6月末、TechCrunchではスマートフォンのアプリストアのランキングを操作する、おこづかいアプリを使った「ブースト」という行為の実態について紹介した。前後して複数媒体でブーストについて報じたが、このタイミングで多くのおこづかいアプリはアプリストアから削除されたようだ。
だが今あらためてアプリストアを見てみれば——以前ほどの数はないものの——新しいおこづかいアプリが登場しているし、ブーストに利用されるリワード広告も健在だ。上場する広告代理店らを筆頭に、引き続き広告を販売している(もちろんリワード広告自体に問題があるのではなく、ブーストという行為が問題になっている)。また、アプリストアから削除されたアプリも、ユーザーがアンインストールしない限り動き続けている。
ブーストはAppleやGoogleといったプラットフォーマーの規約に違反するかという意味で「グレー」だ「クロ」だと言われる手法だったし、景表法上の優良誤認に当たるのではないかという話もあった。だが同じ手法を使い続けるかどうかは別として、アプリ開発者がマーケティングを行ってアプリの露出を図り、マネタイズしなければならないのは切実な話だ。
「人気検索」のキーワードが広告商品に
そんな中、TechCrunchではとある広告代理店の資料を入手した。そこに書かれていた広告商品は、「App Storeの検索欄に表示される『人気検索』欄に希望するキーワードを掲載する」というものだった。以下はその抜粋だが、この3行で商品の意図は理解してもらえると思う。
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メニュー:人気検索ブースト
概要:AppStoreの検索欄TOPの人気検索欄への掲載保証
料金:60万円/初回のみ(100万円/定価)
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人気検索のキーワード表示は、1年前にリリースされた「iOS8」ではじめてApp Storeの検索ページに導入された。ロジックこそ公開されていないが、1日複数回アップデートされており、一定時間内に検索回数が増えるなどしたキーワードが検索欄の下部に表示されている。それぞれのキーワードをタップすると、そのキーワードでのApp Storeの検索結果が表示される。
そこに並ぶキーワードの多くは、その日テレビやウェブで話題になったアプリに関わるものだったり、(特に悪天候時に)天気予報や時刻表に関わるものだったりする。
ただときどき、おおよそ全文を入力して検索することはないであろう、ちょっとややこしいゲームタイトルなんかが(略称でなく)正式名称で表示されたりすることがあった。もちろんその全部が全部というワケではないが、それらの中には、第三者が商品として販売し、操作して表示されたキーワードもあるのだという。
ざっくりその仕組みを説明すると次の通りだ。以前の記事で紹介した「中華ブースト」ではないが、代理店はあくまで商品を販売しているだけで、実働部隊の多くは海外の企業、もしくは海外にネットワークのある国内企業だ。
彼らは国内外に日本のApple IDを数万件保有しており、そのIDを使って手動ないし自動で、タイミングを集中させて広告主の依頼したキーワード(多くはアプリのタイトルだ)の検索を繰り返す。しばらくたてば、人気検索にそのキーワードが表示されるのだという。
もちろんAppleは常に検索ロジックをアップデートしているし、この手法が毎回成功する訳ではない。そのためこの商品は成果報酬で売られるケースがほとんどだという。価格は代理店により数十万円から数百万円。
ネット広告に詳しい関係者いわく「費用対効果で考えればブーストより効果は低いが、成果報酬なので営業のフックにしやすい」という。ちなみにアプリ開発者側からブーストの要求は減りつつあり、今後は運用型の広告を中心にするという動きもあるそうだ。今回紹介したマーケティング向け商品は、人気とはいかないようだが、「ブースト以外の商材」としても興味を持たれているという。
前出の関係者はこの商品について「グレー」なものだとした上で、「Appleもアルゴリズムを日々研究しており、この手法は今年中にも利用できなくなるだろう」と語る。Googleが検索の世界でブラックハットSEOと戦ってきたのと同じような話だ。
今後この手法がどこまで通用するのかはさておき、読者にはApp Storeの「人気検索」に表示されるキーワードが「ユーザーが気になって検索した、本当に人気なもの」ばかりではないという現状を知っておくべきだ。