Axonが警察向けの新製品を発表、だが今の警察に本当に必要なのは新しいツールなのか

ボディカメラでシェアトップのAxon(アクソン、旧称Taser)が警察向けの新しいテックツールをいくつかリリース予定だ。これにより、警官がペーパーワークにかける時間が削減され、応答時間の短縮が見込める。しかし、警察の基本的な使命とそれを果たすための手段とが疑問視されている今、本当に必要なのはこうしたテックツールなのだろうか。この点については、アクソンのCEOであるRick Smith(リック・スミス)氏でさえ懐疑的である。

アクソンの新製品が、米国の警官と救急隊員にとって役に立つものであることは間違いない。まず、ボディカメラに記録された音声を自動的に文字起こしできる機能がある(当然、機械学習を利用したものだ)。筆者自身、仕事で大量の話し言葉を扱う必要があるので、こうしたツールの便利さはよくわかる。

ボディカメラの役割の1つは、警官と他の人とのやり取りを記録することだが、そのような記録は分類し、整理された形で参照する必要がある。そのためには、ビデオを再生しては止めるという操作を手動で繰り返しながら、どの時点でどのようなやり取りがあったかをメモしていく面倒な作業が必要となる。大まかな文字起こしがその場でできれば、重要な出来事を見つけて手早くリストアップできるので時間と労力の節約になる。

ビデオに記録された単語やフレーズを検索して、対応するタイムコードを関連付けることができる。画像クレジット:Axon

 

ここで重要なのは「大まかな」という言葉だ。これはあくまでも文字起こし用であって、法廷で使える文書を作成するものではない、とスミス氏は明言する。しかし、アクソンは「高精度が期待される現在の市場でも価値のある製品を設計することを目指した」と同氏は言う。

筆者が気になったのは、このサービスも、他のサービスと同様、機械学習用のトレーニングデータに含まれていない話し方をする人については、誤差の発生率が高くなる可能性があるという点だ。プエルトリコ訛りや南部訛りのある人、あるいは地域独特のスラングや方言を使う人の話し方がトレーニングデータに含まれていない場合、そうした人たちの会話はアルゴリズムでうまく処理されない。スミス氏によると、アクソンは自社の音声認識アルゴリズムをライセンス供与して、リアルワールドデータでテストしてから採用したのことだが、バイアスを早いうちに取り除くために多様なデータセットを保持することついては、同氏は多くを語らなかった。たとえアルゴリズムを書いたのがアクソンではなかったとしても、これは倫理的にも実用的にも重要な点であるため、同社の今後の対応に期待したいところだ。

Image Credits: Axon

アクソンのもう1つの新製品は、911番緊急通報時の警官派遣や、警察犯罪処理センターの業務で使用されるさまざまなツールを統合するシステムだ。

スミス氏はこう語る。「無線システム、転送用コールシステム、警官派遣用ソフトウェアなどがある。緊急通報に応対する通信指令係は通常、ソフトウェアのコマンドラインインターフェースのような画面に猛烈な速さでメモを打ち込みながら現場の警官とはプッシュ・トゥ・トーク 式の無線で話す。しかもこの無線は専用チャンネルを使用していない。こんなに非効率的な環境で重要な任務を遂行してきた彼らはすごいと思った。これらのシステムは統合されておらず、各システムが別々の建物に配置されている場合もある。バラバラなシステムをつなげる接着剤のような役割を人間が担っているため、人件費がかさみ、物事は複雑になる。新製品によってすべてのツールが1つのシステムに統合されることになる」。

この新製品「Axon Respond」ソフトウェアにより、通信指令係は手元ですべての作業を一括して行えるようになり、急行できる警官が現場近くにいるかどうか、その警官の専門スキルは何か、といった関連データも同時に確認できるようになる。もちろん、911番通報がよりスムーズに処理され、適切なリソースを適切な場所に配分できるのであれば、どのようなツールでも大歓迎だ。

以下のコンセプト動画でアクソンの構想がどんなものかを見ることができる。動画内のツールは開発中であり、まだ実写の紹介動画を撮れる段階ではないようだ。

このツールの目的は、単により多くの警官をより早く現場に向かわせることではない(もちろん、それも可能ではある)。

スミス氏はこう説明する。「当社のライブストリーム配信サービスを、戦術的な目的以外で利用したいという顧客がいる。メンタルヘルスの専門家をライブでつなげて対象人物の精神状態を評価してもらうという使い方を検討しているようだ。銃と警棒を持った警官ではなく訓練を受けたメンタルヘルス専門家が対応すれば、まったく違う結果になる可能性がある」。

乱用はツールのせいではない

これまで紹介したツールはどれも優れた製品のようだ。しかし、米国は今、警察官による権力と装備(銃、警棒だけでなく、ボディカメラも含まれる)の乱用が引き起こした大きな危機の中で苦闘している最中だ。

ボディカメラは、表向きは説明責任を果たすためのツールに見えるが、実は警察はボディカメラとその録画映像の使用について非常に慎重で、警官が悪者に見える場合は公開せず、警察に対する印象が向上する場合は公開する、というのがボディカメラに対する批判の大部分を占める。実際にそうしたことが行われているのを目にしたことがある筆者にとって、これは仮定の話ではない。この点についてどう考えているのか、スミス氏に尋ねてみた。同氏は、そのようなことが実際にあったことを否定はしなかったが、テクノロジーを悪者扱いすることには異論を唱えた。

スミス氏は次のように語る。「テクノロジーは万能薬ではない。テクノロジーによって警察が抱える問題が解決されることはない。とはいえ、ボディカメラなしでは解決できない問題もある。ボディカメラはジョージ・フロイド氏の死を防ぐことはできなかったと人は言う。確かにその通りだ。しかし、ジョージ・フロイド氏の事件が継続的な変化を引き起こせるのは、ボディカメラがあったおかげだと思う。ボディカメラがなければ、今のように米国全土の警察幹部が懸命に対応することはなかっただろう。法執行機関の幹部たちが米国全土で、『あれは間違いだった。ジョージ・フロイド氏は警官に殺された』と言っている。こんなことは普通ではあり得ない。警察が公の場で同胞を批判するなど、あり得ないことだ。だが、今回のケースでは、十分な証拠が残されていた」。

確かに、ボディカメラの映像のおかげで、フロイド氏を殺害した警官の行為はより明白となった。しかし、これに対しては、近くにいた一般人が事件を撮影していなければ、ボディカメラの映像も公開されなかった可能性は十分にある、というもっともな反対意見がある。米国民の半数が公開を求めていたが、問題の映像は事実上、警察の担当部門の手から力ずくで取り上げる必要があった。

アクソンは、自社のツールを今、警察に売り込むことによって、将来的に法執行機関にとって重要な存在になるための準備をしているようだ。しかし、仮に主要な警察部門の多くが資金不足、大幅な人員削減、組織再編に直面したら(実際、10年以内にそうなる可能性は高い)、アクソンの立ち位置はどうなるのだろうか。筆者はスミス氏に想像を促してみた。

スミス氏は次のように語った。「当社は、同業他社よりも高い順応性を持つ企業でありたいと思っている。政府はこれまで、テクノロジーを調達する際に、すばやく臨機応変に対応する企業ではなく、複雑な調達システムを管理することに長けている企業を優遇してきた。後者のような企業になれば、今抱えているのとまったく同じ問題を作り出してしまうため、当社はそうなることを意図的に避けてきた」。

スミス氏はこう続けた。「それで『リスクを恐れずに、まったくの白紙から思い切ってやってみたらどうか』と提案してみた。それが成功すれば、顧客の方から当社の製品を欲しいと言ってくるだろう。当社が2009年にクラウドソフトウェアの販売を始めたとき、当時の顧客は、クラウドソフトウェアを使うのは違法だと言い、その後数年は、『そんなものを使うなど、とんでもない』という反応ばかり返ってきた。しかし、今や90%の政府機関にとって、クラウドの方がはるかに安全だ。当社は、その姿を現し始めたばかりの新しい世界に向けてモノを作る。こうして作られる新しいモノは化学反応を促進する触媒のようであり、そのせいで難問に直面する場合もあるが、それは同時にチャンスでもある」。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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