CPGこそベンチャー投資の未来だ――消費者向けパッケージ商品スタートアップへの投資のポイント

この記事の執筆者はRyan Caldbeck(消費者向けパッケージ商品のスタートアップへの投資マーケットプレイス、CircleUpのCEO) 。TechCrunch投稿記事:消費財業界で起きようとしているM&Aの雪崩Unileverが10億ドルでDollar Shave Clubを買収した理由

6年前、われわれが創立したCircleUpのための資金集めをしていたとき、大勢の投資家が「消費者」という言葉を聞くと目をそらした。

われわれのプラットフォームは小規模なCPG(消費者向けパッケージ商品)の会社にのみ投資すると説明すると、投資家たちは居心地悪そうに身じろぎし、視線をあちこちにさまよわせたものだ。「エナジーバーなんか作っている会社はスケールするわけがない」、「ベビーフードではタカがしれている」といった懐疑的なコメントを何度も聞いた。傑作だったのは、「消費者向け商品を作っている会社の名前なんか一個も思い出せない」だった(あるベンチャーキャピタリストが本当にそう言った)。

今ではさすがに空気が変わっている。テクノロジー関連のニュースをブラウズすればGreylock PartnersがCPGスタートアップを賞賛している。Sequoiaのマイケル・モリッツは化粧品のCharlotte Tilburyの取締役に就任しているし、Lightspeed VenturesはVMG Paratnersと共同で中規模の消費者向け企業に投資している。

シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト間では、AI、ブロックチェーンと並んでテクノロジーを活用するCPGへの投資が確固としたトレンドになってきた。 CPG市場に流れ込むテクノロジー VCの投資額が急増している理由の一つは、VC間の競争が猛烈に激しいせいでもある。投資先が飽和ぎみのところにCPGには長年高い配当実績があり、中でも中小のメーカーが市場で好調なことに気づき、VCが殺到し始めたのだろう。

消費者向けプロダクトは市場が巨大だ。下のグラフを見てもわかるとおり、テクノロジー市場の3倍の規模がある。

市場の規模が大きいにもかかわらず、従来この分野へのアーリーステージの投資は低調だった。その原因はいくつもあるが、投資市場が非効率だったせいが大きい。 消費者向けブランドには地理的な偏りがあり、ブランドに関する組織的な情報提供システムの欠如している。消費者向け製品のシリコンバレーはないし、Crunchbaseのようなデータベースも今のところ整備されていない。

理論的には最近のVC投資はCPGにもVCにもwin-winの関係をもたらすはずだが、実際のVC投資は方向を間違えており、それどころか悪影響をもたらしている場合もある。投資家は金をを失うだけですむが、起業家は生涯をかけて築いてきた会社を失うことになる。

CPGスタートアップに投資する場合、投資家も起業家も共に益するような結果を求めるなら、留意すべき点がいくつかある。

この市場は「一人勝ち」にはならない

ベンチャーキャピタリストのCPG企業への投資における根本的な誤りは ある分野を1社が独占できると思いこんでいるところにある。これはテクノロジー市場の場合から類推しているわけだ。たしかにテクノロジーの場合、UberやAirbnbのように「一人勝ち」になることが多い。1社か2社がその市場のシェアの70%を占めることはよくある。しかしこれがCPG市場にもそのまま当てはまると思うなら、その推論には根本的な欠陥がある。

この5年から10年、ユニークで明確なターゲットを持ったプロダクトに消費者の好みは着実にシフトしてきた。現在はビールであれハンドローションであれ、消費者は嗜好を明確化するようになった。そのためブランドは特定のニッチ向けに細分化される傾向にある。したがってプロダクトの規模は以前より小さくなる。一方、巨大上場企業はニッチで成功を収めたスタートアップを急いで買収しようとする。PWCのレポートによれば、2017年におけるテクノロジー市場におけるM&Aは1700億ドルだったのに対し、消費者向けプロダクト市場とリテール市場におけるM&Aは$3000億ドルに上った。

マーケットのセグメント化が進み、小規模ないし中規模のブランドが多数生まれている中で、あるブランドのエナジーバーやベビーフードが市場の70%を獲得できるなどという幻想は捨てる必要がある。

企業価値の評価が高すぎたり、投資金額が大きすぎるのは有害

繰り返すが、CPGスタートアップに投資する際、「将来この市場を独占できる」と前提するのは非現実的なだけでなく、非生産的でもある。起業家はこの高すぎる評価額に追いつこうとして不自然かつ有害な行動に走りがちだ。おそらく次回の資金調達では評価額の引き下げを余儀なくされるだろうし、もっと悪いことに、素性怪しげな投資家でも構わず投資を募ろうとするかもしれない。起業家は会社の売却に必死になるが、はかばかしい結果は得られない…。現実のプロダクトが用意できていないスタートアップがインフレ評価額に押されて非現実的な成長を求めると、さらに苦境に陥るという悪循環に陥る。

UnileverがトレンディーなHonest Companyではなく、似たようなプロダクトを提供するSeventh Generationを買収した理由は関係者なら誰でも知っている。Honest Companyの会社評価額が高すぎたのが主な理由だ。ハリウッド・スターのジェシカ・アルバが創立したHonest Companyに投資したVCは会社の基本的な実績を無視して評価額をつけた。消費者向けパッケージ・プロダクトの会社はたとえ3000万ドルでも調達すべきではない。3億ドルなどもってのほかだ。その結果、Honest Companyは大企業による買収のチャンスを逃し、コスト削減を始めとするリストラを迫られるこになった。同社の将来に関して社員の間で不安が高まっているという。

一言でいって、CPG企業は成長のために巨額の資金を必要としない。そもそも、小資本で運営できるという点がCPGの美点だった。 消費者向けグッズのスタートアップが年間売上1000万ドルを目指すには400万ドルから800万ドル程度の資金で十分だ。これで十分利益を上げて会社を維持できる。テクノロジー企業が年間売上1000万ドルを達成するためには通常4000万ドルから5000万ドルの資金を必要とする。しかもそれだけの売上があっても利益を出せないことが始終だ。SkinnyPopRXBarSir Kensington’sNative Deodorantなどは着実に利益を出しているCGP企業の例だ。

優れたブランドを築くのは容易でない――しゃれたサイトを作ってD2Cを始めるよりはるかに複雑

昨年20人くらいののベンチャーキャピタリストが連絡してきて、「コンシューマー市場に投資したい。しかしテクノロジーを利用している企業でないとまずい。出資者にこのファンドはテクノロジー企業に投資する言ってあるのでね」という意味のことを言った。その結果が、VCはD2C〔Direct to Consumer = インターネット経由で消費者に直接販売する〕企業ばかりに高すぎる評価額で多すぎる金額を投資するようになった。

D2Cというのは一つの販売チャンネルではある。これはコンビニ( セブン・イレブンなどだ)や会員制販売(Costco)、スーパーマーケット((Walmart)、生鮮食品(Safeway)などがそれぞれ販売チャンネルであるのと同じことだ。当然D2Cにもメリット、デメリットがある。万能薬ではない。この分野に経験の浅いVCはよく「D2Cは流通コストが低い」というようなことを言う。しかし現実にはD2Cスタートアップは法外な会社評価額をベースにオフラインで同規模の営業をする会社と比較して10倍から30倍もの資金を集めている。D2C起業家にこのチャンネルはオフラインと比べて安上がりかどうか尋ねてみるとよい。この3年から5年、CAC(顧客獲得コスト)が急速に値上がりしたため、もはや安上がりではないという答えが返ってくるだろう。D2Cがそれほど安上がりなチャンネルなら、Bonobosが1.27億ドルDollar Shave Clubが1.64億ドルCaspeが2.4億ドルもの資金を集めねばならなかったのはなぜだろうか?

D2Cは一つのチャンネルだ。しかし消費者向けパッケージ製品(CPG)の販売で成功するために必要な基本が変わるわけではない。そのジャンルの利益率、チームの優秀さといった問題を別にすれば、ブランド価値、流通組織、プロダクトの差別化といった基本に戻ることになる。この中で差別化というのは必要な要素ではあるが、成功を保証するものではない。プロダクトはユニークであるだけでなく、それが消費者に利益をもたらすものでなければいけない。健康食品でいえば、Kind BarはClif Barより食べ物らしく見える。 エナジードリンクで長時間効果があるのは5 Hour Energy だ。低カロリー・アイスクリームなら「1箱食べても太らない」と主張するHalo Topがある。おかしなキャッチフレーズだと思うかもしれないが、どれも10億ドル企業であり、どれも同規模のテクノロジー・スタートアップにくらべて調達した資金額は非常に少ない。つまりシード投資家はその後のラウンドでの株式持ち分の希釈化を受けにくい。

これが将来の進路だと期待

消費者向けパッケージ製品は非常に大きな可能性を持った市場だ。巨大であり、無数のジャンルがある。投資家にとって有望なスタートアップを発見し、助ける可能性の宝庫だ。ベンチャー投資家がこの市場で成功したいなら、まず時間をかけて消費者市場の基本を理解しようと努める必要がある。そうした投資家が増えれば、優秀な起業家が適切な額とタイミングで資金を得ることができるようになるだろう。私は消費者市場でスタートアップの成功が相次ぐことを強く期待している。

画像:RAL Development Services/Davis Brody Bond

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

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