Appleが大規模な音楽ストリーミング事業を準備中であるのは間違いない。TechCrunchのJosh Constine記者も書いていたように、Appleはテイラー・スウィフトの所属するレコードレーベルBig Machineを買収することさえ検討しているようだ。Dr. DreとBeatsを傘下に収めたAppleがストリーミング・ビジネスに参入すればまさにモンスター級の存在となるだろう。それではSpotifyのような既存のプレイヤーは道端に掃き捨てられてしまうのだろうか?
AppleやFacebook、Googleなどの巨人が新しいテクノロジー分野に興味を示すと、既存の小規模な事業者は逃げるしかない―でなければ踏み潰されてしまう、というのがこれまでの常識だった。
今回もライバルはAppleの動きを慎重に見定める必要があることは確かだ。しかしAppleのストリーミング・サービスの市場制覇がすでに保証されているわけではない。Appleのやることだからといってすべてスラムダンクとなりはしない。
私自身、iPhone、iPad、MacBook Airを所有しているが、だからといって自動的にAppleのストリーミング・サービスに乗り換えようとは思わない。私はこの2年ほど毎日potifyを使っている。昨年は月額10ドルでCMなし、聞き放題のサービスを契約した。聞きたい曲がすべて入っているわけではないが、十分多数の楽曲が聞ける。
Appleがはるかに満足度の高いサービスを提供してくれるのでなければわざわざ乗り換える気にはならない。もしAppleがサービスのプラットフォームにiTunesのソフトウェアを使うのであれば、それは大きな足かせになるだろう。iTunesはAppleの音楽サービスのアキレスの踵ともいうべき弱点だ。私自身は避けられるものなら避けたい。
iTunesストアはまた別の話で、すでに私のクレジットカード情報を保管している。しかしiTunesはわれわれが音楽ファイルをいちいち買っていた時代に構築されたプラットフォームだ。Appleはまずこのプラットフォームを「定額制の聞き放題のストリーミング」に改めることを迫られている。Beatsを32億ドルで買収してからかなりの時間が経つが、この投資から最大の利益を上げるためには音楽ストリーミング・ビジネスへの参入を避けるわけにはいかないだろる。.
シェア獲得の筋道
Appleは一度の大胆なキャンペーンに賭けず、何度かにわけたキャンペーンでシェアを獲得しようとするだろう。傘下のBeats、そしてスーパースターのDr. Dreと音楽界の伝説的プロデューサー、ジミー・アイオヴィンの影響力を最大限に活かすだろう。
同時にAppleは膨大なキャッシュにものを言わせて、ミュージシャンに有利な契約を提示し、料金も低く抑えるかもしれない。Beatsのヘッドフォンをストリーミング・サービスと巧みに組み合わせることも考えられる。
当初から成功できなくても、Appleには無尽蔵の資金があるから、サービスを拡充、運営していくことには何の問題もないはずだ。
Pingという大失敗
ただし、Appleが触れるものは常に黄金に変わるというわけではない。数年前にAppleが音楽ソーシャルネットワーク事業を立ち上げたことを読者は記憶しているだろうか? 覚えていないとしてもやむを得ない。そのPingはごく短命で印象に残らない存在だった。Pingは2010年にスティーブ・ジョブズ自身の華々しいプレゼンと共に立ち上げられた。
当時TechCrunchの記者だったM.G. Seiglerはこう書いている。
「(Pingは)FacebookとTwitterとiTunesを合わせたような存在だ。ただし、Facebookでもないし、Twitterでもない。Pingは音楽に特化したソーシャルネットワークだ」とジョブズは説明する。その規模は驚くべきものだ。すでに23ヵ国に1億6000万人のユーザーがいる―iPhoneとiPod touchのiTunesストアの一部としてすでにアプリはインストールずみだ。
だがほとんどのユーザーはPingを無視した。2012年9月にPingは死んだ。
Appleの膨大なリソースをもってしてもPingは大失敗に終わった。もちろんAppleはこの失敗から多くの教訓を得ただろうし、ストリーミング・ビジネスの参入の際にそうした教訓が役立つことだろう。
Spotifyその他には依然として優位性がある
根本的な問題は、Appleがいかに努力しようと、それはAppleのサービスだという点にある。Spotify等はクロスプラットフォームのサービスだという点に重要な優位性がある。世界のスマートフォンの80%はAndroidなのだ。
Spotifyはレッドツェッペリンやメタリカなどの有力な独占コンテンツを持つ他に、エージェントを介さず直接契約するミュージシャンを最近、多数ひきつけるようになっている。当然ながらこうしたフリー・ミュージシャンは多数のサービスが競争することを望んでいる。
Spotifyは小規模なストリーミング・サービスを買収することで体質強化を図るだろうと私は予想している。Appleという巨人の参入は市場の集中化を進めることになるだろう。
もうひとつ重要なのは、音楽ストリーミング市場は巨大であり、複数のプレイヤーが存在する余地が十分あるという点だ。Appleが独自のストリーミング・サービスを開始したからといって、その分だけライバルのビジネスが奪われるというものではない。モバイル・サービスの市場全体と同様、ストリーミング・サービスも向こう数年にわたって急成長を続けるはずだ。それに忘れてはならないが、複数のサービスと契約する消費者も決して少なくないだろう。
Appleの参入に関連してひとつだけ確実なのは、プレイヤー間の競争が激しくなるということだ。これは消費者にとって大きな利益となる。消費者はコンテンツ、価格、プラットフォームなどさまざまな要素を考慮して好みのサービスを選ぶことができるようになる。
Appleはストリーミング・サービス参入にあたって、Beatsなど有力なリソースを傘下に持っているが、 Pingの失敗が教えるとおり、腕力だけでは成功できない。ユーザーから選ばれるためにはAppleも他のライバル同様、努力を積み重ねていく必要がある。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)