7月設立の慶大初のVC「KII」の投資1号は、AI開発の「カラフル・ボード」

慶應イノベーション・イニシアティブ」(KII)の山岸広太郎CEO(左)と、カラフル・ボード創業者の渡辺祐樹CEO(右)

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)の山岸広太郎CEO(左)と、カラフル・ボード創業者の渡辺祐樹CEO(右)

kii-logoここ1、2年、大学発の技術系ベンチャーファンドが次々と立ち上がっている。すでに3号ファンドとなっている東京大学エッジキャピタル(UTEC)の145億円や京都大学イノベーションキャピタルの160億円など100億円を超えるファンドも少なくない。Beyond Next Venturesのような独立系VCや、ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタルなど事業会社によるCVCのファンドを含めると、2013年以降の大学発研究開発系のベンチャー資金は総額で約1300億円となっている。旧帝大だけでなく、2016年に入ってからは東工大や東京理科大もそれぞれ40億円規模のファンドを設立している。

慶應大学発の「慶應イノベーション・イニシアティブ」(KII)も、そうしたファンドの1つ。45億円のファンド規模で7月1日に設立されたばかり。1社あたり2億円程度、最大5億円ほどを開発に時間のかかることもある研究開発系のスタートアップ企業20社ほどに投資していく計画だ。KIIは元グリー副社長の山岸広太郎氏がCEOを務める、ということで、ちょっと関係者は驚いたかもしれない。山岸氏は日経BP編集記者、CNET Japanの初代編集長を経て、グリーを共同創業。グリーの副社長として10年間事業部門を統括してきた人物だ。

そのKIIの投資案件第1号となったのは、TechCrunch Japanでも以前に紹介したことのあるAI系スタートアップのカラフル・ボードだ。カラフル・ボードは10月11日、KIIに対する第三者割当増資により5000万円の資金調達を実施したことを発表した。カラフル・ボードは2011年の創業。2015年5月にACAをリード投資家とする1.4億円の資金調達などと合わせて、これまでに合計約3億円を調達したことになる。

カラフル・ボードを創業した渡辺祐樹CEOは、2005年に慶應義塾大学理工学部を卒業。フォーバル、IBMビジネスコンサルティング(現:日本IBM内のコンサルティングサービス部門)などでの戦略コンサルタントを経て起業している。学部在籍時には人工知能を研究していたが、研究者になることよりも技術で世の中に役に立つものを作り出したいとの思いからカラフル・ボードを創業していて、そういう意味ではKIIの投資1号案件にはピッタリという印象だ。

KIIの山岸CEOによれば、これまで慶應大学が直接出資したベンチャー企業は全部で13社。そのうち3社、ブイキューブ、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ、サンバイオが上場しているほか、ハイテク素材のスパイバーなども注目株となっている。

大学発ベンチャー、あるいは研究開発系ベンチャーというと、医療・介護、バイオ、素材、ロボティクス、製薬などの分野が思い浮かぶ。一方、カラフル・ボードはファッションや食(味覚の定量化)へのAIの適用を進めているので、相対的には資金需要が小さい分野に思える。山岸CEOによれば、KIIの狙いは「慶應大学の研究成果を社会実装していく」こと。カラフル・ボードが持つAI技術そのものだけでなく科学研究で使われるようなセンサーデータや生体情報のセンシングデータなど、慶應大学でつながる複数の研究を融合させるような応用にも期待している、ということだ。KIIの投資領域は、IT融合領域(IoT、ビッグデータ、AI、ロボティクス、ドローンなど)、デジタルヘルス(医療・介護)、バイオインフォマティクス、(ITxバイオ)、再生医療など慶應大学が強いジャンルで、社会的インパクトの大きい分野だという。

カラフル・ボードはAIによるファッションアイテムのリコメンドアプリ「SENSY」からスタートして、ワインや日本酒の個々人の嗜好の分析と提案というB2B2Cモデルで技術適用の実証実験を進めてきた。三菱食品や伊勢丹と協力し、売り場でAIを使った未完診断を実施。試飲後に購買につながる「CVR」を向上させつつあるそうだ。顧客の味覚データの可視化して、これを売上データと重ねることで、これまでできていなかった商品ジャンルごとの売場面積の最適化や販促施策などが打てるようになる、という。カラフル・ボードのチームは現在研究者3人、エンジニア7人を含む14人。今後研究者やエンジニアを増やしていくという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。