bitFlyerが全銀協ブロックチェーン実証実験でNTTデータら大手3社と競争へ

bitFlyerが、全国銀行協会(全銀協)が推進する実証実験プラットフォームを提供するベンダーの1社に選ばれた(発表資料)。同社のブロックチェーン製品「Miyabi」を、新たな決済・送金サービスや本人確認・取引時確認(KYC)、金融インフラの分野での実用化に向けた実証実験に投入していく。今回選ばれた選ばれた他のベンダーはNTTデータ、日立製作所、富士通の各社で、日本の最大手システムインテグレータとスタートアップ企業が並ぶ形となった。

全銀協は日本の銀行のほとんどが加盟する団体で、銀行間ネットワーク「全銀システム」や電子債権記録「でんさいネット」の運営主体としても知られている。全銀協は銀行間ネットワークを視野に入れた実証実験のための「ブロックチェーン連携プラットフォーム」をこの10月にも立ち上げようとしている(発表資料)。今回、このプラットフォームに実証実験環境を提供するパートナーベンダーのとしてbitFlyerが選ばれた。この分野の有力スタートアップとして米Rippleと米R3がある。全銀協に選ばれた時点で、彼らのプロダクトと同等以上の評価を受けたといってもいいだろう。

今後、複数の国内銀行がMiyabiを用いた新たな金融プラットフォームの実証実験に乗り出す見こみだ。それに伴い、銀行の開発パートナーとなる開発会社もMiyabiに基づく環境構築やアプリケーション構築の経験を積むことになる。実証実験でMiyabiが良い実績を出し続ければ、将来的な銀行間ネットワークの構築技術の候補となるかもしれない。

なお、今回選ばれたbitFlyer以外の3社はLinux Foundationが推進するHyperledgerプロジェクトに賛同する立場にある。特に富士通は、全銀協向けにHyperledger Fabricと同社クラウドを組み合わせた検証プラットフォームを提供する予定を明確に打ち出している(発表資料)。Hyperledger FabricとMiyabiが次世代金融プラットフォームの座を競うことになるかもしれない。

Miyabiと銀行といえば、2016年11月の3大メガバンクが参加したブロックチェーン実証実験が思い浮かぶ(関連記事)。全銀協がMiyabiを選んだ背景に、この実証実験の成果があったことは想像に難くない。

Miyabiは「ファイナリティを備えるブロックチェーン/DLT製品中で世界最速」

Miyabiとはどのようなプロダクトなのだろうか。詳細な資料は現時点では公開されていないが、Miyabiは、もともと金融機関での送金をターゲットに開発してきた経緯があるとのことだ。「ファイナリティを備える製品中では世界最速だ」とbitFlyer代表取締役社長の加納裕三氏は胸を張る。「もちろん、対改ざん性、ビザンチン障害耐性あり、単一故障点なしとブロックチェーンとしての特徴をすべて備えたうえでの話だ」。「日本以外の銀行にも、働きかけていきたい」と加納氏は話している。

bitFlyerが公開した資料を基に、ブロックチェーン/分散型台帳(DLT)技術としてのMiyabiの特徴について説明してこう。

まず、ブロックチェーン全体の特徴からだ。下の図は、ブロックチェーン技術、分散型台帳技術、分散データベースに関して、bitFlyerが整理した図である。

ここで改めてブロックチェーン技術の特徴を振り返ると、データをネットワーク上に分散させて保持できること(高可用性に結びつく)は当然として、(1) 改ざん不可能、(2)ビザンチン障害耐性、(3)単一障害点(SPOF)なし、という特徴を兼ね備えることが特色だ。Miyabiは、これらのブロックチェーン技術としての特徴を満たした上で、ファイナリティと処理性能を兼ね備える点で独自のポジションにいるとbitFlyerの加納氏は話す。

この特徴から導かれるメリットは、ハッキング行為でデータを不正に操作される可能性がきわめて小さく、また単一のノードがダウンしてシステムが止まる危険性がないことだ。ブロックチェーン技術とは、信頼できる共有台帳(あるいはデータ格納手段)として考えうる最も高度なスペックを備えている。ただし実績作りはこれからなので、ブロックチェーン技術全般に懐疑的な意見の専門家もまだいる段階ではある。

ブロックチェーンの特徴に加え、ファイナリティと性能を追求

ブロックチェーン技術に銀行が求める要件は先の高可用性、対改ざん性、ビザンチン障害耐性、単一障害点なしというブロックチェーン技術の特徴だけではない。(1)確定的な合意形成アルゴリズムと(2)処理性能が大きい。

(1)について少し説明する。ブロックチェーン技術の場合、ビットコイン、Ethereum、mijinで用いられているPoW(Proof of Work)やPoS(Proof of Stake)は「ナカモト・コンセンサス」、あるいは確率的ビザンチン合意と呼ばれている。合意形成が確率現象となり、取引がくつがえる確率が時間とともに0に収束する。ただし、厳密にゼロにはならない。メリットは巨大な分散型システムに適用できることだ。ビットコインやEthereumを見れば分かるように確率的な合意形成アルゴリズムにより実用上は問題なく取引できるのだが、銀行側は「ファイナリティ(決済の確定性)」を重視する立場から確率的な挙動は受け入れられないと考えている模様だ。

そこで銀行側が求めるファイナリティの要件を満たすのは、確定的な合意形成アルゴリズムに基づく製品ということになる。Miyabiの場合、BKF2と呼ぶ独自設計の確定的な合意形成アルゴリズムを採用する。

確定的な挙動の合意形成アルゴリズムのルーツは、分散システム研究から生まれたアルゴリズムであるPaxosかPBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)である。MiyabiのBKF2は「Paxosに近い」とbitFlyer CTOの小宮山峰史氏はコメントしている。

bitFlyerの説明では、Miyabiは、Hyperledger Fabric、R3やRippleの技術よりもビットコインの技術により近いとのことだ。「我々はビットコインの開発者サトシ・ナカモトを尊敬している。安全に資産を移転するため『通貨型』の概念も取り入れている。承認の仕組みも、単一障害点かつ単一信頼点となる認証局に頼るのではなくマルチシグを導入している」(加納氏)。ここで注釈を加えると、Hyperledger FabcirにはビットコインのUTXOやMiyabiの「通貨型」のように通貨特有の制約を持つデータ型の概念はない。またHyperledger Fabricでは認証局の存在が、単一障害点/単一信頼点となる懸念が指摘されている。

処理性能に関してだが、ブロックチェーン技術の単体の処理性能はブロック容量、取引記録の容量、ブロック生成間隔が基本的なパラメータとなる。またPaxosやPBFTのような確定的な合意形成アルゴリズムはプロトコルの負荷が大きく、ノード数が増えると合意形成の時間が増える形で性能に影響する。

Miyabiの場合は、1500〜2000件/秒の処理性能を確認しており、より高速なハードウェアを投入すれば4000件/秒以上の性能が得られるとしている。Hyperledger Fabric v1.0では合意形成をグループ分けして分散することでトータルの処理性能(スループット)を高めるアプローチも可能となっているが、「それでは処理を振り分ける部分(ディスパッチャ)が単一障害点になる」と加納氏は指摘する。Hyperledger FabricやCordaがオリジナルのビットコインを大幅にアレンジした技術であるのに対して、Miyabiはビットコインの技術を研究して得られた知見を追求した技術との立ち位置といえる。

Miyabiはまだ公開情報が乏しく、多くの読者からはベールに包まれた製品に見えているかもしれない。ただ、3大メガバンクが実証実験を実施し、全銀協が実証実験プラットフォームに選んだことで、銀行業界から高評価を得ていることは確かだ。今後の実績の蓄積を期待したい。

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TechCrunch Japan

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