Dropboxがエンタープライズ向けのコラボスペースとして再始動

Dropboxはファイルストレージシステムから、チームで協調して仕事をするためのエンタープライズ向けソフトウェアポータルへと進化しつつある。米国時間6月11日、同社はDropboxの新バージョンを公開した。G Suiteなどのアプリをショートカットで起動できるほか、Slackのメッセージを送信したりZoomのビデオコールをしたりする機能も搭載されている。デバイス上とエンタープライズのツール内のすべてのファイルを検索したり、コミュニケーションをとりチームの仕事にコメントを付けることもできる。ファイルに付けたTo Doリストにメモを追加したり同僚をタグ付けしたりする機能もあり、Dropboxはタスクマネージャーにもなろうとしている。

新しいDropboxは米国時間6月11日に、40万チーム、1300万人のすべてのビジネスユーザーに加え、コンシューマーユーザーにも公開された。ユーザーはここから先行アクセスに申し込むことができる。企業の場合は管理パネルで先行アクセスを有効にする。同社CEOのDrew Houston氏はミッションステートメントで「もっと素晴らしい働き方をデザインするために、我々はやり方を変える」と述べている。

Dropboxは、ファイルストレージのビジネス自体は終焉を迎えつつあると認めたようだ。ストレージの価格は下落し、どのアプリでも専用のストレージシステムを追加できる。Dropboxはエンタープライズ向けのスタックへと進化し、ほかのツールを開いてまとめるポータルになる必要があった。エンタープライズのコーディネーションレイヤーになることは賢明な戦略だ。Slackは自社でそうしたレイヤーを構築するのではなく、連携することを選んだようだ。

今回のアップデートの一環として、Dropboxは全ユーザーを対象とした新しいデスクトップアプリを提供している。これによりmacOSやWindowsのファイルシステムの中で動作する必要がなくなる。ファイルをクリックするとプレビューを見ることができるほか、そのファイルを誰が見たか、誰がいま見ているか、誰がアクセス権を持っているかのデータを表示することができる。

今回のリリースはSlackと深く統合されているため、Dropbox内でファイルにコメントを付けられる。Zoomとも統合されていて、ワークスペースを離れずにビデオチャットができる。Webとエンタープライズアプリのショートカットを活用すれば、さまざまなツールをタブで聞きっぱなしにしておく必要がなくなる。検索ツールも改良され、コンピュータのファイルシステムとほかの生産性向上アプリのクラウドストレージをすべて探せる。

しかし今回の変更で最も重要なのは、Dropboxがタスクマネジメントアプリになろうとしていることだ。ひとつひとつのファイルには、説明、ToDoリスト、タスクを割り当てるための同僚のタグが記録される。ファイルごとのアクティビティフィードには同僚からのコメントとアクションが表示されるため、GoogleドキュメントやSlackのチャンネルで別途共同作業をする必要はない。

連携する相手(SlackとZoom)と真似する相手(Asana)をどのように決めたかについて問われたビジネス部門担当副社長のBliiy Blau氏は基本的には返答を避けたが、Dropboxのパートナーの「共有の精神」を引き合いに出した。

サンフランシスコで開催された発表イベントの冒頭、Houston氏は、社員のコンピュータとクラウドに散らばっている企業の知識よりも公開されている情報のほうが見つけやすいと指摘した。コンピュータの「Finder」はポストダウンロード時代に対応した進化を遂げていない。Houston氏は、オフィスで仕事をしている時間のうち60%は、仕事そのものではなく整理やコミュニケーションといった仕事のための仕事に費やされていると説明した。これはタスクマネジメントのスタートアップ、Asanaがよく使うマーケティングの視点だ。DropboxはAsanaとこれからさらに直接戦っていくことになる。Dropboxは「我々はこうしたあらゆる『仕事のための仕事』をこなすお手伝いをしていく」としている。一方のAsanaは2013年以来、核となるメッセージとしてこのフレーズを使い続けている。

Dropboxはクラウドのためのファイルツリー、Finder、デスクトップを目指している。問題は、コメントやタスクを付けたファイルが常に仕事の中心的な単位なのか、あるいは注目すべきものはファイルが添付されたタスクやプロジェクトであるべきなのかだ。

Dropboxはコンピュータのデスクトップやブラウザに代わるワークスペースであると考えられるようにチームをトレーニングするには、しっかりした導入と粘り強さが必要だろう。しかし、もしDropboxがアイデンティティとなり、ばらばらのエンタープライズソフトウェアを結びつけるコラボレーションレイヤーになれるなら、ファイルストレージは生き延び、新しいオフィスツールが登場しても意義のあるものであり続けるかもしれない。

[原文へ]

(翻訳:Kaori Koyama)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。