Clubhouseは中国でも流行るのか?ライバルアプリや生まれつつあるクローンそして政府による情報管理

中国時間2月5日になったばかりの真夜中過ぎに、私は中国のスタートアップコミュニティで有名な、Feng Dahui(フェン・ダーウェイ)氏が主催するClubhouse(クラブハウス)のroomを偶然見つけた。0時半頃だったが、まだ500人近くのリスナーがいて、その多くは中国のエンジニア、プロダクトマネージャー、起業家だった。

その場の議論の中心となっていたのは、仮想ルームの音声チャットに気軽に参加できるアプリClubhouseが、中国で成功するかどうかということだった。その問いは、ここ数週間私も自問していたものだ。現在シリコンバレーで、オーディオソーシャルネットワークに関する誇大広告が渦巻いていることを考えると、中国の知識豊富で技術に精通したユーザーたちが、このプラットフォームに群がり始めるのは当然のことだ。中国ではアプリ招待への需要が高まっていて、人々は最高100ドル(約1万500円)ほどを払って転売屋から招待を購入している。

私が話した多くのユーザーは、このアプリは中国でその可能性を完全に発揮することはなく、またプロダクトマーケットフィットが行われることもないままに禁止されるだろうと信じている。実際、多くの人が参加しているいくつかの中国語ルームでは、仮想通貨取引から香港での抗議活動に至る、中国では通常検閲されている話題が触れられている。

慰めになるかどうかもしれないが、Clubhouseのクローンや派生商品は中国の中ですでに開発されつつある。Herockというニックネームで通っている起業家でブロガーの中国人は、似たようなことに取り組んでいる「少なくとも数十の国内チーム」を知っていると私に教えてくれた。さらに中国では、音声ベースのネットワーキングは、異なる形態ではあるものの、何年も前から存在している。もしClubhouseがブロックされた場合、いずれかの代替アプリは成功するのだろうか?

情報管理

Clubhouseの直接的なクローンは、おそらく中国では使えるようにはならないだろう。

10億人近くのインターネットユーザーを抱えるこの国では、いくつかの要因がその見通しを暗いものにしている。Clubhouseの主要な魅力は、リアルタイムで会話が有機的に流れることだ。しかし名前を出すことは拒否したある中国のオーディオアプリの創業者は「中国政府がコントロールなしに、自由な議論が起こり広がることを許すことがあり得るでしょうか」と反語的に問いかけた。たとえば中国でのビデオライブストリーミングは、誰が話すことができて何をいうことができるかを制限する厳しい規制監督下にある。

そして匿名創業者は、2011年に行われた有名なネット上の抗議運動を引用した。多数の小規模業者たちが、料金値上げ案を巡ってAlibaba(アリババ)のオンラインモールへのサイバー攻撃を開始したのだ。彼らがお互いの行動の調整に使っていたのはYYというツールで、最初はゲーマー向けの音声チャットソフトとしてスタートし、後に動画ライブ配信で知られるようになった。

「当局はリアルタイム音声通信の威力を恐れています」と創業者は付け加えた。

Clubhouseがすでに検閲の対象になっている兆候がある。Clubhouseは中国内で仮想プライベートネットワーク(VPN)やその他の検閲迂回ツールを使うことなく完全に機能するが(少なくとも今のところは)、iOS専用のアプリは中国のApp Storeでは利用できない。Clubhouseは、2020年9月下旬に世界リリースされた直後にストアから削除されたと、アプリ分析会社のSensor Tower(センサータワー)は述べている。

現在中国のユーザーがClubhouseをインストールするためには、他国のApp Storeに切り替えてアプリをインストールする必要があり、ユーザーへのリーチがさらに制限されている。

Apple(アップル)が、政府のアクションを見越して先制的にClubhouseをストアから削除したのかどうかは不明だ。主要な海外アプリの削除が遅れることで検閲側から非難されることは予想される。あるいは、リアルタイム放送は、いかなる形であっても中国の規制当局によってチェックされないことはないということを知って、Clubhouseがアプリ自体を自主的に削除したのかも知れないが、これは必然的にユーザーエクスペリエンスを損なうことになる。

Clubhouse自身の中国進出の優先度は、他の地域で受け入れられつつあることを考えると、かなり下がっているだろう。Sensor Towerの推計によれば、Clubhouseアプリはこれまでのところ、世界で約360万件のインストールを数えている。このアプリのインストール数の大部分は米国を起点としており、新規のダウンロード数は約200万回、次いで日本とドイツが合わせて40万回以上のダウンロード数を記録している。

Clubhouseのエリートたち

中国スタートアップ界の重鎮、フェン・ダーウェイ氏が主催するClubhouseルーム(画像クレジット:TechCrunch)

中国のインターネット上で検閲なしでオープンな議論を行うことは難しそうだということが、市場にまだ独自のClubhouseがない理由なのかもしれない。しかし、たとえClubhouseのようなアプリが中国で存在を許されたとしても、Douyin(ドウイン、抖音。TikTokの中国語版)やWeChat(ウィーチャット)のようには全国的で大規模なものにはならないかもしれない。

このアプリは「エリート主義的」で、音声版Twitter(ツイッター)のようなものだと、NASDAQ(ナスダック)に上場する中国の音声プラットフォームLizhi(リージー、荔枝)の、CEOで創業者のMarco Lai(マルコ・ライ)氏は語った。これまでのところ、Clubhouseの招待制モデルは、米国のユーザーに関しては主にテック、アート、セレブリティ業界に限定されている。Herock氏の観察では、中国国内のユーザー層もこの傾向を反映しており、特に金融、スタートアップ、プロダクトマネジメント、暗号通貨トレーダーなどの分野に集中している。

しかしこのようなユーザーの中にも、自由に使える時間の問題がある。先日の夜は、深夜にByteDance(バイトダンス)社員たちの会話を立ち聞きした。私はほとんどの場合には、仕事が終わった後の深夜近くにClubhouseに入っている。実際それが、中国でのユーザー活動がピークを迎える時間帯だからだ。中国のプロフェッショナル向けネットワーキングコミュニティRaimaker(レインメーカー)の創業者であるZhou Lingyu(チョウ・リンユー)氏は、Clubhouseは中国で多くのユーザーを引きつけることができるだろうかという私の問いかけに、「中国に、そんなに十分な時間を持つ人はいるのでしょうか?」と答えた。

彼女の発言はすべての人には当てはまらないかもしれないが、Clubhouseがターゲットにしているように見える、あるいは少なくとも惹きつけているように見える中国のハイテク中心の高学歴層は、中国のハイテク企業で一般的にみられる悪名高い「996」スケジュール(9amから9pmまで週6日働く)で働いている可能性が高い層でもある。Clubhouseが奨励する「有意義な会話」は望ましいものだが、アプリの持つリアルタイムで自然発生的な会話の性質は、より効率的で管理しやすい時間の使い方を好む可能性の高い996ワーカーたちにも多くの負担を求めることになる。

関連記事:中国の長時間労働にスタートアップが反撃

モデレーターが活動的であり続けるためには、他の人間とつながるという純粋な情熱とは別に、物質的なインセンティブも必要かもしれない。1つの可能性のある解は、質の高い会話をポッドキャストのエピソードに変えることだ。「Clubhouseは、1回限りのカジュアルな会話のための場所です。質の高いコンテンツを制作している人は、会話を録音して、後で繰り返し聞くことができるようにしたいと思うでしょう」とチョウ氏は述べている。

中国内の対応品

中国では、オーディオネットワークは少し違うかたちで使われてきた。一部の企業は、ゲーミフィケーションを重視し、アプリに遊び心のあるインタラクティブな機能を満載にしている。

たとえばLizhiのソーシャルポッドキャストアプリはただ聞くだけではない。アプリではそれに加えて、リスナーがホストにメッセージを送ったり、バーチャルギフトを使ってチップを渡したり、詩を読んでいるホストを聞きながら自分の声を録音したり、オンラインカラオケコンテストで競い合ったりといったことを行うこともできる。

ホストとリスナーの間の交流は、Lizhiの運営スタッフがキャンペーンをデザインし、コンテンツの品質とユーザーのエンゲージメントを確保するために舞台裏でコンテンツ制作者と協力しているため、比較的整然と行われている。それに比べてClubhouseの成長は、より有機的なものになっている。

「中国のプロダクトは、現実の生活の中での自然な社会的行動をプロダクトの中に再現することよりも、観戦やパフォーマンスに重点を置いています。Clubhouseの機能はシンプルです。どちらかというと喫茶店に近いですね」とライ氏はいう。

Lizhiのもう1つの音声製品であるTiya(タイヤ)は、Clubhouseに近いものと考えられるが、Tiyaのユーザーは15歳から22歳の若者が多く、ゲームやスポーツ観戦をしながら音声でチャットができるエンターテイメント性に重点が置かれている。それもまた、交友関係の必要性をあおる。

2019年にサービスを開始したDizhua(ディシュア)も、Clubhouseと比較されている中国製のアプリだ。ルーム発見のために、人びとの既存のネットワークを利用するClubhouseとは異なり、Dizhuaは匿名のユーザーを彼らが登録した関心事項に基づいてマッチングする。Clubhouseでの会話は、気軽に始めたり終えたりすることができる。Dizhuaはユーザーに、テーマを選んで留まり続けることを奨励している。

「Clubhouseは純粋なオーディオアプリで、タイムラインもコメントといったものもありません」と、中国のベンチャーキャピタル企業内専門家であるArmin Li(アーミン・リー)氏は述べている。「それはぶらぶら歩きや、ながら作業のように、ユーザーの目的が明確でないようなシナリオ向けの、カジュアルで一時的なスタイルなのです【略】その高いコミュニティ参加率、コンテンツの質、ユーザーの質は、中国の音声プロダクトには見られないものです」。

要点は、中国のプラットフォーム上で行われる会話は、コンテンツ監査人によって監視されているということだ。中国のネットプラットフォームでユーザー登録を行う際には実名確認が必要なので、ネット上には本当の匿名性は存在しない。ユーザーが議論できるトピックは限られており、多くの場合、楽しくて無害なものに傾きがちだ。

にもかかわらず中国の人がClubhouseに参加する理由は何だろう?私のようにFOMO(時代遅れになることへの恐れ)から参加した人もいる。起業家たちは常に次の市場機会を探し求めているし、インターネットの巨人のプロダクトマネージャーたちは、Clubhouseで学んだことの1つ2つでも自社の製品に応用できることを期待している。一方、Bitcoinのトレーダーや活動家は、Clubhouseを中国の規制当局の権限外にある避難所と見なしている。

テクニカルサポート

Clubhouseに関して印象的な点は、中国内でとてもスムーズに動いていることだ。海外のアプリは、たとえ中国内で禁止されていない場合でも、サーバーが中国から離れているために読み込みが遅くなることが多い。

Clubhouseは、ときには何千人もの参加者が集まる巨大なチャットグループをサポートする技術を、実際に自社で開発しているわけではない。その代わりに、Agora(アゴラ)社のリアルタイムオーディオSDKを使用しているのだと2つの情報ソースが教えてくれた。また、South China Morning Post(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)紙もそのことを報じている。AgoraのCEOであるTony Zhao(トニー・ジャオ)氏にパートナーシップの有無を確認したところ、彼は電子メールで、自社とClubhouseとの関係に関しては肯定も否定もできないと返信してきた。

その代わりに彼は、世界中の200カ所以上の共同データセンターで稼働し、インターネットを覆っているAgoraの「仮想ネットワーク」を強調した。そこで同社は、アルゴリズムを使用してトラフィックを計画し、ルーティングを最適化している。

注目すべきは、Agoraの運営チームは主に中国と米国にいるということで、必然的にClubhouseのデータが中国の規制の範囲内にあるかどうかについて疑問が生じる。その可能性については同社がIPO目論見書の中で触れている。

Agoraのようなリアルタイム音声技術プロバイダーを利用すれば、機を見るに敏な者なら低コストでClubhouseのクローンを迅速に構築することができる、とHerock氏は述べている。現地の規制上の課題やユーザーの行動が異なるため、中国の起業家がClubhouseを直接コピーすることはないだろう。しかし彼らは、Clubhouseまわりの過剰ともいえる人気が消えてしまう前に、音声ネットワーキングを使った独自の解釈を生み出すために競争をすることになるだろう。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Clubhouse中国

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。