABSやPLAと違って、無臭だ。ドアを閉めた部屋で長時間使っても、まったく悪臭はない。ただし、プリンタの上に屈み込んで一日中その姿勢で呼吸してみろ、という意味ではない。3Dプリンタの排気について、一般的な最終評価はまだ出ていない。でもPET+なら、部屋から逃げ出したくなることはない。

20回あまりプリントしたが、素材が原因と思われる失敗は一度もなかった。収縮や反りもなく、プリント物がプリント台から外れる事故もなかった(温度は60℃)。

MSレジン:

すでに述べたように、MadeSolidはSLAプリンタ用の素材も作っている。PET+の場合と同じく、今出回っている素材の欠点をなくした特製のレジンだ:

  • 粘性が低いので仕上がり後のプリント物の洗浄が楽。
  • いろんな鮮やかな色にできる; 黒、白、ピンク、ブルー、などなど。今売られているレジンの多くは、透明と白とグレーのみ。
  • 仕上がりがマットでソフトタッチ。

MadeSolidに関する詳細はここで。まだ社歴わずか数か月だから、1年後が楽しみだ。

なお、上のビデオを見ると、MadeSolidの製品が既存の製品とどんだけ違うか分かる。とくに、最後の放火テストがおもしろい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


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TechCrunch Japan

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