Clubhouse(クラブハウス)にとって、この夏は忙しい日々だった。この大ヒットした音声ソーシャルアプリは、ここ数カ月の間に新しいメッセージング機能やAndroid版アプリをリリースしている。そして今度は、中核となるオーディオ体験の向上に目を向けてきた。同社は米国時間8月29日に、アプリのリスナーがグループの他の人たちと一緒にライブで会話を楽しんでいるような、より豊かな感覚が得られるように、そのRoom(ルーム)に空間オーディオを導入すると発表した。
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TechCrunchは、ClubhouseのJustin Uberti(ジャスティン・ウベルティ)氏に、空間オーディオを導入する決定について話を聞いた。空間オーディオを使うと、音声が1カ所からすべて聞こえるのではなく、異なる発言者が物理的に別々の場所で話しているように聞こえる効果が得られる。
ウベルティ氏は、Google(グーグル)で10年以上にわたり、Google Duo(グーグル・デュオ)の開発やHangouts(ハングアウト)チームでリーダーを務めてきた。最近ではGoogleのクラウドゲーミングプラットフォーム「Stadia(ステイディア)」を担当した後、2021年5月にストリーミング技術の責任者としてClubhouseに入社した。同氏はClubhouseのベースとなった技術であるWebRTC規格を策定した人物でもある。
「グループオーディオの設定で認識させられることの1つは、物理的な空間にいるのと同じような経験が得られないということです」と、ウベルティ氏は語る。
Clubhouseをはじめとする音声チャットアプリでは、人々がバーチャルなソーシャル空間に集まるが、その音声は比較的フラットで、すべてが同じく中央の1カ所から発せられているように聞こえる。しかし、Clubhouseが想定しているライブな集会は、ステージの左右や、発言者が質問をする客席のさまざまな場所など、会場のあらゆる場所から音声が聞こえてくるというものだ。
このような新しいオーディオの仕組みを実現するために、Clubhouseは、Second Life(セカンドライフ)の製作者であるPhilip Rosedale(フィリップ・ローズデール)氏が起ち上げた空間オーディオ会社、High Fidelity(ハイ・フィデリティ)のAPIを統合し、同社自身のカスタムオーディオ処理と融合させ、Clubhouseのアプリ用にチューニングした。
High FidelityのHRTF技術は、Head Related Transfer Function(頭部関連伝達関数)の略で、ステレオチャンネル間に微妙なタイムディレイ(遅延)を加え、音の発生源によって異なる高音域と低音域の聞こえ方を再現することで、音声を異なる仮想空間にマッピングすることができる。
その結果、ソーシャルVRでは以前から使用されてきたように、バーチャルなソーシャル体験に物理的な存在感を与えることが可能になる。これは昔から優れたレコードでも感じられた。例えばPink Floyd(ピンク・フロイド)の「Dark Side of the Moon(狂気)」を良いヘッドフォンでステレオ再生すると、頭の周囲で楽器や効果音が鳴っているように聞こえる。Clubhouseの場合は、仮想空間の中で一緒にいる人達の声が、あちこちから聞こえてくるように感じられるというわけだ。
ウベルティ氏によると、Clubhouseへの実装は控えめだがすぐに気づくものになるという。その音声処理では、ほとんどの発言者が、聞いている人の前に来るように「そっと会話を操舵する」というが、Clubhouseのユーザーは、人々が異なる物理的な場所から話しているという新しい感覚を得ることができるはずだ。
この新しいオーディオ機能は、すでに大多数のiOSユーザーに提供されおり、数週間以内に残りのiOSユーザーおよびAndroidユーザーにも提供される予定だ。この機能はすべてのClubhouseユーザーが利用できるようになるが、ユーザーは空間オーディオをオフにすることもできる。
Clubhouseは、同じバーチャルサウンドステージの技術を使って、大きな部屋では大きな音を感じさせ、親しい少人数が集まる部屋では実際に小さな物理的空間で発せられているような音に聞こえるように調整する。Clubhouseの参加者はほとんどの人がヘッドフォンを使っているため、このアプリユーザーのほとんどが、2チャンネルのステレオサウンドによる効果を享受できる。
「人はある空間とか、ある部屋の中にいるという概念を持っています。私たちは、円の中で人々が立ち話をしているような感覚を再現しようとしています」と、ウベルティ氏は述べている。
ウベルティ氏によれば、空間オーディオは通常のClubhouseユーザーに、あまり目立たないメリットを与える可能性もあるという。ソーシャルアプリの標準的な、つまり空間化されていない音声が、新型コロナウイルス時代の現象である「Zoom(ズーム)疲れ」を助長している可能性がある。人間の脳は、電話やグループオーディオルームのようなバーチャルな音声を処理する際に、人と自然に対面している場合とは異なる方法で発話者を区別する。
「脳は誰が話しているかを判断しようとします。空間的な手がかりがなければ、声の音色で区別しなければなりません。それには、より多くの認知的努力が必要なのです」と、ウベルティ氏はいう。「空間オーディオの導入は、これによって没入感が増すだけでなく、より楽しめる体験となります」。
Clubhouseの多くのサブコミュニティが、この空間オーディオ効果をどのように受け止めるかはまだわからないが、このアプリで発信されるコメディー、音楽、さらにはASMRのような体験が、大きく向上する可能性はある。
「誰かがジョークを言っても、それがとても退屈に感じられることがよくあります」と、ウベルティ氏はいう。「しかし、Clubhouseでは、自分の周囲から笑い声が聞こえてくるのが感じられるため、コメディクラブにいるような体験ができるのです」。
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画像クレジット:SOPA Images / Getty Images
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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)