CRISPR-Cas3技術を応用したバクテリオファージを開発するLocus Biosciences

抗生物質耐性は、全世界の健康にとって今日最大の脅威である。しかし、Locus Biosciences(ローカス・バイオサイエンス)は同社のテクノロジーであるcrPhageが新たな解決策を提供すると期待している。

ノースカロライナ州のResearch Triangle(リサーチ・トライアングル)に拠点を置く同社は、CRISPR-Cas3-enhancedバクテリオファージの大腸菌に起因する尿路感染治療への利用に関する臨床試験がフェーズ1bで有望な結果を得られたことを発表した。元Patheon(パセオン)の幹部で現在LocusのCEOであるPaul Garofolo(ポール・ガロフォロ)氏らの指揮の下、同スタートアップは2015年、CRISPR技術のあまり知られていない応用による、増大する抗菌薬耐性への取り組みを目標に設立された。

CRISPR-Cas3技術は、よく知られているCRISPR-Cas9とは機序が大きく異なる。Cas9酵素にはDNAをはさみのようにきれいに切り離す能力があるのに対し、Cas3はどちらかというとパックマンのように、ストランドに沿って動きながらDNAを切り刻んでいく、とガロフォロ氏は説明する。

「これまで使われていたほとんどの編集プラットフォームでは、これを使うことができません」と彼は述べ、それはCas3を巡る競争があまりないという意味だと付け加えた。「だからしばらくの間保護されていて、秘密にしておくことができると知っていました」。

ガロフォロ氏率いるチームは、CRISPR-Cas3を人体内の有害バクテリアの編集に使うのではなく、破壊するために使いたいと思っている。そのために、Cas3のDNA破断機構に注目し、他の細菌を攻撃して破壊するウイルスであるバクテリオファージを強化するために使った。共同ファウンダーで最高科学責任者のDave Ousterout(デイブ・オウスターアウト)氏(デューク大学で生物医学の博士号を取得している)も、このテクノロジーがバクテリアを破壊する著しく直接的で目標を定めた方法をもたらすと考えている。

「大腸菌を攻撃するこのCas3システムと、その結果得られる二重の作用機序で強化することによって、私たちはバクテリオファージを、実質的に大腸菌のみを除去する極めて強力な手段に作り上げました」。

その特異性は、抗生物質に欠けているものの1つだ。抗生物質は体内の有害な細菌だけを標的とするのではなく、出会った細菌すべてを死滅させる。「私たちは抗生物質を服用する際、良い細菌の影響を受けている体の別の部分について考えていませんでした」とガロフォロ氏は語った。しかしLocus BioscienceのcrPhage技術の精度の高さは、標的となる細菌のみが消滅し、人体の正常機能に必要な細菌は影響を受けないことを意味している。

この特異性の高いアプローチが病原体やあらゆる細菌による疾患に有効であるばかりでなく、ガロフォロ氏らは自分たち方法が極めて安全なのではないかと感じている。細菌にとっては致命的だが通常バクテリオファージは人体には無害だ。体内でのCRISPRの安全性もすでに確立している。

「それが私たちの秘伝のソースです」とガロフォロ氏は述べた。「これで、置き換えようとしている抗生物質よりも強力な薬品を作ることが可能になり、しかもファージという人体に何かを投与する方法として世界一安全とも言えるものを使うのです」。

この新技術が病原体や感染症の治療に役立つことは間違いないが、ガロフォロ氏は、免疫学、腫瘍学、神経学なども恩恵を受けることを願っている。「 ある種の細菌が胃腸のがんや炎症を促進することがわかってきました」と彼は語った。もし、研究者が症状の根本原因である細菌を特定できれば、crPhage技術が効果的治療法になる可能性がある、とガロフォロ氏とオウスターアウト氏は考えている。

「もしこの件について私たちが正しければ、感染症や抗菌薬耐性だけでなく、がんの克服や認知症の発病遅延にも役立てることができます」とガロフォロ氏はいう。「私たちが生きるために細菌がどのように役立っているかという考えが変わろうとしています」。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Locus BiosciencesCRISPR医療

画像クレジット:KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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