AIやバイオマーカーで患者のモニタリングと医療研究を進めるHuma、日立ベンチャーズなどが支援し142億円調達

世界中の多くの人々が、ワクチン接種で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が抑えられ、最終的には根絶できることを祈るような気持ちで見守る中、ウイルスの蔓延をモニタリングしてきた企業の1つが、その技術に対する強い需要を背景に、大規模な資金調達を発表した。

Humaは、バイオマーカーのデータと予測アルゴリズムを組み合わせて患者のモニタリングを行い、さらに研究者や製薬会社による臨床試験を支援している。同社はこのたび、1億ドル(約109億円)の株式発行と3000万ドル(約33億円)の融資を含むシリーズCで、1億3000万ドル(約142億円)の資金調達を完了した。後日行使できる7000万ドル(約77億円)の株式発行も追加すると、2億ドル(約219億円)まで資金を拡大できることになる。

Humaは、グルコース、血圧、酸素飽和度などを測定する診断機器からのデータに加え、患者がスマートフォンで提供するデータを収集しているが、今回の資金調達はそのデータを補強することを目的としている。測定できるバイオマーカーの種類を増やし、さらに多くの研究と試験に取り組むために、研究開発への投資を継続すること、ロンドンを拠点とし、ヨーロッパ、特に英国やドイツ語圏で好調なHumaのビジネスを、米国などの新しい地域で拡大していくことがその内容だ。

ラウンドには、世界的な製薬・ライフサイエンス企業であるBayer(バイエル)のベンチャーキャピタル部門であるLeaps by Bayer(リープスバイバイエル)と日立ベンチャーズが共同で主導、Samsung Next(サムスンネクスト)、Sony Innovation Fund by IGV(ソニーイノベーションファンド・バイアイジーブイ、ソニーの投資ファンド)、Unilever Ventures(ユニリーバベンチャーズ)、HAT Technology & Innovation Fund(ハットテクノロジー&イノベーションファンド)、Nikesh Arora(ニケシュ・アローラ、ソフトバンクの元社長でGoogleの元幹部)、Michael Diekmann(ミヒャエル・ディークマン、Allianzの会長)などの多数の戦略的・財政的に著名な支援者が参加。今後のビジネスチャンスを物語るものとなった。Bayerは2019年、まだMedopad(メドパッド)と名乗っていたHumaに対し、2500万ドル(約27億円)のシリーズBも主導している。

MedopadがHumaにリブランドしたのは2020年4月。ちょうど新型コロナウイルスのパンデミックが世界中で本格化した頃だった。それから1年、CEOかつ創業者のDan Vahdat(ダン・ヴァハダット)は、対面で直接診察するのが非常に難しい状況下、患者をリモートで監視する技術を提供する同社はさまざまな分野に懸命に取り組んでおり、成長を続けている、と話す。

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「パンデミックが発生した2020年は、健康面だけでなく、研究の面でも皆が悲惨な状況に陥りました」「いかにして治療と研究を分散させるか、がすべての基本です」。

その中には、早期からNHSと提携し、患者の酸素飽和度をモニタリングするために約100万台の酸素飽和度測定器を出荷したことも含まれている。酸素飽和度は、患者が緊急医療を必要としているかどうかを判断する有力な指標であることが早い段階から判明しており、この酸素飽和度測定器は病院が人であふれかえっていた時期に、遠隔で患者のトリアージを行うための重要な手段だった。ヴァハダット氏によると、再入院を3分の1に減らすことに直接貢献したという。

また、同社の技術は手術を予定していたにもかかわらず、延期された多くの患者のモニタリングも担う。英国だけでも480万人の患者が手術を待っているが(「衝撃的な数字です」とヴァハダット氏)、これらの患者にどのように対応すべきだろうか。自宅で心臓手術を待っている患者さんの場合、病状が急速に悪化する可能性がある。そこでHumaは、患者の状態を監視するための診断システムを構築した。病状を管理するだけではなく、状態が悪くなった兆候があれば、悪化して緊急を要するケースになる前に繰り上げて専門家の診察を受けられるようにしたのだ。

臨床分野の活動と並行して、Humaは多くの試験や研究にも取り組んでいる。その中には、緊急承認を受けて流通しているコロナワクチンの1つに関する第4フェーズ試験(承認後に行われる規制プロセス)も含まれる。

また、現在進行中の医学研究に不可欠なデータの提供も続けている。新型コロナに直接関係しないものとしては、Bayerの心臓の研究があり、新型コロナに関係するものとしては ケンブリッジ大学のフェンランド研究と呼ばれる、感染を早期に発見するための、より優れたバイオマーカー(具体的には、デジタル表現型)の研究が挙げられる。

さまざまな企業活動の成功により、HumaにはシリーズBの資金がまだ多く残されている。同社は人道的活動にも力を入れ始め、コロナ危機に瀕するインドやその他の国へのリソースの寄付も行っている。

医療とテクノロジーの架け橋となるスタートアップ企業の将来は明るいが、2020年は、公共の利益という大望を持った優れた企業に投資することがいかに重要であるかが示されただけでなく、彼らがブレークスルーを起こしたときには、企業と投資家にとって大きな意味を持つことが証明された年となった。赤字だったBioNTech(バイオンテック)は、新型コロナワクチンの研究とPfizer(ファイザー)との提携により、2020年最終四半期に10億ドル(約1100億円)以上の利益を生み出すという、まさに大転換を遂げた。

多くの投資家がHumaのような企業やHumaが提供する情報を継続的に支援することに熱心なのは、これが理由だ。

Leaps by Bayerの責任者であるJuergen Eckhardt(ユルゲン・エックハルト)氏は声明の中で次のように述べる。「Leaps by BayerのビジョンとHumaの専門知識と技術の協調は、予防と治療に関する世界的なパラダイムシフトを促進し、データとデジタル技術を使った研究活動を後押しすることになります」「私たちは、世界をより良い方向に変えるポテンシャルのある、最も画期的な技術に投資しています。Humaに初期段階から投資してきた私たちは、Humaがヘルスケアとライフサイエンスにおける主要なデジタルイノベーターの1つとして、どれだけ理想的であるかを理解しています」。

日立製作所の執行役副社長、小島啓二氏も次のように続けた。「Humaは、包括的な遠隔患者モニタリングプラットフォームを構築し、優れた実績を確立しています。私たちは、Humaと協力して、同社の世界最先端の健康技術をアジアの新しい市場に提供できることを非常にうれしく思います。ともに新しいデジタルヘルス製品を進化させ、世界中の人のための優れた医療と研究をパワフルに後押しできると信じています」。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:Huma人工知能資金調達新型コロナウイルス

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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